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"ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー"感想 -誰かの靴を履いてみること


ここ三日間は少しだけ昔の本を読んでいたので、新しくて今流行っている本が読みたい!と思った。

そしたらなんと!Amazonでレビュー数1365の本があるではないか!めちゃくちゃに流行っている。時代がこの本を求めている…。

ということで本日手に取った本はこちら


"ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー"は、イギリスに住む著者のブレイディみかこさんとアイルランド人の夫の息子が、"元底辺中学校"でクラスメイトとてんやわんやするノンフィクション。

タイトルの由来は、その息子が日本人とアイルランド人の"ハーフ"で、ちょっとブルーな気持ちになったことをノートに記したシーンから来ている。


ハーフは差別用語?

ちなみにこの本を読むまでは何気なく使っていた"ハーフ"という言葉も差別用語にあたるらしい。

言われてみれば確かに。何が半分なんだ?何か足りないところでもあるのか!?と当事者なら思うことだろう。全く気にしたことがなかった自分を恥じた。無知に潜む差別には悪意はないが、当事者を傷つける可能性がある。

代わりの表現として"ダブル"とか"ハーフ&ハーフ"とか"MIXED"とかあるらしいけど、人種をピザかジェラートか何かだと思ってるのだろうか。わざとらしくて余計に差別意識を助長してしまう感じがする。

このようにして差別を意識して無くそうとした途端、差別意識が孕んでしまうから難しい。

相手を傷つける可能性のある差別用語は知っておくべきだけど、あまり差別、差別って意識せずにコミュニケーションが取れて、信頼関係ができたらいじれるくらいの関係が自分の中では理想だ。


正反対の英国と日本の文化

この本を読んで一番驚いたのが、英国と日本の文化はこれほどまでに違うのか!ということだった。それを知っただけでもこの本を読んだ価値がある。

宗教の差、人種の差、貧富の差が日本とは比べ物にならないほど如実に現れている。公立校と私立校の分断も、居住区での分断も、日本の比ではない。

自分は、それはもう画一的な環境で育ってきたんだなと身に沁みた。高校は同じくらいの偏差値の人間が集まり、大学はそれに加えて専攻も同じだ。もちろん個性的な人ばかりだったけど、宗教や人種、貧富の差をとりわけ意識したことなんて無い。

小中学校は公立校でクラスに一人くらいハーフの子がいたが、別にいじめられる訳でもなく普通に馴染んでいた。そんなことより中学校ではヤンキー怖いとかカースト問題の方が身近だった。

学校周辺だけでなく、社会制度も日本と大きく異なりそうだ。全く詳しく無いのだが、この本を読んだだけでも日本ほど社会福祉制度が充実しておらず、ホームレスへの配給や地域のボランティアについて大部分が民間に委ねられている事が伺える。

これらの事実だけでも、日本人と英国人の国民性の違いは明確だ。

日本では和を重んじるところから出発して個性を主張していく。
英国では歴とした個性が存在するところから出発して他と協調していく。

主張ができない日本人、と言うならば、協調ができない英国人とでも言うのだろうか。どちらも調和と個性の裏返しであり、お互いの特性を活かしてコミュニケーションが取れたらいいなと思う。


禅の精神すら感じる達観した息子

著者のブレイディみかこさんはパンクミュージックに傾倒しているそうで、この本に登場する言葉が度々パンキッシュだ。息子が通っていた託児所は"底辺託児所"、通っている中学校は"元底辺中学校"。

富裕層とか私立校への対抗意識がすごいし、差別用語にはとても敏感だ。いかにも反体制で、やってやるぜ!自由と平和を勝ち取るんだぜ!感が強い。

ではこの本がかなり左に寄っているかと言われるとそうでもない。

この本の主人公である息子の達観っぷりがすごいのだ。母の左寄りな主張に否定も肯定もせず自分の意見を述べる12歳。この歳で周りの大人に染まらず自分の考えが持てるのは英国教育の賜物であろう。

印象に残っているやりとりが本の帯にも印刷されているのだが

母「多様性ってやつは喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃないほうが楽よ。」
息子「楽じゃないものが、どうしていいの?」
母「楽ばっかりしてると、無知になるから」
息子「また無知の問題か」

この辺りのやりとりに二人がよく表れているなと感じた。


自分で誰かの靴を履いてみること

ちなみに、英国ではなんと保育園、幼稚園の頃から感情教育を行い、小中学校では演劇を通した教育カリキュラムが一般化しているという。

この本に登場した一例では、エンパシー"empathy"を説明せよ、という問題に対して息子が、「自分で誰かの靴を履いてみること」と答えた。なんてウィットに富んだスマートな回答だろう。

シンパシー"sympathy"であれば勝手に湧き上がる感情なので努力は必要ない。しかしエンパシー"empathy"の場合、一旦相手の立場に立って想像する努力を要する。これが「自分で誰かの靴を履いてみること」なのだ。

このように繰り返し、色んな視点で物事を見る目を養う教育をしているのだから素晴らしい。親の意見ですら相対化できてしまう。

とはいえ古風な家庭のダニエル君は、両親の思想をしっかりインストールしていじめにあってしまっていたようだから、ライフスキル教育も向き不向きがあるようだ。

ところで「自分で誰かの靴を履いてみること」という言い回しは英語の定型表現だそうで、アニメ”ミッドナイトゴスペル”に登場するシーンは比喩だったというか、元々英語圏にある言い回しなんだなと納得した。


感想

社会問題がテーマのノンフィクションではあるが、ブレイディみかこ母ちゃんの竹を割ったような性格と、ところどころパンクな言い回しでスラスラ読み進めることができた。

息子はかっこいいし、その周りの友達も色んな子がいて楽しいし、英国の文化は新鮮で、純粋に読み物として面白かった。

でもやっぱり自分は"ハーフ"のことは"ハーフ"って言ってしまう気がする。もし身近にそういう人が表れて、仲良くなったら"ハーフ"問題について話してみたいなと思う。



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