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キューバ旅行。広告のない街で感じた人々の持つ光

2019年5月。5泊7日のキューバひとり旅の話。

景色が変わる前に

旅先を考えるとき、いつも頭を過ぎっていたのが、海外旅行好きの人たちに、「アメリカと国交正常化したら、街並みが変わってしまうから早く行ったほうが良いよ!」とよくオススメされていた国、キューバ。

東京で暮らしていて、物質的に豊かでも、幸せだと胸を張って言えないことに対するモヤモヤを抱え、世界一幸せな国と言われるブータンにヒントを求めた2017年の旅。

この旅を経て、欲張らないシンプルライフが幸せの秘訣なんだな、と思ったけれど、東京に帰ってきて、大量生産・大量消費の社会からは逃げられない。SNSなどで溢れる情報や煽られる消費に翻弄される。
「私が今何かを欲しいと思っているこの気持ちはどこから湧いてきているのだろう」「広告がなければ、そんな衝動にすらならないのだろうか」「マックもスタバもなく、商品を宣伝する看板や広告もなくて、ネットも限られた場所でしか出来なくて、クラシックカーが今も走っている国の人々の生活ってどんなだろう。」
と、なんだか行きすぎた資本主義の社会構造への疑問が生まれ、経済制裁によりモノがなく貧しいと言われる社会主義のキューバで生きる人々を見たくなっていた。

旅好きの人からのオススメと、こんな心情が重なり、決めたキューバ旅行。

時が止まったようなハバナの街

カナダのトロント経由で夜中のハバナ空港に到着。外灯も少なく真っ暗な道を進み、宿泊するホテルに到着。その日は寝るだけ。部屋のシャワーのお湯は出なかった。

翌朝、ホテルの薄暗い朝食会場で朝ごはん。バイキングは何を取っても今までの人生で食べたものの中で一番くらいマズい。パンがカサカサで硬くて、シリアルは湿気でぐにゃぐにゃ。味付け以前の問題だ。
ガイドさんを待っていたロビーのソファはボロボロで、中のクッションが飛び出ていた。
貧しい国なんだな〜・・・と早速色んな場面で感じていた。

やってきたガイドさんは24歳のクリクリの目の可愛い顔をしたジェンくん。ハバナ大学と八王子で日本語を勉強したらしく、訛りもなくとても上手な日本語を話す。
ホテルの外に出るとものすごい日差し。真っ青な空。
道を渡って振り返ると、薄暗く古臭い内装や、お湯のでないシャワーを想像できないほどの立派な外観のホテルだった。

宿泊したハバナのホテル(テレグラフォ)

この日は、革命広場、カテドラル、マレコン通り、カバーニャ要塞、ラム酒博物館、葉巻のお店、などのハバナ観光へ。

カバーニャ要塞。韓国ドラマ「ボーイフレンド」のロケ地
カラフルなクラシックカー
ボロボロの建物だらけ
お店には限られたものしかない。ガラスケースの中はほぼ空っぽ

お昼ご飯は、ガイドさんとドライバーさんと3人でテーブルを囲んだ。
「キューバ人は顔よりおしりとか見る」とか「彼女できたらその人だけだけど、みんなたくさん声掛けるから、遊ぶだけの関係の人は複数いるのが普通」とか、キューバの若者の恋愛事情を教えてもらったり、日本に行ったことがないドライバーさんに「日本にSAMURAIはいるか?」と聞かれたり。
経済制裁されてるのは知ってるけど、そんなに情報入ってきてないの?笑。
(日本といえば、黒澤明の「7人の侍」のイメージらしい)

クラシックカーを代々持っていたら、観光用にして副業も出来るけど、誰しもがそうできるわけではないので、「副業しないと暮らせないから社会主義で幸せとは思ってない。」と言っていた。
社会主義と資本主義、バランスよく取り入れられる未来をハバナの若者は望んでいるのかもしれない。

ヘミングウェイが通ったラ・ボデギータ・デル・メディオでランチ
革命広場

オードリーのANNのリスナーの私は、夜ご飯は若林さんのエッセーに出てきたお店を予約してもらった。ガイドさんは、「日本人がみんなワカバヤシの店に行きたがるけど、ワカバヤシが誰なのか僕は分からない」と言っていたので「Youtubeで見てみて!」と宣伝しておいた。

パンがパサパサなのはキューバではデフォなのかも?ロブスターとモヒートは美味しかった!

オードリー若林さんが訪れたモデナクバーナ

夜ごはんの後はホテルまで歩いて帰った。日中は灼熱だけど、夕方にスコールが降ってすぐに止み、夜は風がとても気持ち良かった。
ボロボロの建物ばかりの旧市街は、古き良き姿を残して時が止まったノスタルジックさ、というより、突然置いていかれて廃墟になってしまった退廃的な雰囲気がする。そんな街並みであれば、怖くて危険な感じがしても良いのに、安全な感じがするのがなんだか不思議だった。観光地として賑やかなのもあるかもしれないが、古びた街の中に人々の生活を感じられたことも大きいと思う。玄関先で談笑する人、屋上で寝ている人、バルコニーから顔を出して会話する人。それが不思議な安心感に繋がっていた気がする。

ハバナでは、1時間だけ使えるwifiカードを買って、限られたwifiが出来るスポットに行ってネットに接続する。旅行前まで、ネットが常時接続できない国に来ることへの不安があったけれど、「さてネットやるぞ」と集中できるのは良かった。
日本はスマホを見て下を向いている人ばかりだけど、ハバナで街を歩いていると、スマホも持たずにただぼーっとしていたり、真っ直ぐ前を向いて歩いている人が多い。

デジタルデトックスの旅

翌日は7:30発で4都市1泊ツアーへ。
シエンフエゴス、トリニダ、サンティスピリッツ、サンタクララを巡る。

インド、ドバイ、スペインから来たカップルや夫婦の中、日本人1人参加。
ハバナを抜けるとひたすら草原。
走行中、対向車もいないし信号もないし見渡す限り車もなし。
バナナ、 柑橘系の果物の木、あとは一面サトウキビ畑。

日本人のツアーって集合時間の前にバスに戻ってることが割と普通になってるけど、今回のツアーはみんな比較的のんびり。集合時間に戻っても、ガイドさんもドライバーさんも、ツアー客誰も来ないし、遅れてても走って戻ったりしない。
遅れて戻ってきたガイドさんの第一声が「友達がたくさんいたの!」ってありえなさすぎて笑ってしまった。旅先だからか、キューバだからか、のんびりしてていいなーという気持ち。
汚いのも、不味いのも、遅いのも、多少の不便は気にしていても仕方ない。

トリニダの街

トリニダの街はカラフルで可愛かった。日中は今まで体験した中で一番の灼熱。しかし、その日のホテルの部屋は冷蔵庫のように寒くて、空調が調整できず、バスタオルやフェイスタオル等、部屋にあるもの全てにくるまって寝た。風邪引かなくて良かった。。

サンタクララのチェゲバラ霊廟は、地下にあり、とても静かで、荷物持ち込み禁止、撮影禁止の厳戒態勢。写真や映像からは伝わらないもの、ここまで来ないと分からない空気を感じられたのがとても良かった。

ハバナを出ると、Wifiスポットも殆どなく、2日間のデジタルデトックス。ネットが使えないから頭で色々考えた。

灼熱の太陽の下でサンタクララのコッペリア(アイスクリーム屋さん)は行列していた。日本でもSNSで人気のお店に行列してる人たちをよく見かけるけど、それぞれの行動原理はきっと違う。
どこかの企業やインフルエンサーに宣伝されたわけでもなく、安くて美味しいアイスを求めて並ぶか、周りが手に入れているものを自分も手に入れることが価値だと思い、影にある資本の力に突き動かされているか、だろうか。

「自由はお金では手に入らない」
大国アメリカの支配からの自由を、革命で手に入れたカストロの思想。
手に入れた資本主義経済で駆動しないキューバの社会は、貧しくてショーウィンドウにものはないし、どこに行っても美味しいものがあるわけでもなく、家もボロボロだ。
理想的な自由や平等が手に入ったとは思えない。それでも、情報社会に振り回されず生きる人たちの暮らしには、そこにしかない価値もあるはず。

ハバナ最終日

最終日は一人でハバナの旧市街と新市街を観光。
まずMuseo del Chocolataというカフェで、アイスショコラータ。冷たくてとても美味しかった。(ここに限らずだけど、ガイドブック書いてある営業時間や定休日と、実際がかなり違う店が多くて、何度も色んな店の前で空いてなくて、立ち尽くした…)

Museo del Chocolata
革命博物館

初日のホテルの朝食があまりにも不味くてビビっていたが、とても美味しいものも多かった。暑いので、ミントが惜しげもなく入ったモヒートはどこのお店でも本当に美味しくて最高。

Oreilly304というレストラン。美味しかったタコスとモヒート。備え付けの辛いソースも絶品。
店員さんも優しくて愛想良くてとてもよかった。

映画「セブン デイズ イン ハバナ」のロケ地で使われていたので、行ってみたかったホテルナショナルデクーバ。
海沿いの中庭すてきだったけど、暑すぎて誰もいない。
ここから、宿泊しているホテルまでタクシーで戻ろうと思ったら、現金が足りず、その残金だとココタクシー(バイクタクシー)しか乗れないと言われて、仕方なく乗ったら、海沿い走ってくれてアトラクションみたいで最高だった!

ホテルナショナルデクーバ

1日ハバナをぶらぶらしていて、みんな大きな声で知らない言葉で喋るから何度もビックリさせられた。分かる言葉といえば、「イチロー!」「オオタニ!」くらいで(さすが野球の国キューバ)、その度にビクッ!!ってなっていた‥.声がでかい。
どこに行っても音楽が流れていて陽気だし、社会主義国といわれて想像する得体の知れない怖さや暗さも感じない。
街の煩さも、人の声の大きさも、常に流れる音楽に合わせて踊る人々からも、この国で生きるために培った力強さ、みたいなものを感じていた。

キューバを舞台にした小説、ヘミングウェイの「老人の海」でも、強烈に印象に残るのは老人の屈しない姿だ。老人が持つ外からの脅威に負けないんだという精神力や、生きた年月から生まれる強さ。この国で生まれたことが納得できる小説だと思う。
ヘミングウェイは「敗北主義の作家」と言われているらしい。敗北、負けは、一体誰が決めることで、何をもって負けとするんだろう。カジキと勇敢に戦い、持ち帰ることが出来なかったとしても、戦った姿は誰かから見れば立派で、また別の誰かから見たら、そうではないのかもしれない。

キューバという国が革命で勝ち取ったとされる価値は、物質的な豊かさではなかった。それは「敗北」なのだろうか。資本主義から見たらそうかもしれないが、見方を変えたらそうじゃないかもしれない。

人々が持つ光

初日の夜、街頭が少なく、眩しい広告もない道を通り、ハバナに着いた時は、「暗いな」と思ったその街が、帰る頃には光で溢れていた。
そう感じたのは、きっとどこかの誰かがお金儲けのために出した煌々と光る看板がなくても、人々の笑顔や明るさを感じたからだと思う。

東京にいたら、埋もれて見えなくなっていたものが、ここでは見えたような気がしていた。

情報やモノに囲まれ、自由に選択していると思っているものは、広告やCMにより作られた欲望であることが多い。成長を強いる社会でなんとなくやり過ごしながら、会社の飲み会や、アプリや合コンで出会った人との上辺だけの会話をする。誰かに評価されたい、良く思われたい、そんな思惑が見え隠れする会話に疲れて、窮屈さに埋もれて無くしていたもの。
この国では私たちが失くしたものがまだ残っていたような気がする。それは、理想を信じる気持ちかもしれないし、心のままに音楽を楽しめることかもしれないし、スマホの画面ではなく真っ直ぐ前を見て誰かと話すことかもしれない。

「すぐ行かないと、街並が変わってしまうよ」と言われていたキューバ。
実際行ってみたら、そんなすぐには近代化しそうにはない独特の国だった。
でも、5年くらい前までなかったインターネットが少しずつ普及して、外の情報が入り始めているから変わるのは時間の問題なのかもしれない。

多くの先進国と同じように資本主義で得られる幸せもきっとあるが、革命により手にしたものと失ったものがある中で、残ったものは決して貧さや孤立だけではなく、屈せず理想を追い求めた人々の私たちにない強さだ。
独特の雰囲気、広告がなくても、モノがなくても、幸せそうにしている人たちの空気感は消えずに続いて欲しいと思う。

2023/2/13

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