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嫌われる勇気

昔いた職場に嫌われていた上司がいた。
上司はとにかくうるさい。
嫌みや揚げ足取りにと、ひどいのだ。
まわりはそんな上司の事でヒソヒソと、
悪口を言っては、励まし合っていた。

あいつムカつく。
なんなんだよ、うるせーっつーの。
他にやる事ないのかねぇー。
気にしなくていいよ、あいつの事は無視で。

ひどい言われ様である。

ある日、大きな案件があり、無理をして頑張っていたであろう新人がぶっ倒れた。
上司は怒鳴り、新人に早退しろ!と命じた。
まわりはシーンと静まり返った。

そんな中私は、上司を飲みに誘った。
上司はえっ?と驚き、
まわりもえっ?と驚いて、
またヒソヒソと何か話していた。

上司の仕事は多忙である。
よくこんな仕事量をこなしながら、他の奴らの事を見張っていられるなんて、すごいな。
飲みに誘ったのもんだから、
上司の仕事を手伝ってやって、

早く飲みに行きましょーよー。

と催促する。
ひと段落した所で上司が

うーん、まぁ今日の所はこれでいい。
飲みに行くんだろ?
先に言うがあまり金ないからな。

と軽く嫌みを言われ、笑いながら

こんな職場にいたら、
金なんて微々たるもんじゃないっすか。
わかってますよ。

そう言うと、近くの安い居酒屋に行った。
とりあえずビールと枝豆を注文し、
ビールがすぐ来た。
とりあえず乾杯をし、本題に入る。

毎日、あんなに仕事量あるんすか?
なんで、他の奴らの事気にするんすか?
正直、嫌われてますよ。

と聞いてみた。
すると上司はビールを飲み干し、枝豆を持ってきた店員にビールのおかわりを注文し、枝豆をかじりながら、まぁまぁ…と前置きし、

なんだ?何が言いたいんだ?
もちろん仕事は沢山あるし大変だぞ。
まぁ、嫌われてるだろうな。

と笑って、店員が持ってきたビールを受け取ると店員を呼び止めすぐに飲んで、またビールを注文し始めた。
なんだよ、すんげー飲むねぇ…。
飲み放題にすりゃよかったよ…。
等と思いながら枝豆をかじる。

お前、嫌われる勇気あるか?

唐突に聞いてきたもんだから、枝豆が気管に入ってゲホゲホとむせてしまった。

えっ!そんな勇気ないっすよ。
今の自分には無理っす。
好き好んでやる奴います?

そう答えると、上司はそうだよな…と意味深な顔をし話し始める。

俺がこの職場に入った時はすごかったぞ。
ヤジが飛びまくって、叱られてばかりだ。
まぁ、俺が未熟者だったせいもあるわな。
でもよ、それでも他の奴らとかに助けられて、
なんとかここまでいるってわけだ。

ん?なんだ?完結されたの?
嫌われる勇気って何?うむ…わからん。

上司は今度はちびちびとビールを飲んで、

俺も若かったな、ムカついて一度そん時の上司にくってかかってっよ。
オメーになにがわかんだよ!って。
馬鹿だよな俺。
それでもなお、上司は俺を怒鳴り散らして、 そうだ今日の新人みたいに帰れ!
って言われてよ。
売り言葉に買い言葉だな。帰ったんだ。

ん?語りだしたぞ。さっきの勢いどこいった?
面白くなってきたぞ。

それでどうしたんすか?

と聞き出してみた。

ん?それでか?次の日仕事に行きたくなくてよ、でもそこで行かないと負けたような気がして、腹くくって出社したんだ。
そしたら、上司がよ、何しに来た!って言うんだ。でもまわりの奴らがなだめてくれてよ、事なきを得たって感じだ。
そんな上司がよ、不摂生がたたったのか、俺の怨念が通じたのかわからんが、倒れてよ…。

おやおや…いわゆる武勇伝ですか?
ここは、聞いておこうじゃないか。

へーそんな事あったんすね。
んでどうなったんすか?

上司はニヤリと笑い続きを語る。

嫌だったけど見舞いに行ったんだ。
そしたら上司が急に、
お前には嫌われる勇気があるかって聞いてきたんだよ。俺もお前とおんなじだ、そんなもんないと答えたよ。
そしたら、その上司がお前はなんで辞めないんだ?嫌だろ、毎日怒鳴られて。って聞いてきたんだよ。
確かにそうなんだよな。
なんでだろうって考えたら仲間がいたからなんじゃないかって思えてよ。
ムカつく上司がいて、そのおかげでまわりとの人間関係が強くなっているんだよ。
そん時に、気づかされたんだよ。
上司のおかげで仲間と団結できている自分がいるんだって。
すげーよな…真似できねぇと思ったよ。
だけどよ、俺も長く勤めてるといわゆる上司になるわけだ。もちろん働きに来てるんだから、仲良しこよしって訳にはいかない。
部下の為に何が出来るか。

それが嫌われる勇気なんだよ。

人間関係スムーズにいかせる為には、
仕事を循環させるには、一人は嫌われ者がいた方がいいんだ。
小さいありんこですら、そうなんだぞ。
一匹のありんこをよ、いじめんるだよ。
で、その一匹をひょいっと助けた所で、
また違う一匹がはぶかれるんだ。
面白ぇよな。
んで、俺がその一匹になってやるって決心したってわけ。
嫌われてようが、なんだろうが、それで部下が辞めずに結束して頑張ってくれれば、俺はそれでいいんだよ。あん時の上司の勇気を受け継いでいかないと意味ないじゃないか。

おいおい、おっさんすげーな。
そんな事考えてたなんて知らなかったぜ。
思わず尊敬しちまったぜ。
なぜ嫌われにいったのか不思議だったが、
そんな深い意味があったんだな。
ん?これはつまりだ。
自分、さっき嫌われる勇気あるかって聞かれたよな…つまりだ…このままだとそれ受け継いでくれって事?無理無理…嫌だよ…。
そんな下心を察したのか上司は、

お前、何真剣な顔してんだよ。
大丈夫だ。俺がいる限り部下の為に嫌われ者になってやるから。
お前は、仲間といい仕事してくれればそれでいいんだよ。俺はみんなを信頼してっからよ。

ぐだぐだになりかけてる上司をタクシーに乗せてお帰りいただいた。

次の日、新人は元気な声で挨拶してやってきた。まわりはよく来たなと歓迎していた。

ふと上司を見ると、やれやれとした顔をしたと思えば、新人をしばらく無視していた。

嫌われ者は一つのプロセスなのかもしれない。

嫌われる勇気ありますか?

私はまだ…ありません。







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