「長ぐつ湯」デザイン案【24.3.2】
・冷え込む日々が続く。雪は降っていないが、昨日までうっすらと積もっていたぶんが凍りついている。
・寒いけれど、天気は素晴らしい。朝ごはんを済ませた後、薪割り作業にかかる。ずっとほったらかしにしていた玉を薪割り機で割っていく。
・冬が終わるまでに、次の冬の支度を始める。海岸に流れ着く流木は乾燥したものが多いため割ってすぐに燃やせるが、新しく切り倒した木は少なくとも一夏乾燥させなくてはならない。暖かくなる前に薪小屋にたくさん薪を蓄えておかなくてはならない。
・割り切ってしまった後、隣のレイチェルと散歩に出かける。エレーナをベビーカーに乗せ、サルサとタスの二匹の犬は勝手に歩かせる。タモの家を覗いた後、風の吹き付けるビーチを歩く。散歩の間、レイチェルのこれまでを聞かせてもらう。
・「看護学校を終えて、ユーコンで数年働いていたの。そこでの辺境地的な生活がとても心地よかった。私もバンクーバー島育ちだし、ハイダグワイに惹きつけられたのも必然的なものね」
レイチェルは24歳のとき、ハイダグワイに看護師としてやってきた。それから10年。ルークという島育ちのパートナーに出会い、僕の家の裏の敷地を買い、2年前には娘を授かった。
「キャンピングカーやおんぼろバスに寝泊まりしながら、ここで生き抜いてきた。なんでもしたよ。ときどき島を離れて都市を訪れることもあるけど、帰ってきた時には毎回『こんな場所に帰る場所があるなんて、なんて幸運なの!』って思うの」
・偶然フェイスブックでメッセージをくれたタロンの家に住まわせてもらうことになり、自分の住処となったトウ・ヒルのコミュニティ。ハイダグワイでも最も隔絶されたエリアだが、すぐ裏を流れる川、なんの人工物も見えないビーチがあり、そして素晴らしい仲間たちが住んでいる。
「このコミュニティがとても心地よいの。お互い助け合ったり、食事をともにしたり、ただただ同じ時間を過ごしたり。住む場所は選べても、近所に住んでいる人は選べないのだから、心和むネイバーたちがいるのもラッキーなことね」僕も同意する。
・ベビーカーでぐっすり眠りついたエレーナを起こさないようにゆっくりとトレイルを進み、家に戻る。キャビンではタロンがビーフシチューとチーズバゲットのランチを作っていた。タモの家でお手伝いをしていた5人の友人も一緒に食事をとる。太陽の差し込む河辺に向かって大きく開く窓があるキャビンはとても明るく、暖かい。
・食事後、すこし薪仕事をし、昼寝をする。野良仕事をする土日の午後の昼寝は本当に心地よい。
・6時前に起きる。夕食はタモの家でタコスを食べようと話していた。差し入れのビールを抱えて隣に向かう。
・タモの家には妹のミドリ、彼の同居人のローラ、銭湯大工のクリス、スキディゲートから遊びに来ているヘールとスペンサーもいる。コーンフラワーを練ったお手製トルティーヤにカラフルな具材を挟んでいただく。
・銭湯プロジェクトがもっぱらの話題である。タモもミドリも母親が日本人で何度も日本を訪れており、ローラもなぜか日本事情に詳しい。「どんな名前をつけるのがいいだろう?」と小一時間話し合う。
・案として出たのは「焼杉湯(杉を焼いてウッドデッキをつくるから)」「長ぐつ湯(ハイダグワイ生活に欠かせないアイテム)」「ちょうん湯(裏を流れるチョウン・リバーにならって)」。みんなのお気に入りは長ぐつだったが、タモは微妙そう。
・「銭湯の使い方案内板はぜったいに漫画形式にしたいの!」ローラは興奮気味に語る。彼女が以前乗っていた三菱デリカの説明書にたくさん漫画が載っていたらしく、その写真を見せてもらった。たしかに、日本の標識なり案内なりには必ずと言っていいほどイラストが描かれている。お国柄なのだろうか。
・タモとローラ主導の銭湯プロジェクトはなかなかシリアスなもの。今後畳が3枚と中古の自動販売機も届くのだとか。日本の銭湯の自販機には何が入ってるのと聞かれ、「乳製品とポカリ」と答えるととても笑われる。たしかに温泉や銭湯以外の自販機で牛乳を見たことってないな。
・何はともあれ、自分の文化について語るということはいつも新鮮だ。銭湯プロジェクトもいいものになりそう。僕も手が空いている限り手伝おう。