見出し画像

四畳半生活 #3:督促の封筒は黄色から赤へ

前回まではこちらでございます

早速上京したタイチだったが、本当にめぼしいものは何も持たずに来た。

が、プレイステーションと数本のソフトは持参していたため暇を持て余した若者ふたりは数日のあいだ酒など飲み交わしながらお互いの直近の出来事など語りあいプレイステーションのゲームに明け暮れた。

そういえばこいつ履歴書を書いたり電話したりする様子が無いがバイト応募しないのか?俺はといえば弁当配達のバイトが決まり来週からいよいよファッキンな労働を開始しようというところだった。

「おう、ところでオメ応募したのが?あのスクウェアのやつ」
「スクウェアの下請けな、まだだけど」
「んだの?金大丈夫なん?」

同居開始時の話し合いで、家賃は完全折半で17500円づつということになっていた。光熱費は家賃に含まれていて、大家さんが月一チェックで書き留めていたようだったがそのメモは何に使われているのかは不明だった。

世田谷の好立地でそんな家賃で住めるなんて今なら隠れ家にでもかりてやろうかというぐらいの価格帯だが、当時はそれでも精一杯。
万がいちタイチが折半分を払えないとなるとたちまち俺の家計が赤字に転落しようという崖っぷち財政。個人債権でも発行できたらいいのに。

タイチはしばらく実家暮らしだったので、安い賃金なりにも幾許かの貯金があり贅沢をしなければしばらくはダラダラと暮らせるようで
「まあ少し貯金あるし、募集してるゲームあんま好きじゃないからしばらく様子みようかと思って」

様子。
お前は昔から様子ばかり見て来たじゃないか、そのせいで大きなチャンス逃すかもしれないんだぞ!と一瞬思ったが完全に頭がバカンスモードの俺は
「ほーん、そっか」
と深淵はなるべく見ないように軽い返事をした。
青い青いモラトリアムはバランスシートとキャッシュフローを見ると完全にスリーアウトチェンジな状況だったが、もちろん俺らは知る由もない。

まあ実際当時はゲーム業界は結構好況だったようで似たような求人は頻繁にバイト雑誌に掲載があったのだ。しかも高給。ヤバくなったら働けばなんとかなる、そんな簡単なスローガンに支配され共同幻想で暮らしているのだった。

そうして俺は弁当配達のバイトに行き始め1日4時間の労働で小銭をかせぎ、タイチは部屋でゴロゴロしながらゲームやら魔術の本やらを読み何かをカリカリとメモしては気ままな毎日を過ごしていた。

弁当屋は世田谷の代田橋と新代田の中間あたりに事務所兼工場があり、そこを拠点に渋谷のオフィスへの受注分配達や出張販売や世田谷区内の取引先への配達、または路上での販売など今では珍しくもないが当時としては珍しい(ように思っていた)業態だった。なるほど時給1400円払うだけのウマいビジネスのやり方であるなと感心し、賄いも当然ついていて余った弁当は4個まで持って帰っていいルールもありタイチはこれで随分助かっていたので良いバイトを見つけたなと内心小躍りしたものだ。

社長はハダカデバネズミのような顔をしていて歳の頃55、身長は180cmくらいで汚めのロマンスグレーオカッパ。人を疑ってかかる系の人相だったので怒らせたら怖いなと思っていた。


仕事にも慣れ、週払いで受け取る給料に毎週のようにホクホクとしていたシリウス少年は当然ながら「貯める」ことなど出来ず飲み代や何やらに使ってしまい月末の支払いをした後に銀行残高がそこそこ減ることに気づく。

この減り方は、まずい。

当然のように悟り倹約生活へと舵を切ろうと心を入れ替え清貧生活を志すが、そうは問屋が下さないものである。

なんとなく放っておいた宇宙の彼方に葬ったはずの「年金」と「健康保険」について請求の手紙が届きだしたのだ。
その封筒の色が黄色から赤に変わり、請求書に同封されている書面がどんどん脅迫口調になってくるのだ。

「この手紙を無視するとあなたの給与を差し押さえます、これは会社へも通知が行きます。」
おいおいおい!まてまて。まあ落ち着け。
お前は何を言ってるんだと小一時間問い詰めたい。

保険と年金の金額は15000+15000で合計30000円程度。
病院にも行かないのに法外じゃない?
30000円あったら駅前のツボハチで10回飲めんのよこちとら。
しかも年金って何?そんなの払うって承認した覚えないんだけど?

区役所に電話して「これどうにかなりませんか?」と聞くが
「どうにもなりません。年金は次年度に免除申請とかしてください」との冷たい返事。
もう世界がグルグルする。
何それ。
全然よくわからん仕組みで金めっちゃ絞り取られるやんけ。
なんでも、金額は今の月収とかの収入ではなく前年度の実績を元に算出しているらしいんだが聞いても良く分からない。

そういえば同居のタイチには督促来てないな、不思議に思いタイチに聞いてみると
「あー、ワ、住民票移してないがらな」
なにその裏技!

そうして赤字確実な収支予定となった俺王国の財政を立て直すため、1日4時間労働週休2日のバラ色生活はわずか2ヶ月で終焉を迎えなければならなかった。
次の週から俺は京橋のローソンで週2,3回夜勤をすることにして何とか赤字を回避しようともがくことにするのだが、少々長くなったのでまた次回。

へば!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?