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ツツジの匂いと子供時代

4月から庭のツツジがあちこちで咲き始め、そろそろ満開だ。

ツツジの花に顔を近付けると独特のいい匂いが漂ってくる。あんまりいい匂いだから、しばらくのあいだ鼻をくんくんさせている。

あまり近付きすぎると、先客のミツバチやクモと接触するのでほどほどにする。

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ツツジの匂いを嗅いで思い出すのは、小学生の頃まで暮らしていたマンションだ。

私たちの部屋は1階で、運よく広めの庭が付いていた。今思うとそんなに広くはなかったのかもしれないけれど、小学生の目には十分広く映っていた。

その庭にはツツジがいっぱい植わっていた。春になると毎年きれいな花を咲かせた。

母は自然豊かな場所で生まれ育った人で、ツツジの花の蜜の吸い方を教えてくれた。花を摘んで、ひっくり返して、根本を吸うんだよと言っていた。ツツジの花の蜜は甘く、とても美味しかった。

ツツジが咲くこの庭で、私は自分の秘密基地を作っていた。

秘密基地といってもそんなに立派なものではなく、草に囲まれた大きな木の下に子供一人か二人が入れるスペースがあるだけの空間だった。

まだ上背がなかった当時、草木にすっぽりと囲まれたそれだけの空間で、十分に秘密基地のようなワクワク感が得られた。友達が遊びに来たら、こっそりと秘密基地に案内した。

思えば子供時代は些細なことでもいろいろとワクワクした。

庭に見つけた小さな秘密基地もそのうちの一つだろう。その空間があるだけで庭に出るのがドキドキしたし、今でもそのときの感情を覚えているのだから不思議だ。

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そういえば室内にも秘密基地を持っていた。浮き輪のような素材で、空気を入れて膨らむ大きな背もたれのある椅子だった。海に浮かべればそのまま浮いていそうな感じ。

子供が座るとすっぽりと全身が隠れるくらい大きな背もたれで、その感じがたまらなく好きだった。そのデカさに感動した自分は、そこへ毛布を掛けて屋根を作った。それが室内版の秘密基地であった。

この頃の感性に戻りたいとまでは言わないけれど、とにかく見るもの全てにワクワクした感覚は懐かしいし羨ましいと思う。単純に毎日が楽しかった。

目の前のことにいちいち興奮してのめり込む感覚。

大人になれば、何をやっても見ても聞いても退屈だと感じる瞬間は少なからず経験するだろう。風呂場でふと退屈(と思う)日々を振り返り、何かワクワクすることないかな、と無意識に探していたりするものだ。

その点、子供時代に無性に湧いてきたワクワクする気持ちはとても面白かった。

そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。