マガジンのカバー画像

自選短歌

19
毎月(または半年程)の頻度でまとめている自選短歌です
運営しているクリエイター

記事一覧

自選短歌:2024年4月

コーポって感じのきみの部屋いつか忘れたい日がくると知りつつ 去り際で分かる わたしは原作にいない劇場版のキャラだな 久方の酒にとろけて月面に憧れすぎているかもしれず はりぼてのはりぼてだった交際も楽しかったな今しかなくて レンタカー返すときまでふたりだよ眠くなったら眠っていいよ

自選短歌:2024年3月

横切った明治通りで見る雨の夜は地面がずっと明るい 長雨を済ませた空のあざやかに慣れないものをこわいと思う お日様のようだと百合を飾るひと花言葉など知らなくていい 満開を逃してきみは謝ったここが何処でもよかったけれど あすよりも先を思っている春のきみの海馬と仲良くしたい

自選短歌:2024年2月

陽が透ける梅の香りを吸って、吐く 冬の未練は一昨年のもの 凍星が出会った頃に重なれど二度の居留守でわかってほしい 別れ際みたいな顔のおはようだ残り三泊四日あるのに 偶数はたぶん寒色だと思う眠い夕方だから話すと 独白を歩みにのせて往く夜のロールアップの裾から桜

自選短歌:2024年1月

象として役目を終えてなだらかに油粘土はケースへ還る 東京と夢と私を捨ててまで選んだ地元の女とはどう 透明のネイルは落とすことにしてあなたの恋を叶えてあげる たのしいと借り物だからこわくなるお猪口の底の輪っかが歪む もうここで大丈夫です彼のこと誰も知らない銀河ですから

自選短歌:2023年12月

傷口を撫でる言葉が浮かばずに新玉ねぎを丸ごと煮込む 海になるシーンはカットされていてきみの中から雪は見えない 記憶では冬の歌だけ口ずさむ彼女の息は白くなかった 飴ほしい・見て海王星・寒いかも 帰り支度に時間をかけて 偶然をうんと懐かせ必然と言い聞かせつつ恋を続ける

#2023年の自選五首を呟く

鼓膜から歌を伝って来れるよう夜は心を満たさずにおく 摘みながら束ねる花のように脱ぐ海に適していないサンダル 飲みやすい一口分の悲しみは比べたがりを幸せにする 「噂では僕はあなたが好きらしい」掌で靴擦れに触れつつ 二回目のラストライブを見届けた帰路は十五のわたしと語る 表題のTwitterハッシュタグ企画に参加させていただきました。 上半期にも自選をしたので、今回は下半期に作った歌を中心にしました。 月毎の自選ではあまり対象としていないのですが、連作からも選んでいま

自選短歌:2023年11月

飲みやすい一口分の悲しみは比べたがりを幸せにする きみだって違う個体で「複雑な家庭」に対義語なんて無かった 今月も解けずに帰る婦人科の待合室に知恵の輪ひとつ 耳鳴りをライブハウスでもらい受け行きより歌舞伎町ややしずか 逆位置の運命の輪を捻じ曲げて終電降りて会いに行くから

自選短歌:2023年10月

布団から出ないわたしの日曜に届く近所のクシコス・ポスト 留守電を機種変更で失ってついにあなたは記憶のひとだ 大切なきみの心を攫うのが呼び捨てしないひとで嬉しい 恨みでも構いやしないその胸に永住権がありますように 「噂では僕はあなたが好きらしい」掌で靴擦れに触れつつ

自選短歌:2023年9月

昨日とも明日とも違う顔ぶれを運ぶ始発は繰り返される この先は袋小路の私有地と知りつつきみの足跡を踏む 斬新な痛みが欲しい幸福で殺風景なからだの中に 水は手に雲はピアノに雨だれは音に等しい仕組みでそそぐ 今もなお雪の地平を目でなぞる見上げるほどの剥製の熊

自選短歌:2023年8月

傷ついたわたしを憂うあなたより傷も肯う彼が恋しい トンネルで見上げたエイだ、と思った午睡の脇を過ぎるスカート 上履きにアルバローザのロゴを描く彼女は夜学へ移ったそうだ 八つめの曜日の朝を探すべく夜更けに発ったごみ収集車 黙示録めいた漫画を読みふける一話完結型の毎日

自選短歌:2023年7月

夜なのに烏が吼える 眠れない者が小さく応えてみせる 摘みながら束ねる花のように脱ぐ海に適していないサンダル この舌の二枚のうちの一枚できみの涙を舐めとってゆく 唇が冷えてしまったとだけ言う西瓜を置いてそれだけを言う 忘れてもいいことばかり思い出す酸素の薄い夏の真昼は

#2023年自分が選ぶ今年上半期の4首

天国で落ち合えそうもなく祈る「地獄にきみが居ませんように」 やわらかい蕾のうちにあなたにも集めてほしい彼女のスチル (平凡を羨む夜があなたにもありますか)サイリウム折る音 デコルテで幽かに光るガーネット返り血を許した隙のごと 表題のTwitterハッシュタグにおいて、まとめた4首です。 多く発表しているわけではないものの月単位で自選をまとめていて、 さらに半年単位で要るかしら?と思いつつ、せっかくなので…… 月毎の自選ではあまり含めていない、連作などからも選びました

自選短歌:2023年6月

ひとよりも劣るところに×したらクロスステッチみたいなわたし 新鮮な洗濯槽のきらめきに負けじと光る失くした指輪 週末ときみが去るのち味覇の赤だけが眩しい冷蔵庫 プリンアラモードにそっと強面の苺をのせる 彼に似ている 揺れているうがい薬が沈んだらわたしはただのタスクに変わる

自選短歌:2023年5月

一本になってしまった我々の傘を尻目に頼むハロハロ 嘘じゃなくフィクションだって分かるひとだけがわたしの作画を愛でて 動き出す下りの始発散り散りのネイルチップはまだ夜にいる 朝食に仕留めた猫が一昨年のきみの風味で輪廻を思う たっぷりのお湯を注いだ言の葉とフィルターに残っているのがわたし