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褒美の菊一輪くれるかな?

傾奇者。奇矯な立ち居振る舞いを好み、己のが義を守り通そうとした変わり者。有名な前田慶次は、豊臣秀吉の前で猿の真似をしたり、前田利家に風呂を用意するがそれが氷の風呂であったりと、数々の奇行で有名であった。戦国時代におけるそのような振る舞いは、まさに命懸けといっていいだろう。

ここに、平成生まれの傾奇者ものがいる。令和の時代に、かつての太平洋戦争の英霊達の礎から訪れた平和の時代に、彼はこう言い放った。俺は毎日お祭りがいいんだ!

彼の名は前田慶次のように全国へ轟くことはなく、しがない小市民だった。けれども、どうして、かれは派手なことが好きだった。彼とはつまり、躁状態の僕である。

夏祭の時期だった。時は平成、彼は大学一年生。大学で学園祭があった。祭好きの血が騒ぎ出した。派手好きによくある、退廃的な日常生活を送っていた彼は、いそいそと講堂へ向かった。普段単位も取ろうとしないくせに、こういうときだけは大学へ行きたがる。典型的なダメ学生の行動であった。  

喫煙所でたむろしている、級友たちに、
『ひっさしぶりだなー』とか、
『たまげた!お前まだ大学に籍があったのか』とか、
『金返せ!』と、言われてはいちいち、よお!とか、かくかく云々の理由があって金はもう少し待ってくれとか、返していくのが普段の僕ではある。しかし、その日の僕は躁状態。ちょいとばかり話が違ってくる。

『おい、お前ら着物っていいと思わんか?』
そういって、ジーンズのポケットから朱色の花魁が吸うようなキセルを取り出した。
『なんやそれ?』
『しらんかとか?キセルやん、こいつで頭カーンと叩かれたくなかったら金貸してくんない!』
いきなりのべらんめえ口調にたじろぐ友人達。僕は普段そんなやつではないのだ。
『いくら、いくら欲しいんや?』
大阪出の友人が話を聞いてくれた。
『金二百両』
『それっていくらや?』
『二百円!自販で南蛮砂糖水を買うのよ』
『な、南蛮?』
『アホ、コカ・コーラだ』
『あ、なんだコーラか』
チャリン、と右手にニ枚の百円硬貨を落とされた僕は、『あっぱれであった』とお礼を言って、自販でジュースを買って飲んだ。

これは、遊びや酔狂、伊達の気持ちでこの男がやっているのではなかった。家に帰ってAmazonで和服を購入するあたり、彼は本気でこのとき、前田慶次になったような気がしていたのである。

『褒美の菊一輪、お松どのは、またくれるかな?』これは前田慶次の親友、名前は忘れた。の言った粋な言葉。金よりも名誉よりも、利家の妻、お松のくれた菊一輪のほうが嬉しいという言葉。些細なことに幸せはある。

おい、偽傾奇者、お前もお祭りお祭り言ってないで少しは日常生活を楽しみな。
かつての自分にそう言ってやりたい。

友達に簡単な料理の作り方を教えてもらって、生き返った!QOLをあげなあかん。

そう思った日でした。

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