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"動物農場" - 成立の背景を徹底考察してみた

※最初からネタバレあります


"1984年"に引き続いてジョージ・オーウェルの作品を読んだ。

動物農場と1984年の基本構造は同様であり
ポップで形式がわかりやすく展開も早いのが"動物農場"
重厚かつ陰鬱であまり展開はせず人間心理に焦点を当てたのが"1984年"

という印象だ。

率直な感想は「動物たちかわいそう><。これ以上いじめないで!」

だったのだけど、最近出た松屋の豚キムチ丼はめっちゃうまい。

そんな感じで動物云々については考えるのをやめた。


内容について考察しようと思っていたら、訳者のあとがきで、「本書のモデルはロシア革命とスターニリズムである」という事の説明が詳細に記されていたので、考察することがなくなってしまった。

ということで今回は、訳者あとがきと被る所が多いが、本書成立の背景を考察してみる。


本書が成り立った背景-パラダイスみたいな国を目指して

一般に"動物農場"と"1984年"は「社会主義批判」の小説とされているが、ジョージ・オーウェル自身は歴とした社会主義者であった。

マルクスが提唱した理想的な社会主義の在り方を希求し、もはや独裁政治と化したソ連の社会主義を批判したのだった。

1900年代は社会主義実験の時代である。

ソ連をはじめとするいくつかの国家が「みんなが平等でパラダイスみたいな国を作りてえ」という理念に基づいて政治の在り方をガラッと変えたのだけど、どこも失敗に終わった。

国民の自由な経済活動が抑制されるために資本家が生まれず、権力が集中しているために内部の権力争いと革命のリスクにさらされており、常に不安定だったのが1900年代の社会主義国家だった。

当時のソ連は、国民に対する経済的な強制にとどまらず、言論統制や情報操作までもが罷り通っていたため、ソ連民に代わってオーウェルが声を上げたのだった。


この辺の歴史に関して、とてもわかりやすくて面白い動画があるので紹介します。"パラダイスみたいな国を作りてえ"はこの動画からの引用です


"一人NHK"と名高い「社曾部部長」



本書が広まった背景-資本主義vs社会主義

本書"動物農場"というより、どちらかというと"1984年"の方であるがそのまま進めていく。

オーウェルは、理想的な社会主義思想とはかけ離れたソ連の政治を批判するために"動物農場"を書いたのは先に述べた通りだが、真の目的はイギリスにおける社会主義運動の復興であった。

本来社会主義は、みんな平等でパラダイスみたいな国家の在り方を目指していたはずなのに、ソ連が国民を奴隷化し虐殺しているようでは、イギリスにおける社会主義勢力が堕落してしまう、と思ったらしい。

だからオーウェルは、この"動物農場"のように、誰でも読めるような寓話形式で、悲惨かつシニカルな物語を執筆した。


この執筆動機となった野望は、オーウェルの死後、思わぬ形で実現してしまう。

第二次世界大戦後、ボロボロになったヨーロッパ諸国と日本を横目に、資本主義のアメリカと社会主義のソ連は、世界の二大国家となり冷戦に突入する。

ちなみにこの"冷戦"というワードはオーウェルが考案したというのだから驚きである。

ここでアメリカは、ソ連をはじめとする社会主義国家を批判するためのプロパガンダとして、1948年に三十ヶ国以上の国々で"動物農場"の翻訳・出版を支援したのだ。

こうして"動物農場"ならびに"1984年"は世界中で幅広く読まれる小説となり、「英語で書かれた20世紀の小説ベスト100」、「史上最高の文学100」に選出される程となった。

こうした諸事情の末に広まった小説をありがたがって読んでいるのだから、自分がいかに知らぬ間にプロパガンダに洗脳されているかを痛感した。

元々、理想的な社会主義の在り方を訴えるために、現行のソ連社会主義を批判したオーウェルだったが、2020年の現在でもなお、アメリカでは国が左に傾くと"1984年"の売り上げが伸びると言われており、本人の意向とは多少異なる形で野望が達成された、のかもしれない。

理想的な社会主義国家は、、中国が今後どうなるかですね、、


本書が執筆された背景-オーウェルの反抗

最後に、オーウェル自身がどんな人間で、なぜこの小説を執筆するに至ったかを考察する。

この"動物農場"の「ウクライナ語版への序文」という章において、オーウェルの生い立ちから執筆に到るまでの背景が、オーウェル自身の言葉で語られている。

その章からいくつかのキーフレーズを抽出してみたい。

私は一九〇三年にインドで生まれた。父はイギリス統治部門の役人で、うちの一家は———そこらの普通の中産階級一家だ。
教育を受けたのはイートン校で、私は奨学金があったからそこに行っただけだ。そうでなければ、父は私をこの手の学校に通わせるだけの資力はなかった。
学校を出てまもなく、インド帝国警察に入った。ここに五年とどまった。———性に合わなかったし、帝国主義が大嫌いになった。
イギリスに戻ると、私は辞職して、作家になることにした。

「そこらの普通の中産階級一家だ」「父は私をこの手の学校に通わせるだけの資力はなかった」「性に合わなかったし、帝国主義が大嫌いになった」

との発言から伺えるように、通底して権力や父性に対しての反発が読み取れる。権力への反抗とはつまり、自身の弱さに対する怒り、だと私は思う。

こうしてオーウェルは、自身の怒りを小説執筆へと昇華し、後世へ広く語り継がれる作品を生み出した。

自分もそうだが、中産階級で多少の資産と教養があるけど、資産家にはなれない層が、オーウェルの魂に共振するのではないだろうか。


まとめ

オーウェルの小説とその成立背景を考察することは、自分と世界の関係を改めて考えるきっかけとなり面白かった。

調べれば調べるほど、やっぱりなるようにしかなんないのかなぁ、というのが率直な感想である。

まさにオーウェルが揶揄した声を上げない動物たちと同じなので、オーウェルに怒られそう。でも頑張ります。

最後に、オーウェルの"動物農場"と"1984年"にインスピレーションを受けてできた曲を3つ紹介する。小説を読んでいるときの感じと、曲の感じがとてもマッチしている。オーウェルとロックの相性は良さそうだ。


"動物農場" —— Pink Floyd / Animals


"1984年" —— Radiohead / 2 + 2 = 5


"1984年" —— ヨルシカ/思想犯


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