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『最も強い武器は友情だ』

『マジカルバケーション』というゲームをご存知だろうか。

それは、今から20年程前。わたしが青い風に心を奪われる少し前の事である。

オレンジ色のゲームボーイアドバンスを買ってもらった椎瑠少女は、「GBA 中古 ま行」の棚の片隅で、このゲームと運命的な出会いを果たしたのだった。

「特に欲しいゲームもないから」という浅はかすぎる理由で手にしたことを、わたしは今でも後悔している。
こんなに夢中になって、涙を流して、胸が熱くなって、未だクリアできていないゲームは他にないのだから。

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マジカルバケーション(以下マジバケ)は、『コミュニケーションRPG』というジャンルに位置づけられる。

主人公は魔法学校ウィルオウィスプのいち生徒。
クラスメイト15人+引率のマドレーヌ先生で臨海学校に行った折、突如謎の怪物エニグマに襲撃されてしまう。
次々とエニグマに攫われていくクラスメイト。
ついにひとりぼっちになってしまった主人公は、エニグマの残したワープホールを使い、クラスメイトを探す旅に出る――

というのが、大まかなあらすじである(詳しくは公式サイトをどうぞ)。

魔法系RPGのわくわくするようなストーリー。
ターン制バトルで、ポケモンしかRPGに触れたことのなかったわたしでも入りやすいシステム。
GBAとは思えないくらい細かいグラフィック。

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途中で出会った仲間を引き連れて行動できる所も、ドラ〇エ的な王道RPG感を醸し出している。
それだけでめちゃくちゃ引き込まれてしまうのだが、こんなところでは終わらない。

マジバケの魅力は、その圧倒的な自由度とやり込み要素にある。
「とんでもねえな…」と白目を剥いた部分を、いくつか挙げさせて頂こう。

自在すぎるパーティと物語

旅の途中で再会する15人のクラスメイトは、一度に最大5人まで連れ歩くことが出来る。
序盤はほぼメンバー固定なのだが、途中からパーティ編成機能が解放されるので、好きなキャラを連れ歩くことが可能になるのだ。
(1人は最後までパーティ編成できないため、実質14人なのだが……)

魔法属性や能力差、自分の好みに合わせて自分だけのパーティを作り出し、プレイヤーは世界の危機に立ち向かっていくことになる。

(わたしの推し、カシス・ランバーヤードさん。刃属性のニヒルなお兄さんです)

RPGではよくある話だが、ここからがマジバケ特有の自由度が滲み出るところ。

ラスボス戦に関わった仲間は、エンディングで成長後の物語を見ることができるのだ。
主人公と例外1人を除いた残り14人。当然、将来像は人それぞれ。
そして、一度に連れていけるクラスメイトは最大5人。

全員の『その後の物語』を見るために、最低でもラスボス戦3回は必要になってくる。
実質マルチエンディング。

ついでに言うと、キャラ毎に冒険を助ける『特技』が設けられている。回復アイテムを探してくれたり、ミミッ○的な宝箱を見破ってくれたり、謎の言語を解読したり……誰を連れていくかによって冒険の難易度も大きく変わる。

(モンスター処理・障害物処理の特技を持つ子だけを連れて、先にラスダンのキーアイテムを集めに行く図)

「このキャラがいないとこのダンジョンは突破できない」なんてことはないので、あえて解読班やモンスター処理班を連れて行かずに強行突破する猛者もいる。めちゃくちゃ時間かかるけど……

もちろん所々で発生するイベントも、キャラによって掛け合いや台詞がひとりひとり違うわけで。文字通り、すべての展開がキャラの組み合わせで自由自在。
たかがパーティ、されどパーティ。この時点で結構な自由度の高さなのだが。

果てを知らない、魔法の道

上述した通り、主人公やクラスメイトは魔法使いである。
マジバケの世界では16の魔法属性があり、クラスメイトもモンスターも、それぞれ属性をひとつずつもっている。

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主人公もゲーム開始時に、全16のうち13属性からひとつ選択できる(ちなみにわたしは水属性が好き)。

世界に散らばる精霊(属性ごとに全7体いる)と仲良くなることで魔法の威力を上げ、相性関係にも気を配りつつ、バトルしてレベルを上げて、使える魔法を増やしてストーリーを進める……というのが大まかなゲームの流れとなる。

基本的に、1人につき与えられる属性はひとつだけ。
ただし主人公だけは例外である。通信機能を使うことで、通信相手の属性を習得することが出来るのだ。マジバケではこれをアミーゴと呼んでいる。

アミーゴが増えた分だけ、習得した属性も増える。
通信とレベルアップで使用魔法をじゃんじゃか増やしていけば、複数属性の魔法を組み合わせてのバトルが可能となるという寸法だ。

「じゃあ、通信しまくって全ての魔法をコンプするってこと?」と思った、そこのあなた。

そんな単純な話じゃないんですよこのゲームは。

先程ゲーム開始時に「全16のうち、13属性から好きな属性をひとつ選択できる」と上述した。
つまり普通に通信するだけでは、どんなに頑張ってもデフォルトの13属性を習得するのが精一杯なのだ。
それでは、残りの3属性(愛・闇・光)はどのように習得するのか?というと。

愛属性。自分と同じ属性のアミーゴを5人集める。(まあ分かる)
闇属性。アミーゴを100人集める。(ん?)
光属性。光以外のすべての属性魔法を覚える。(????)

※『すべての属性魔法を覚える』とは、あくまで『光以外の15属性を習得する』のではなく『光以外の15属性で覚えることのできるすべての魔法を覚える』という意味です※

つまりコンプを目指すなら、マジバケを持つ友達が100人いることが大前提となる。
富士山の上でレッツアミーゴである。おにぎりなぞ食べている場合ではない。

友達100人できたとしても全属性揃ったわけではないから、その後は怒涛の周回でレベルを上げ、すべての魔法を習得し、初めて光属性のレベルが1になる。

ね?簡単でしょ?(何を仰る)

実際のところはGBAとカートリッジを2台用意して、ひたすらリセマラと通信を繰り返す……というのが現実的なやり方だった。それでも100回リセマラするのは中々に大変である。

ちなみにWiiUで配信中のVC版では、初めから光以外のすべての属性を習得した上でプレイすることが可能になった。

なんという親切設計。
あとはもう、レベル上げさえできれば全属性コンプができる。ありがとうVC版……

タダで踏破させない大冒険

今更ながら、マジバケはめちゃくちゃに難易度が高いゲームである。
上述した魔法コンプを初めとしたやり込み要素と、初見でクリアできないダンジョン達がその理由。

まず、どんなダンジョンがあるかというと。

・一定の数の精霊と仲良くなっていないと開けられない扉を開けて進む
・モブが話した情報だけを頼りに、特定の人物に特定の順番でアイテムを渡して最上階に通してもらう
・灼熱で仲間がへばらないために、アメフラシたる生き物を転々と触って雨を降らせながら砂漠を駆けずり回る
・幽体離脱したキャラを本体に戻して、道をどいてもらう
・ツボへ正しい順番にアイテムを捧げて道を開ける(順番はダンジョン内で聞き取った中抜けの情報から推理する)

などなど。
字面にすると「えっそれだけ?」と思うでしょう?
やってみて欲しい。めちゃくちゃ難しいから。
ただでさえ広いマップに、頭をフル回転させる仕掛けがてんこ盛りなのだから。
わたしは未だに攻略本が手放せない。

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(紫色の生物がアメフラシ。これに触れることで3秒くらい雨が降る

これらをすべて突破し見事ラスボスを倒しても、その先には隠しダンジョンが待っているわけで。

その隠しダンジョンの中にはさらに隠しダンジョンが2つほどあって、しかもその隠しダンジョンに入るには闇属性と光属性の魔法を習得している(=友達100人作って全属性魔法を習得している)ことが大前提で、さらにその中にいかないと精霊をコンプリートできなかったりするわけで……

クリアさせる気あんのか、このゲーム!?

と思わず叫ばずにはいられないくらい、とにかくやりこみ要素がどこまでも出てくる。
詳しく書くと多すぎる上にネタバレに触れてしまうので割愛するが、完全コンプを目指すなら、初めは回復アイテム無回収縛りで進まないといけなかったりする。
えぐい。初見にはえぐすぎる。

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(やりこみ要素のひとつ、精霊集め。7体×16属性=全112体。隠し扉や隠しダンジョンの中しか存在しない精霊もいる)

ちなみに初プレイから20年程経った今でも、わたしは隠しダンジョンその1を踏破できていない。その2その3は一生踏破できる気がしないです……

世界を救う、15人の絆

話を戻そう。
中古ゲームショップでの運命的な出会いを果たした椎瑠少女は、意気揚々とこのゲームを親にねだり、帰宅してプレイを始め――いちばん最初のボス戦でものの見事に挫折した。

(マジバケの敵キャラであるエニグマの魔法属性は、主人公達と尽く相性が悪いのである)

何度やっても勝てず、一向に進まず。投げ出してやろうかと思った回数は数知れず。
それまでポケモンと『美少女戦士セーラームーン 真・主役争奪戦』しかプレイしたことのない小学校低学年の椎瑠少女には、あまりに難易度が高かった。
そんなある日、たまたま本屋で攻略本を見つけたので購入。倒し方を漸く理解し、なんとかバトルを突破した。

勝てた達成感のまま、攻略本片手にプレイし始めた椎瑠少女を待ち受けていたのは――壮大で熱くて胸にじんわりくる、主人公とクラスメイト達の冒険譚だった。

バラバラにされたクラスメイト達が、命がけの戦いをして、その中ですれ違っては向き合って、仲直りして。絆を深めて主人公の仲間になって。

ひとりぼっちで始まった友達探しが、みんなで世界を救う物語になっていく。

マジバケに出てくるすべての言葉が、音楽が、色彩が、画面を通り越して、プレイヤーたるわたしに突き刺さる。

ダンジョンの仕掛けは上述の通り難しく、後半は本当に攻略本なしではプレイできないし、敵は容赦ないし、ストーリー展開も容赦ないし。何度涙を呑み、何度攻略本を読み返し、何度オレンジ色の機体へかじりついたか分からない。

ただ、初めて迎えたラスボス戦は本当に激熱だったし、初めて見たエンディングはめちゃくちゃ泣いた。

それからわたしは、このゲームを何周も繰り返している。属性やパーティを変えて何度も何度も。その度に天を仰ぎ、その度に新しい発見をして、その度に胸を熱くする。

マジバケがわたしを本格的にゲームの道へと誘い、数年後、ソニック・ザ・ヘッジホッグという人生最大の推しに出会うきっかけにもなった。
ソニックが『推し』の原点なら、マジバケは『好き』の原点だ。

それから色んなゲームに出会ったし、めちゃくちゃ好き!と言い張る作品は星の数ほどあるけれど。

#全力で推したいゲーム と言われたら、やっぱりマジカルバケーションなのだ。
この小さなカートリッジにギチギチと詰まった壮大すぎる物語を上回る作品を、わたしはまだ知らない。

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ここからは余談。
なお、マジバケには続編が出ている。

こちらは宇宙を舞台にした一大スペクタクル冒険譚となっているので、是非よろしくさせて頂きたい。わたしはジャスミンが好きです。

ちなみに、タイトルはテレビCM放映時のキャッチコピーである。中島美嘉さんが出演されたらしい。
わたしは見たことがない。羨ましい。


美味しい肉を食べます