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地域の未来を変えることができるかもしれない。まちづくりを通して考えるデザインの持つ力|株式会社イツノマ代表中川敬文さん【後編】

SKGは設立当初から全国でまちづくりを手掛けるUDS株式会社の事業にデザインで関わってきました。今回お話をお伺いするのは、前UDS代表で現在は株式会社イツノマの代表として宮崎県都農町を拠点にまちづくりの活動をしている中川敬文さん。

SKGがロゴやサインのデザインを担当した書店・喫茶店・仕事場の複合施設「神保町ブックセンター with Iwanami Books」で再会が叶いました。

後編は宮崎県都農町に移住した中川さんから都農町のまちづくりの活動を通して、ロゴの大切さや、まちづくりにデザインが関わる未来についてお話していただきます。

中川 敬文(なかがわ けいぶん)/​​ 株式会社イツノマ代表
東京都文京区出身。関西に興味があり関西学院大学に。
新卒で株式会社ポーラ、1年9ヶ月でコンサルティング会社転職。26歳で新潟県上越市に家族で移住、地元のデベロッパーで商業施設を開発。
30・40代はUDS株式会社の経営、全国のまちづくりをお手伝い。
2020年3月、UDSの社長を退任、宮崎県都農町に単身移住。株式会社イツノマ起業、都農町のまちづくりをはじめる。

ロゴはセールスツール。人と出会うときに自分のストーリーを表現したい。

中川:都農町に移住して感じましたが、 いまは一般の人がデザインを知る機会が増えましたよね。20歳でイツノマ3年目のメンバーは当たり前のようにデザイン提案をします。

中学校の授業では、地域新電力会社のロゴデザインを考えてもらったんですが、中学生がみんなタブレットで検索しながら自分の好きなデザインを提案してくれました。

都農町の中学生がロゴデザインを考えている様子

このような日本の一億総デザイナー化がデザイナーの地位を上げましたよね。日本総体のデザインレベルが向上したことにより、良いデザインをする人の知名度はより高まったと思います。

助川:佐藤可士和さんに代表されるような方々がグラフィックデザインやブランディングでデザインの切り口や裾野を広げてくれたので、デザイナーの仕事の幅や分野も広がりました。だからこそ、中川さんのような経営理念をロゴに昇華することを大切にしてくれる経営者の方はとてもありがたい存在です。

中川:そういう人は増えている実感はあります。例えば僕の会社の名前は「イツノマ」ですが、パッと思いつくのは「都農◯◯」みたいな社名ですよね。ただ、そうすると都農町以外での活動イメージが湧かなくなってしまう。

そこで、「いつの間に?」と思ってもらえるようなまちづくりに必要なスピード感、黒子感、自然体の基本スタンスを表し、今の時代の真ん中に「都農」があるというふたつの意味で「イツノマ」と名付けました。そしてデザイナーには社名に込めた意味を一目で分かるようなロゴにして欲しいとお願いをしました。

やはり人と出会うときに会社のストーリーを表現したい。ぽんっとそのロゴを出せば、5分間お話ができるようなロゴを作りたいと思います。

株式会社イツノマ ロゴ

助川:なるほど、ストーリーを語れるロゴですね。

中川:僕はいままですべてのロゴを「会社のストーリーを語れるように」とデザイナーにお願いしています。最初のちょっとした会話で自分のことをお話できるための種まきという意味で、素晴らしいセールスツールでもあります。

助川:そうですよね。コミュニケーションのきっかけになるべきツールだと思います。僕が企業のブランディングに携わるときに伝えているのは、ブランドは「人」であるということ。

その人の顔がロゴで、経営理念や熱い想いがハート。その熱い想いが顔からにじみ出てロゴにも現れます。中川さんが「会社のストーリーを語れるように」とおっしゃるのはまさに僕も同じ考えです。

中川:やはりロゴが重要。名は体を現すということですよね。場づくりにおいても内装とインテリアよりもロゴが先にあるというのが正しい順番ですよね。

「感情」と「機能」と最後はデザイナーが押してくれるというバランス

– 中川さんはとてもロゴにこだわりがあるなかで、助川さんとはプロジェクトを5つほどご一緒しています。リピートしてしまう理由はどんなところですか。

中川:やはり論理を分かっていただけるからです。論理とセンスの両方を持っているデザイナーは多くないと思います。

ちょうどいま、知り合いの設計事務所に頼み、僕の自宅を4世代住宅で設計しています。先日、設計事務所から内装の図を見せてもらい、家族全員が拍手をして大喜びしました。85歳の母と僕の妻のような素人にも「感情」と「機能」を同時に攻めてくるのが上手なんです。

デザインの力はやはり「感情」と「機能」の両方がないと、一般の人の心も掴めないと思います。

中川:あと、助川さんのいいところは「良い!」と自信を持ってデザイン案を出してくれることですね。最後は僕たちは素人なのでわかりません。どこに出しても大丈夫か、Webや紙印刷でどうなるかは専門的な世界で分からない部分も多いです。

そういう不安があるなかで助川さんが「これでしょう!」と出してくれると安心しますよね。やはり「感情」と「機能」と最後はデザイナーとして一押しを提案してくれるバランス感に優れていると感じます。

子供たちとまちづくりをしたい。中川さんが語る都農町のいま。

– 中川さんの今後についてもお聞かせください。

中川:僕がやりたいことは都農町の小中学生によるまちづくりです。いま、都農町の中学校で毎週授業をしています。総合学習でゼロカーボンについて教えていて、去年は学生たちと300個のアイデアを出して、都農町がそれをきっかけにゼロカーボンタウン宣言を出しました。

そして、今年は世界進出をしたいと思って、ソーシャルグッドなアイデアを集めたオンラインマガジン「IDEAS FOR GOOD」のオランダ、イギリス、フランス、ドイツの4ヶ国にいる編集者がZoomで中学生に直接授業をして、彼らの国のサーキュラーエコノミーの最新事例をいろいろ教えてもらいました。

僕がこの授業で伝えたいことは2つあり、オランダ、イギリスのサーキュラーエコノミーには稼ぐ仕組みがあり、デザインがかっこいいということ。

オランダは昔から多様な宗教で混沌としていて、国のなかの仕組みを理解するためには、デザインを使うしかなかった。イギリスも植民地大国で、世界中の人が移住しているから言葉が通じない、だからデザインで語るしかない。

やはり言葉で通じないときはデザインが助けになる。そう考えると、都農弁が公用語で親の代はみんなが知り合いの都農町にはデザインが少なくて当たり前なんです。

しかし、これから都農町が人口1万人まで減少していくとすれば、移住者や海外との繋がりを増やすしかないわけです。だから、デザインがことさら大事になってくる。

タブレットを使って学習

助川:確かに都農弁で町の人たちの会話が十分に伝わるならばデザインの重要性は低いかもしれません。デザインは広義にも狭義にも捉えることができますが、中川さんは両方をおっしゃっていますよね。

仕組みを広義のデザインだとしたら、狭義のデザインは色や形といった伝え方。授業で扱われているオランダやイギリスの事例は仕組みも伝え方もきっとかっこいいのでしょう。

かっこいいと周りに伝わる速度も早いですし、それを知った町の外の人たちもまた次へと伝えたくなる。一方で町の住人は自分達に対する自信や誇りにつながりますよね。デザインの役割は伝達と誇りの意味でも大事だと思います。

中川:都農町で活動を初めて嬉しかったことが、都農町の中学の美術の先生が「生徒たちと町内の事業所のロゴを作りたい」と提案してくれたことです。

「中川さん、10事業所くらいロゴを作りたいから事業所を集めて欲しい」と言われて、今とてもモチベーションが上がっています。イツノマでWebサイトを作った都農町立病院もロゴがないから作って欲しいと手をあげてくれています。中学生が出した案を美術の先生が調整して企業に提案していく。これが自分の理想としていたことですね。

助川:良いですね!ロゴの重要性にも気付くでしょうし、素晴らしい活動です。

中川:子供たちがデザインに挑戦してみて、その評価を受けることで、ひょっとしたら都農町から助川さんのようなデザイナーが生まれるかもしれない。それはすごい面白いことだなと思っています。

助川:ぜひデザインの面白さを体感していただき、都農町にさらなる誇りを持ってほしいです。

大人と子どもが混ざり合って対話をする様子

中川:リベラルアーツのような教科を超えた内容が社会では役に立つことが多い。デザインという授業があってもいいのかなと思います。

助川:佐藤卓さんが「デザインあ」といったテレビ番組や企画展等を通じて身の回りにデザインがたくさんあることを子供を含めて一般の方に広めようとされていますよね。教科を超えたデザイン授業でも、広義にデザインを捉える人が多くなると良いなと思います。

僕も、まだまだ恐れ多いのですが、デザインの敷居を下げる活動の助けになりたいものです。

デザインで点を打ち、波紋を広げていく

中川:助川さんとこうやって再会し、ご一緒した仕事を振り返ったり、デザインの話ができてとても楽しかったです。ぜひ都農町にも遊びに来ていただいて、またたくさん語り合いたいですし、都農町の若者とも交流して欲しいです。

助川:都内近郊でデザインの仕事をしていると、身の回りにデザインが溢れていることが当たり前のようになってしまいます。ですが、地方を訪れたときに町の人たちとの会話のなかで、デザインの重要性が低く、もっと大事なものが他にあるのかもしれないと感じたことがあります。

でも今回、中川さんにお話を伺うことができ、その思いは一変しました。中川さんはデザインの重要性を理解して日々活動されており、まちづくりの文脈でもデザインがしっかりと機能するということを実践されていて、恐れ多くもとても嬉しくなりました。

以前、UDSさんと仕事をしているときに、「点を打って、それが波紋のように広がる、そんな仕事をしている」という言葉が出たことを思い出しました。まちづくりの考え方を表現した言葉ですが、この点を打つことをデザインし、そのデザインが良いと波紋の広がるスピードが早いのかもしれません。

そんな広がり方を意識した点の打ち方というデザインがまちづくりの文脈でとても重要だということを改めて実感しました。中川さん、ありがとうございました。次はぜひ、都農町でお会いしましょう!

都心で暮らしているとロゴやサインが当たり前にあり、その役割について深く考えることも少なく生活に馴染んでいます。しかし、地域のまちづくりの視点を通してデザインの役割を考えてみると、改めてデザインの持つ力はこの先の日本の未来を変えることができるかもしれません。

SKGはご依頼いただき作ったデザインが、その場所だけに留まることなく、社会やこの先の未来に広がるように取り組んでいます。

今回の対談の中でSKGのブランディングについてお話しておりますが、SKGのnoteに「ブランディングを人に例えてみると。」があります。こちらのnoteではさらにSKGのブランディングについて書いてありますので、ぜひご覧ください。

✍️SKG株式会社
2014年設立。「デザインで、本当の助けに。」をミッションに掲げ、クライアントが抱える課題をデザインの力で根本的に解決することに取り組んでいます。ブランディングデザインをはじめ、クライアントの事業やサービスの競争力を高める様々な制作物をデザイン。課題の本質を探り当てる、クライアントの本心に迫るコミュニケーションを大切にしています。
https://s-k-g.net/

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