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春はスカンディナヴィア北極圏に帰ります【日記:2023/12/11】

・嫌な夢を見た。カヤックがずたずたに引き裂かれる夢。「修理できないよ、これは」なんて言われたりして。またお金が…と思ったところで目が覚める。よかった。

・ぼんやりしながらちょっと本を読む。起きようとしてケータイを覗くと、北欧の友達数人からメッセージが届いている。「おめでとう!」「採用だよ!」一体何のことだ?

・あ、しまった。今朝7時からフェールラーベン・ポラー2024のメンバー発表があったのだ。すっかり寝過ごした。

・フェールラーベン・ポラーはスウェーデンの老舗アウトドアブランド・フェールラーベンが開催する公募の探検チーム。スカンディナビア北極圏を犬ぞりで一週間旅をする。僕は2019年にスウェーデンに留学していた頃、東アジア代表として一度選出されていた。それがコ口ナで延期・中止となり、また今年再度応募していたのだ。

・2019年までは投票形式、2022年にイベントが復活してからは3つのお題にインスタ上でクリエイティブに回答し、それが審査員によって選ばれるようになっていた。四年前は盛大にフェイスブックで投票を呼びかけていたが、一度中止にされてしまったちょっとした恥ずかしさから今回はしれっと応募していた。

・結果発表動画を見ると、五番目にしっかりと名前が呼ばれているではないか。マジなやつだ。31,000件から選ばれた20人のひとりである。

・やっとだ。嬉しさより安心の方が大きい。2019年の投票キャンペーンでは当時スウェーデンにいた日本人、スウェーデン人、他の留学生たち、そして日本にいる友人や家族を巻き込みに巻き込んで採用してもらったのだった。だからこそ、それらが延期になりキャンセルになったことを伝えるのは心苦しかった。

・嬉しさもそのイベントに参加できることはもちろん、心のふるさとであるスウェーデンに短期間でも戻れるのが本当に嬉しい。ちょっと足を伸ばして北欧に散らばった友人たちに会いに行きたい。

・朝はひとしきり感慨に耽っていた。今日は昨日も会っていたシゲルさんと製材加工工場を見学させてもらう予定。11時に村のモーテル前で集合する。

・まず向かったのは島の真ん中にあるポート・クレメンツ村の製材工場。一時は四十人以上の従業員を抱えた工場だったという。今では寂れ、今日は三人のスタッフがメンテナンスをしているだけだった。

・カナダ太平洋岸にはレッドシダー・イエローシダーといった高級建材が群生し、昔から林業が一大産業であった。カナダ開拓の歴史は林業と切り離せないのと同時に、先住民迫害の歴史も林業と深く結びついている。二十世紀後半には巨大林業メジャーが先住民にとって神聖な場所である森を蹂躙し、広大な区画を一気に全て伐採してしまうクリア・カット(皆伐)を行い続けた。

・クリア・カットは土壌の保水力や栄養価に大打撃を与え、地盤の不安定化や山火事の多発、サーモンなどの激減を招く。そのような環境負荷や先住民の地位向上により、林業メジャーの影響力はしだいに縮小していく。

・ハイダグワイにおいても林業は政治的・文化的・歴史的な観点においてセンシティブな話題だ。ハイダ族といっても北部のマセット、そして南部のスキディゲートによっても立ち位置が異なる。

・訪れたポート・クレメンツ村は白人の村という色が濃い。そのためか、この工場には材料が回ってこないのだという。オーナーのひとりは頭を抱えていた。

・ハイダグワイにおける伐採や丸太の利用を指揮するのはハイダ評議会(ハイダ族の自治政府)。いくら現地雇用を生もうが、村に一部の利益が入ろうが、「森を蹂躙されてきた歴史」に関わっているように見えるところには材料がまわってこないのだ。

・そのあとは南部ダージン・ギーツ村にあるシゲルさんが協働している製材工場に向かう。その工場はロギングはせず、すでに倒壊してしまった木々や枯れつつあって危険な木を探して製材するのだという。従業員やボードメンバーの大半はハイダ族。クリア・カットなどの蹂躙的な伐採はせず、ハイダ族のためのビジネスをするという点で、ハイダグワイにおいては立ち回りしやすいのだという。

・「これは日本に、これは中国に行くコンテナに乗るんだ」ハイダグワイの神聖な森で命を終えようとしている木々が、こうして製材として価値を与えられ、遠くの土地で新たな命を吹き込まれる。日本語で言ういただきますの精神、ハイダにおける「ヤグダン(リスペクト)」の精神である。

・木はすべてに繋がっている。土地と人々、その歴史。流通と世界市場。ひとつのものから世界を切り取って考えられるのはとても面白い。木について一からたくさんのことを教えてくれたシゲルさんに感謝である。

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