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第60回理学療法士国家試験対策 統計学講義(2)研究デザイン

 理学療法士を含め、医療系の国家試験には毎年統計学の問題が出題されます。理学療法士では出題数が平均2問(1点問題)で、配点が少ないですが、諦めて対策をしないよりも、ある程度出題範囲が限られているので、対策を講じておきたいところです。
 息子が通っていた養成校の統計学の講義は、いくつかの検定方法を教えるだけで、国試対策としては全く役に立たないものでした。したがって、過去の国試問題を分析して必要な知識を改めて勉強し直す必要がありました。  
 ここでは、問題を解く前に、ある程度知識を整理しておきたいと思います。
 理学療法士の国家試験では、次に挙げる分野で出題されます。

1.ガイドライン
2.研究デザイン
3.95%信頼区間
4.エビデンス
5.検定方法
6.感度・特異度・陽性尤度比
7.統計用語
8. リスク比とオッズ比(補足)

 これらについて、以下、国試に必要な知識を整理していきたいと思います。あくまで国試に必要な知識という事で、統計手法を根本的に理解するという趣旨ではありませんので、ご注意ください。また配点が少ないので、すみずみまで対応しようと勉強するのは、労力vs効果効果が低いです。2問出題された場合、最低1問(できれば2問)得点できるようにしたいものです。

ここでは2.研究デザインについて説明します。主な研究デザインについては、以下の方法があります。

1.症例報告(Case report:ケースレポート)
2.症例集積(Case series:ケースシリーズ)
3.症例対照研究(Case control study:ケースコントロール・スタディー)
4.コホート研究(cohort study)
5.ランダム化比較試験 (randomized controlled trial: RCT)
です。

 なお、58回では、メタアナリシスとシステマティック・レビューも選択肢として出題されました。これについては、統計学講義(4)エビデンスの方で解説を加えます。

さて、上記5つの研究デザインについては、しっかり違いを理解しておかなければなりません。

では、以下に説明を加えていきます。
まず、基本的な呼び方のルールです。

現在から過去を調べる研究方法を後ろ向き研究といいますが、後ろ向き研究には以下の3つの研究を区別して知っておく必要があります。

1.症例報告(Care report)
 一人から数人までの患者のまとめを症例報告またはCase report(ケースレポートを呼びます。Caseとは患者(症例)の事です。

(例)受け持ちのCOPD患者3人の背景を調べると、3人とも喫煙をしていた。この結果から、喫煙がCOPDの発症に関連していると結論づけた。

青はすべてCOPD患者

 この結論は3人という少数のデータから得られたものです。たまたま3人が喫煙していたかもしれません。もう少し、多くの患者でどうであったか調べる方が良さそうです。

2.症例集積(Case series)
 まとまった患者(10人ぐらい〜)のまとめを症例集積またはCase series(ケースシリーズ)と呼びます。

(例)自分が受け持ちのCOPD患者3人と先輩が受け持ちのCOPD患者7人を合わせて10人の背景を調べると、10人中7人が喫煙をしていた。この結果から、喫煙がCOPDの発症に関連していると結論づけた。


ケースシリーズ研究では、対象が3人から10人に増えています。10人中3人が喫煙しているから、COPDの発症に喫煙が関係しているという仮説の信頼性が少し高くなっています。ただし、この研究ではCOPD患者さんしか見ていません。健康な人での喫煙率はどうでしょうか?

3.ケースコントロール研究 (Case - control study)
 
ケース(Case)とは患者の事です。それに対してコントロール(control)とは患者ではない健常人の対照の事を指します。したがって、ケースコントロール研究とは、患者と健常人の2つの群で、過去にさかのぼって比較する研究方法です。

(例)COPDの受け持ち患者10人と、健常人10人で喫煙の割合を調べたところ、COPD患者の喫煙率が70%に対して、健常人の喫煙率は20%でした。これらから、COPDの発症に喫煙が関連していると結論づけました。

 このように、ケースコントロール研究は、主に、患者と健常人において、患者になる、あるいは健康でいる要因に差があったかどうかを調べます。

 ケースコントロール研究は、患者と健常人を比較するので、ケースレポートやケースシリーズ研究より、信頼性が高いです。この結果に対する信頼性の事を科学的根拠(evidence:エビデンス)と呼びます。

ケースリポート、ケースシリーズ、ケースコントロールはすべて患者(ケース)を対象としており、患者を元に過去を調べている後ろ向き研究です。
エビデンスのレベルは以下のようになります。

4.コホート研究
 コホート (cohort)とは元々、古代ローマの軍隊の数百人程度の兵員単位を表すもので、統計の世界では、ある集団を表します。
 前述の基本的なルールで、患者の事をケース(Case)と呼びましたが、コホートはCaseではないので患者ではありません。研究開始時点では健常な人を指します。そうして、研究開始時点では病気でない健康な集団を、要因によって2つ以上の集団に分け、将来それら分けた集団に差が出るかを調べる研究方法です。
(例)下の図のように、健常な人を喫煙する人の集団(喫煙群)と喫煙しない人の集団(非喫煙群)に分け、将来肺癌になる割合に差が出るかを調べます。

 コホート研究は、研究時点から将来の事を調べる研究方法ですから、前向き研究といいます。一般的に前向き研究は前述の後ろ向き研究に比較してエビデンスレベルが高いと言われています。

 またコホート研究は、次に紹介するランダム化比較試験とはちがって、治療を効果を比べる試験ではなく、あくまで要因の差や違いによって、将来病気になる割合が異なるかを見るので観察研究と呼ばれます

 コホート研究の特徴としては、要因の違いで病気になる割合を調べるので、研究期間がとても長くなります(そのため研究費用や労力も大きくなります)また、対象とする集団はかなり人数を多くしなければなりません。したがって研究を行う事自体、かなり大変な研究と言えるでしょう。

 たとえば、上図のように喫煙で肺癌になるかどうかを調べるには1・2年では結論がつかないでしょう。少なくとも10年以上は観察しなければ、群分けした群間で差がつかないでしょうし、例えば発症率が5年で10%の疾患であっても、それぞれの群で少なくとも100人以上の人を対象とする必要があると思います(100人の人を5年追跡すると10人病気になる事が見込まれます)。なお実際に発症率がわかっていれば、それぞれの群でどれくらいの人数が必要であるかは統計的に計算する事ができます。

 したがってコホート研究では、稀な疾患では適しません。例えば、10万人に一人の割合で発生するような病気では、10万人観察しても、発生が一人あるかないかです。このような場合、コホート研究で、ある要因で群分けして観察しても、将来群間で有意な差を見いだす事はほぼ不可能です。

 稀な疾患の研究では、前述のケースコントロール研究が適しています。ケースコントロール研究では、稀な疾患であっても患者(ケース)がわかっていれば、数人〜数十人でも集められるからです。そして集めた患者と健常人とを比較すれば良い事になります。

コホート研究の特徴は以下の通りです。
1.前向き・観察研究である
2.健常人を要因によって二つ以上の群に分け、将来、病気になる割合に差が生じるかを研究する
3.研究には長期間を要する
4.対象とする人数がかなり多くの人数を要する
5.稀な疾患には適さない
6.後ろ向き研究(ケースレポート、ケースシリーズ、ケースコントロール)よりエビデンスレベルが高い

ケースコントロール研究とコホート研究は、勉強していないと違いが分かりにくいので、国試頻出となります。

5.ランダム化比較試験
 
ランダム化比較試験もコホート研究と同じように、前向き研究になります。この研究方法は、患者をある治療をする群と治療をしない群の2つに振り分けて、その後の効果(死亡率など)に差があったかを調べる方法です。
 コホート研究では、集団を要因によって2群に分け、将来病気になるかどうか観察する前向き観察研究でしたが、ランダム化比較試験では、対象となるのが患者で(この場合はケースとは呼びません)、患者に治療をするかしないかという介入を行うため、介入研究といいます(前向き介入研究)。

 ランダム化比較試験は、ある病気に罹患した患者に手術は薬剤などの介入をおこなって、その後治療効果があったかどうかを調べるため、治療期間がコホート研究とは違って、比較的短く、研究がしやすいです

 そして、ランダム化比較試験の最大の特徴は、患者を治療を受ける群と、治療を受けない群に割り付ける場合に、ランダム化(無作為化)するという点です(なお比較試験には割り付け時にランダム化しない非ランダム化比較試験もありますが、国試にはまず出てこないので説明は割愛します)。

 たとえば、上図のように、患者を二つの群に割り付ける際にサイコロを振って、奇数なら治療なしの群に、偶数なら治療を受ける群に割り付けます。こうする(ランダム化する)事で、治療を受ける・受けないという事以外は2つの群の背景因子をほぼ同じにする事ができるのです

【ランダム化の重要性】
 治療を行い(介入試験)、効果があったかどうかを調べる際に、割り付け時にランダム化する事はとても重要です。
 たとえば、下図のように膝OA患者にある治療が効果があるかどうかを調べる研究を行う事にします。図左のように膝OA患者の中には青丸の重症の患者もいれば、白丸の軽症の患者もいます。これを適当に治療あり・なしの群に振り分けた場合、図中央のように、治療なしのA群では重症患者が9人中8人入ってしまい。治療ありのB群では軽症が9人中8人入ってしまいました。これで治療後の効果を見た結果、治療なしのA群では改善率が10%に対して、治療ありのB群では改善率が90%という結果になりました。

 この場合、B群の治療ありでの改善率が90%で、A群での治療なしでの改善率が10%であったので、治療ありの方が改善率が良いという結論で良いでしょうか?

 答えはNoです。

 割り付け時のA群では重症患者がとても多いので、改善率は低くなる事が予想されますし、B群では元々軽症の患者ばかりなので、改善率が高くなる事が予想され、B群で改善率が高いのが、治療の効果なのか、軽症が多く含まれている影響なのかわかりません。

 このように、2つの群で比較する場合、2つの群の背景因子がほぼ均一で差がない事が重要です。

 ランダム化(無作為化)は2つの群を均一化する良い手法です。下図のように、A群とB群とに振り分ける際にサイコロを用いて割り付けると、割り付けがランダム化(無作為化)されて、A群とB群との患者の背景因子(重症度など)を均一化する事ができます。こうする事によって、治療の効果をしっかり判定する事が可能となるので、ランダム化比較試験は、研究方法の中でもっともエビデンスが高い研究方法と言われています

また、上図の場合での重症度など、結果に影響をおよぼす可能性のある因子を交絡因子と呼びます。

以下にこれまでの内容をまとめます。
 後ろ向き研究にはケースレポート、ケースシリーズ、ケースコントロールがあり、すべて観察研究です。エビデンスレベルはケースレポートが最も低く、ケースレポート<ケースシリーズ<ケースコントロールの順で高くなります。
 前向き研究にはコホート研究とランダム化比較試験があり、コホート研究が観察研究に対して、ランダム化比較試験は介入研究です(介入研究はランダム化比較試験のみです)。エビデンスレベルについて、これら前向き研究は後ろ向き研究より高く、ランダム化比較試験がもっともエビデンスレベルが高くなります。

また、ケースコントロール研究は稀な疾患の研究に適していますが、コホート研究は稀な疾患の研究には不向きです。

【補足】その他の研究方法の分類の仕方
以上、国試的には前述の表の分類方法が特に重要ですが、それ以外の分類の方法も問われる事があるので、以下に紹介します。

(1)記述的研究と分析的研究
 記述的研究とは、症例報告(ケースレポート)や症例集積(ケースシリーズ)のように、症例の内容を詳細に記述し、その中から、調べたい要因の仮説を立てる研究方法です。これは次に紹介する分析的研究とは違って、グループを2つに分けない研究方法を指します。

 一方、分析的研究とは、要因のある・なしで、結果が変わったかどうか調べる研究方法です。分析という文字の中に分(分ける)という文字があることから、分析的研究は対象を2つに分ける研究なんだなと理解してください。
 分析的研究には後ろ向き研究のケースコントロール研究、後ろ向き研究のコホート研究ランダム化比較試験がそれに相当します。

(2)縦断的研究と横断的研究
 縦断的研究とは、同一の対象者で過去にさかのぼったり、未来を調べ
たりする研究 (調べる時が2点以上) を指します。症例報告(ケースリポート)・症例集積(ケースシリーズ)・ケースコントロール・コホート研究・ランダム化比較試験はすべてこれにあたります。

 横断的研究とは調べるのは主に現在の1時点だけで、現在で調べられる範囲で、調べ尽くすというイメージです。

 横断的研究のイメージがつきにくいかもしれませんが、以下に例を示します。
【例】20歳と30歳ではどちらが走るのは速いか?
横断的研究では現在の20歳と30歳で走る速さを比べる
縦断的研究では現在の20歳とその人が30歳になった時を比べる

以上、研究デザインについて、解説しました。国試に向けて、時間があるときに復習しておいてください。



Dr. Sixty_valleyの第60回理学療法士国家試験対策のポータルサイトページは以下です。

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