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生命と死

ここ最近、こんな話ばかりだが、
どうかお許し願いたい。
この話は、私の中でかなり重要な
出来事なので…。書きます。

これは、もと同僚の話である。

彼女はとても天真爛漫で誰からも好かれる。
頭もよく、仕事も早い。
公私共に仲良くさせてもらっていた。

そんな彼女が突如妊娠したのである。
子の父親は頑なに言わない。
多分だが既婚者なのではないか。
彼女の両親は理由を知っているのだろう。
身重な彼女に冷たく突き放したのだ。

そんな彼女は仕事はやめず、
大きいお腹でせっせと仕事をこなす。

臨月を迎え産前休暇を取って休んだ。
ずっと頑張って働いていた彼女。
やっとの休みである。

ゆっくり、お腹の子と対話して、
妊婦生活を満喫してしてくれよ。

そう言うと、

そうだね!そうする。

とにこやかに言う。

予定日を過ぎてるって言うのに、
赤ちゃんったらまだ私の中にいたいみたい。

そうメールが来た。

早く赤ちゃんに会いたいな。
待ち遠しいぞ。

とメールを送った翌日、

やばい陣痛きてるけど、微弱陣痛?なのか
全然赤ちゃん出てきてくれないの。
すごく痛くて辛い…。

そんなのあるのか、大変だな。
何か欲しいものあるか?
何か買っていくぞ。
腰さすってやるから、
とりあえず向かうぞ。

彼女は弱りきっていながらも、もがき苦しみ、
差し入れのバナナやおにぎりを食べて、
ふぅー、ふぅーと深呼吸していた。

私は、彼女の腰をさすり、
大丈夫か?何とかならないのか?

陣痛にも波があり、マックスを迎えると
気絶する彼女。そしてまた陣痛がきたら、
イタタタターと起きるのだ。

促進剤?なにか点滴をして、もなお、
痛みと闘っていた。
それでもなお、赤ちゃんは引きこもっている。

翌々日になっても変わらなく
先生と相談し、このままだと彼女の体力も、
限界で自然分娩は難しい。
帝王切開に切り替える案を出して、
彼女もそれに承諾したらしい。

なんとか出産したらしいとの報告を受けて、
退院しても多分てんやわんやだろう。
もうしばらくして落ち着いたら会いに行こう。

出産して数週間して、会いに行った。
そして、沐浴を体験した。
なんて可愛いんだ。儚くそして尊い。
一丁前に気持ちよさそうな顔をしている。
へその所が黒く固まっていた。
これはへその緒の名残か?

彼女は誰にも頼らず、
一人で育てるつもりである。
産後休暇のうちに保育園を探して、
すぐに職場復帰をするんだと言う。

あとどのくらいなんだ?
と聞くと、
この子が二ヶ月になる前には復帰するよ。
とたくましく答える。

お前は大丈夫なのか?
すごく心配なのだか…。
育児休暇取ったらどうだ?
と聞いたが、彼女は譲らない。

今は母乳だけど、そのうちミルクに変えないといけないから哺乳瓶に慣れさせないと。
と彼女は母乳をせっせと哺乳瓶に入れて、
それを赤ちゃんに、与えていた。

職場復帰し、定期的にトイレに行き、
母乳を出して流す。
そしていつもより早めに帰る。
そんな日々が続いていたある日である。

彼女から相談を受ける。
母乳絞ってたら、なんかシコリがあるんだ。
産婦人科の看護婦さんに聞いたら、
シコリが動いてるから、大丈夫って言ってた。
でも…不安なんだよね…。

それいつからなんだ?
いつからそのシコリあったんだ?

と聞くとだいぶ前から…。

と言うではないか。

お前はバカか!
なんでもっと早く言わないんだ。
お前には、赤ちゃんがいるんだぞ!

でもでもだってと彼女はどもる。

とりあえずだ、よく話してくれたな。
ありがとうな。
病院行くぞ!一緒に行くから安心しろ!

次の日、職場にもろもろの説明をし、
休みをもらい、彼女と病院に行った。

とりあえず検査して、結果は後日。
いちを母乳を止めて下さいと薬をもらい、
帰った。

早くにミルクに変えていたが、普段家にいる時は母乳をあげていたので、母乳で張る胸が痛くてたまらないらしい。常に冷却剤を胸に当てて仕事している彼女。

一番辛いのは、赤ちゃんに母乳をあげれないのが辛い…。ミルクを飲む我が子を見ながら泣いてしまう…。と彼女はぼやいていた。

検査結果の日の前日、

事前に家族の誰か呼んでくれって病院から、
電話があったんだけど…。
両親に電話する勇気なくて…。
付き添ってくれない?

と電話が来た。

なんだよそれ。
お前大丈夫か?
不安なら一緒に行ってやるよ。
覚悟決めないとな。
大丈夫だ。
お前には、かわいい赤ちゃんがいるだろ?

そう言う事で、
一緒に検査結果を聞きに行った。
ご家族ですか?
と聞かれたのできょうだいです。
と答え診察室にはいる。
そしてレントゲンに映る影を見て、
息を呑んだ…。
先生は

これわかるよね?
検査結果は乳がんです。
残念な事に進行が早く、
リンパにも転移してます。
これから、精密検査して、
他にも転移してないか確認していき、
乳房は全摘出になります。
一刻も早い方がいいので、
来週か、十日以内に入院し手術します。

彼女は、覚悟をしていたのだろう。
淡々と先生の話を聞き、

わかりました。
よろしくお願いします。

と言って後は看護師の人の指示の元、いろんな書類に手続きをはじめる。

私はと言うと…号泣していた。
大丈夫だ、覚悟決めないとな、なんて言ってた自分が一番大丈夫ではなく、覚悟を決めてなかった…。
信じられなくて、なんでだ?どうしてだ?
と泣いてしまっていた。

そんな頼りない私をよそに彼女は、

私は大丈夫だよ。
これからが大変だね…。
来週かぁ…早いな…。
急がないと…。

と冷静に話していた。
自分の不甲斐なさに喝を入れ、

そうだな。
これからだ。
とりあえず、両親には話さないとダメだ。
赤ちゃんだっているんだからよ。
お前一人で抱え込まなくていいんだ。

彼女はそうだね。
と勇気を出して母親に連絡をした。
事後報告になってしまったけど…。
と今までの事、これからの事を
話して電話を切った。

お母さん、来てくれるって。
叱られたよ…こっぴどく。
はぁ…私も母親なのにダメだね。

その日の夕方には、
彼女の両親が彼女の家に来た。
二人はまず孫である赤ちゃんを抱き上げ、
あやして、喜んでいた。
そして、彼女を責め立てたのである。

なんで、こんな事になるまでほっといたんだ!
もっと早くに検査すればよかったじゃないか!
お前は本当に何考えてるんだ!

ごもっともである。
その気持ちもわかる。
なぜ私はここにいるのか不思議だが、
反論してしまいました。

お言葉ですが、お父様、お母様。
責めるお気持ちはわかりますが、
今話しても仕方ない事ではないでしょうか…。
過去を責めても何にもなりません。
お願いします。
これからの事をどうかお考え下さい。
彼女の事、そして赤ちゃんの事、
支えてあげれるのは、
ご両親様しかいないのです。
時間がありません。
心の整理もつかないうちに、
こんな事になってしまった事は、
彼女自身とても後悔しているはずです。
なので、責めるのではなく、
彼女を助けてあげて下さい。
この通りお願いします。

と土下座をした。
ご両親は少し黙り…。

この人は誰?

と怪しまれ、つっこまれた…。

私は彼女の同僚です。
彼女の付き添いをしてました。
生意気な事を言ってしまってすみません。
ですが、近くで彼女を見てきました。
彼女はとても素晴らしい人です。
赤ちゃんも立派に育ててます。
私はそんな彼女をとても尊敬してます。
だから、少しでもお力になりたいと、
勝手にやってまいりました。
ただの他人が厚かましく発言してしまい、
申し訳ありませんでした。
私は帰ります。
どうか、この先の事に目を向けて、
彼女の側にいてあげて下さい。
では、失礼します。

彼女は泣いていた。
彼女はありがとうと言うと、
私を見送ってくれた。


いつの間にか話が長くなってしまったので、
続きは明日にします。


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