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亜人✕青春✕ニューノーマルな避暑地系学園ラブコメ――漫画『尾守つみきと奇日常』感想文


先日、漫画『尾守おがみつみきと奇日常きにちじょう』の第一巻を買った。

私は『サンデーうぇぶり』にて本作を追っているが、店舗特典であるポストカードが残っているうちに紙書籍も欲しいよなあ――などと考えていたところ、気付いたら購入を済ませていた。

というわけで、妹さんの感想文#04。
今回は、森下みゆ先生の『尾守つみきと奇日常』について、簡単に感想と紹介のようなものを書いてみたい。



亜人


神話・伝説・民間伝承などにおいて〝人間と似ていながら決定的に異なる特徴をもつ存在〟は古くから語られてきた。狼男、吸血鬼、ケンタウロス、エルフ、ドワーフなどはその代表例だろう。

そうした存在は、よく〈亜人あじん〉などと呼ばれ、漫画やゲームなどにおいても大人気の要素となっている。特徴的な姿や性質をもち、作品ごとに様々な立場・意味を付与される〈亜人〉という存在は、もはやひとつの〈主題テーマ〉であり〈ジャンル〉であると言っていい。

本作『尾守つみきと奇日常』の舞台となるのは、人狼や吸血鬼など、伝説のなかで語られてきたような存在が〈幻人げんじん〉として広く認知されつつある社会。ここでは〈亜人〉という呼称こそ使われていないが、つまるところ本作も〝亜人モノ〟のひとつである。



青春


高校1年生の青年『真層 友考しんそう ゆたか』は、ある日、クラスメイトであり〈人狼ウェアウルフ〉の少女『尾守おがみ つみき』が、自身の靴を入れるロッカーの扉を素手で折り曲げているのに遭遇した。

腕力という意味では簡単に扉を曲げれるハズのつみきが何故か苦しそうな顔で扉を曲げている理由について〝聴覚が優れているせい〟であると納得をしながらも「いやなんで曲げてるの?」とツッコんでしまった友考は、そこで初めて、つみきと言葉を交わす――。

大雑把だが、本作の導入は以上のような感じだ。
ネタバレ防止のため〝つみきが扉を曲げていた理由〟は伏せておくが、本作では、こうして言葉を交わすようになった友考とつみきを中心とした、どこか甘酸っぱさを感じさせる青春模様が描かれてゆく。

ただし、実のところ本作は「ラブコメ!」と強く語れるほどラブコメ感が前面に出ているわけではない。恋愛にまつわるエピソードは多めで、ふとした瞬間にキュンとするような描写も多いが、どちらかというと恋愛よりも性別を問わない友人関係などが大切にされ、登場人物が抱えている悩みも性別を問わずに共感しやすいものが多い。盛りすぎない絵柄も相まってラブコメ的カロリーが控えめなのも、この作品の明確な魅力だろう。



ニューノーマル


本作においては〈ニューノーマル〉も、ひとつのキーワードとなる。
直訳するならば「新しい常態」――つまり現在を生きる人々がこれからの社会において〝普通〟になるべきだと感じている価値観、思想、生活習慣などを指す言葉だ。

主人公である友考は、周囲に自分を合わせてばかりいた中学生活のなかで自分自身の気持ちを見失い、地元の友人を避けるようにして、自宅から二時間ほど離れた高校に進学した。

それとは対照的に、つみきは言いたいことを言い、人狼としての性質すらも笑い話にしながらクラスの人気者となっている。
表紙を見てもわかるように、つみきは自身の尻尾を伸縮性のあるベルトで太腿に固定してスカートを履いているが、それは「尻尾をもつ幻人の身体に制服が対応できていない」という不便さの現れではない。尻尾に対応した獣人用のスカートが用意されているうえで、つみき自身が「こっちのが好き」と選択をしている結果だ。

しかし同時に、この物語の世界における幻人は〈人間社会になかなか合わせることができない性質をもち、生活において不便なところも多い存在〉として扱われている。事実、つみきも何も考えずに自由気ままな振る舞いをしているわけではない。


この関係性がとてもエモい!!!!(唐突な叫び)


社会における多様性を考えるような文脈で言うのなら、幻人は少数派であり数多くの悩みや苦労を抱えてしまっている存在だ。まさに〈新しい常態〉について考えざるを得ない世界観である。

だが、それと同時に本作では〝周囲に合わせようとしてしまう人間友考〟が〝自然体で暮らしている幻人つみき〟の姿に憧れるという関係性も成立している。友考とつみきは互いに互いの苦労を知り、他の友人たちも交えた友情を育みながら、少しずつ、互いを特別で大切な存在として意識してゆく。無理に「これは恋愛だ!」と言いたがることもなく、ただ大切な友人として、しかし他の友人たちとは違う〝特別な何か〟を互いに感じながら高校生活を送るのである。

この絶妙な匙加減がとても心地良く、さほど静かではないのに不思議と疲れは溜まらない、爽やかな避暑地に遊びに行ったような後読感の良さを感じさせてくれている。私が「本作における最も大きな魅力とは何か」と問われたならば、この〈避暑地感〉こそが最大の魅力であると答えるだろう。




というわけで『尾守つみきと奇日常』についての感想&紹介文でした。
少しでも気になった方は、ぜひ第一話だけでも読んでみてほしい。
そして私と同じように「ふと気付いたら買っていた」という怪現象を味わうといい。ふはは。




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