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「お客さんから見たらみんな阪急さん」 阪急の味ブランディングプロジェクト | エイチ・ツー・オー松元努さん#1

関西を中心に展開されているスーパー、阪急オアシスのプライベートブランド「阪急の味」
https://www.hankyu-oasis.com/originalitem.html

2014年に実施されたパッケージデザインのリニューアルに、SKGは携わらせていただいております。
当時デザインリニューアルを含む、ブランディング全体を取り仕切られていた松元さんにお話を伺うことができました。

松元努さん
株式会社エイチ・ツー・オー 食品グループ
取締役専務執行役員
SM事業 商品グループ長 兼 店舗開発部長 兼 MD計画部長

1988年(株)阪急百貨店に入社。タイ、バンコクでの駐在を経て経営政策室に配属。食品の宅配事業「阪急キッチンエール」取締役、スーパー「阪急ファミリーストア」社長、(株)阪食(現(株)阪急オアシス)取締役を歴任。PBのリブランディングや「キッチン&マーケット」の企画開発を手がける。


20年前に言われた「お客さんに近づいていけ」

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—本日はお忙しい中お時間ちょうだいし、ありがとうございます。松元さんにはじっくりお話を伺いたいなと、かねてより思っていたので、本当にうれしく楽しみに思っておりました。よろしくお願いいたします。

さっそくですが、私たちがご一緒させていただいたプライベートブランド「阪急の味」パッケージデザインリニューアルについてお伺いします。このプライベートブランドのブランディングについてはいつ頃から考えていらしたのですか?

松元 今から20年前、2000年当時、百貨店のトップに言われたのが、「阪急としては、これからはお客様に百貨店来てもらうだけでなくて、お客さんのところに行かないとダメだ」。その方法の1つはスーパーだと。
私はその時30半ばで、「これからはお客さんに近づいて行かなければいけない。宅配を考えろ」と言われました。
私が担当していた宅配事業が単月黒字を出した翌年度、千野の下でスーパーに関わることになります。

―千野さんは阪急オアシス前会長ですね。

松元 はい、そうです。
2008年頃ですかね。ポジショニングを考えようという話があって、その時にブランディングの話がグループの中で上がったのが最初です。
いつもぜいたくとかいつも安物ではなく、阪急のお客さんは賢い買い物をされる人がデータ上多いなというのもあったので、これに対して答えが出るか、みたいな話をしました。「阪急ブランドの日常化」をテーマにしようか、などですね。

—その後、2013年頃から、PB商品のパッケージをリニューアルするプロジェクトが動き始めます。SKGは2014年、プロジェクトが動いている途中からの参画となりました。リニューアルは何かのタイミングに合わせようという設定がありましたか?

松元 そうですね、ありました。箕面船場店という店のオープンに間に合わせる、というものでしたね。一部商品にはなりますが、その店のオープンのタイミングで出そうと考えていました。


お客さんから見たらみんな阪急さん


—新PB「阪急の味」のブランドステートメントや「阪急の味」という言葉は先行して固まっていました。

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松元 「阪急の味」、このフォントとカラーはチームの希望として出させていただきました。昔からの阪急電車のフォントと、このカラーが阪急カラーなんですよね。

—阪急電車のボディカラーで、「阪急マルーン」と呼ばれていますね。

松元 このブランディングプロジェクトで一番大変だったのは、阪急オアシスだけで決められないということだったんです。「阪急」というブランドを使うためには、阪急阪神ホールディングスも含めたグループ各社の承認が必要です。それをひとつひとつクリアしていきました。
そのハードルは高いけど、この色とこの書体は使うんだ、百貨店でもキッチンエールでも取り扱ってもらうんだ、というのが考え方のベースだったんです。

—キッチンエールは松元さんが担当された宅配サービスですね。

松元 はい。事業者側からすると、電車だ、百貨店だ、旅行社だってはっきり分かれているんですね。でもそれは事業者側の話であって、お客さんから見たら全然関係ない話なんです。
私がおもしろいなと思ったのは、阪急百貨店にいた時、旅行事業に関する問い合わせの電話なども百貨店にかかってきていたことです。
お客さんから「阪急さん、阪急さん」と呼んでいただけるのはすごくありがたいです。だからこそ、私は絶対阪急のフォントもカラーも使いたかったんですよ。

—その阪急のフォントとマルーンカラーを使ったマークをSKGからご提案、ご採用いただきました。一方で、和の商品にはこれでは合わないだろうと、縦書きも用意しましょうよと、ご提案させていただきました。


和の商品で生じた課題

—もともと、ブランドコンセプトに合わせたイラストを用いたパッケージデザインが進行していました。その途中でストップがかかりましたね。

松元 どうしてもPB (プライベートブランド)のラインが日配品なんですよ。おそばとかお豆腐とかですね。
加工食品、グロッサリーとよく言いますけど、飲料とか缶詰はどっちかっていうと洋系というか横書き系が多い。PBは和系の食品がウェイトを占めがちなんです。
先にブランディングイメージの中で牧場と海のイラストが出てきまして。それをパッケージに展開してみた時に、確かに牛乳やチーズには合うけど、やっぱり豆腐、うどんは難しいな、みたいな話は千野との間でも出ていました。

—その時に私が提案させていただいたのが、「千野会長に直接お話を聞けませんか」というものでした。
そして実際、お目にかかってお話を伺いましたよね。その際、「デザインを抜本的に変えた方がいいんじゃないですか」っていうお話を私からさせてもらったら、私の父よりも年上の会長が私の目を見て、「分かった、そんなに言うんだったら変えようじゃないか」と言ってくださったんです。

松元 はい、やっぱりその場にいたみなさんが助川さんの話を聞いて、真剣に考えていただいているというのはもう、瞬間で分かったと思うんですよ。そこだけは千野も自分で確認したかったっていうのはあるかと思います。
我々の「困ったな」というところをビシッと指摘していただいて、あそこまで立ち返っていただいた。自分がいなくなってもPBは続くわけですから。本質論だったので、どちらかというと我々が決断する部分でした。
千野も「上申のスケジュールは、なんとか考えよう」みたいな感覚だったと思います。

—そのご判断がとても頼もしく、ありがたかったです。


ターニングポイント


松元 その後すぐに新しいデザインを出していただけたんですよね。

—船場店のオープンに間に合わなくてもいいと千野会長がその場で決断されて、私は帰って1〜2週間で新しい案を作らせていただきました。
すでにあったブランドステートメントからコンセプトを抽出して、「お店・お客さま・生産者が一体となったライブ感あふれる市場」、「海と大地と地域がひとつながりに」、このあたりをキーワードに三つ巴を用いてデザインしました。

松元 これは汎用性も高いし、シンプルにイメージを出しやすいし。特に和日配は透明で、うどんのように中の商品が見えるようになっているわけですよね。この時に、デザインが勝ちすぎるとちょっと難しいな、といった部分も解決できていました。
新しく考えていただいたデザインの、この丸のところですね。曲線は阪急沿線にすごく合うと思っているんですよ。電車見ていただいても分かりますけど、あんまり角が立ってないんですね。
北摂の方は穏やかな方が多いんですよ。私も生まれたのも育ちもずっと今も阪急沿線ですけど。売り場もできるだけ三角の角を取っていますし、やっぱりとがった角がお客さんに向いてる、刺さる、みたいなところはすごく気になる方でした。

印刷も阪急マルーンは除いて、大体1色ベースでのデザインになっていますよね。
あと商品を並べると、2フェース、3フェースとつながるんですよ。つながるというのはキーワードにしていましたから、やっぱり本質に立ち戻っていろいろ議論をした中で、何回か大阪で店頭も見ていただいた中で、いいものを出していただいたなというふうに思いました。
商品部の反応も良かったですし、お客さんはすっと取ってくれるところがあるのかなって思っています。

—ありがとうございます。
印刷コストのことも考え、旧パッケージと色数は同じか、少なくなるように工夫しています。


なじむ阪急の味


—もやもやしたことは聞きたいなとこちらが思った部分と、皆さんが迷われていた部分がガチッと合ったのかなと思いました。

松元 その後のことを思い出していただけたらと思うんですけど、我々にとってうれしかったのは、その後もちょこちょこうちの人間がいろいろお願いさせてもらったことです。今こうやってご縁を続けさせていただいているのも、このPBのデザインのことがあったからこそかなと。
我々にとってはインパクトあるターニングポイントであったかなと思います。

—そんな風に言っていただいて、これ以上ない喜びです。ありがとうございます。私たちにとっても松元さんとのお仕事は非常に大きなできごとで、我々のあり方、行動指針の方向性を定めるきっかけとなりました。
ちなみに、松元さんや松元さんご家族がお気に入りの「阪急の味」はありますか?

松元 私、毎日「阪急の味」の商品を飲んだり食べたりしているので、完全になじんでしまっていると言うか。でもちょっとした違和感は長くなればなるほどたまっていきますので、だからなじんだということに関して、すごくうれしく思っていますね。


次回へ続く。
次回はキッチン&マーケットブランディングプロジェクトについて伺います。

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