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015 ずっと側にいると言ったあなたは嘘つきだし、離れても好きと言った私も嘘つきだ

多分私は耳と鼻がいい。なんせチャイムが鳴る前から来客に気付けるし、晩御飯のおかずは2階からでも分かる。
しかし代わりに目と頭が悪い。視力は両目で0.7を切りそうだし、昨日の晩御飯も思い出せない。

だからあなたの匂いだと分かるのになんの匂いだったか思い出せないし、一緒に聴いた歌もどこで聴いたか思い出せない。あなたの目がぱっちりしていたところが好きだったと覚えている割に、末広の二重だったか平行の二重だったかよく分からない。
早く忘れてしまいたかったあの頃は思い出そうとしなくても勝手に浮かんできて、きっときっと詳細まで覚えてしまっていて、あの香水に出会うたび、あの店の前を通るたび、あなたが夢に現れるたびに酷く顔を顰めていたくせに、今はもう思い返そうと掬ったところでなにもかもが曖昧になってしまっている。ふやけた思い出に心は乱されないけれど、それでも少しだけ顔を歪めてしまう。
どこかもどかしい。

あなたとの記憶に触れるたび、苦しくて悲しくてやるせなかったから、早く早く忘れてしまいたかった。なにもかも鮮明に浮かび上がって、あなたのくれたものすべて欠片すら抱きしめてしまいそうになる腕を必死に引き止めた。はず。けれど蓋を開けてみれば努力せずとも頭の悪い私はこうして少しずつ忘れていってしまったし、きっといつか輪郭すらぼやけてしまってあなたを好きだった気持ちもひとつ残らず思い出になってしまう。

ずっと側にいると言ったあなたは嘘つきだし、離れても好きと言った私も嘘つきだ。


015 ずっと側にいると言ったあなたは嘘つきだし、離れても好きと言った私も嘘つきだ

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