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【前編】西友 大久保社長が考える「小売業の時代変化への対応とDX」

2022年8月26日(金) に需要予測型自動発注サービスを活用した事例などを紹介するリテールDXオンラインイベント「第9回 sinopsユーザー会」を開催しました。

「sinopsユーザー会」とは
当社の需要予測型自動発注サービス「sinops」を導入いただいている企業による事例発表や、sinopsの最新機能の紹介などを通し、業務改善・効率化や、交流を目的としたイベント

「第9回 sinopsユーザー会」開催報告記事はこちら

今回は第一部の株式会社西友 代表取締役社長、株式会社リテイルサイエンス  ファウンダーである大久保 恒夫 氏の基調講演「小売業の時代変化への対応とDX」の内容を前・後編にわたり、ご紹介します!

大久保 恒夫氏

大久保 恒夫氏プロフィール
大学卒業後イトーヨーカ堂に入社し、業務改革の事務局を8年間担当。その後独立し、コンサルティング会社である株式会社リテイルサイエンスを設立。2021年より株式会社西友 代表取締役社長兼CEO、株式会社西友ホールディングス 代表取締役社長を務める。

ビッグデータとAIで起こる第四次産業革命

18世紀にイギリスで起こった「第一次産業革命」。生産活動の中心が農業から工業へ移り、都市が発展するなど、社会が大きくかわりました。19世紀には内燃機関(エンジン)や電気化といった「第二次産業革命」により、社会は爆発的に成長。1980年代にはパソコンとインターネットの普及により「第三次産業革命」が起こりましたが、現在、それをさらに上回る「第四次産業革命」期を迎えています。

この第四次産業革命を契機に、「小売業でもデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する企業が増えている」と大久保氏は説明します。「以前と比べ、データの保存・処理コストが下がり、そういった課題を無視できるほどになった。そのため膨大なデータをAIなど最新技術を活用して処理できるようになり、経済、社会に大きなインパクトを与えています。小売業も例にもれずAI活用や自動化が進み、デジタルディスラプション、DXが進んでいます」。

第四次産業革命
▶デジタル化の急拡大による産業革命
データの保存、処理コストが無視できるほどに低減
▶ビッグデータをコンピュータが処理し、経済、社会、産業が爆発的に変化
AI化、自動化が進み、デジタルディスラプション、DXがおこる
▶データ、デジタル化がビジネスモデルの基盤となる
小売業にも流通革命がおこる

お客様中心の流通構造

大久保氏は第四次産業革命をはじめとするデジタル化により「お客様中心の流通構造が実現可能になった」と言います。

「今まではメーカが製造した商品や小売業が企画したPB(プライベートブランド)商品といったつくる・売る側の都合が優先されてきました。しかし、お客様が中心の流通構造が本来あるべき姿。第四次産業革命により、お客様中心の構造に変わってきています」。

リアルとネットの横の融合

お客様中心の取り組みの一つが「OMO」(Online Merges with Offline)です。顧客体験の向上を目的とするマーケティング手法で、直訳すると「オンラインとオフラインの融合」です。

「今後、ネットを利用してさまざまなことが行われるネット化がさらに進んでいきます。私は車社会だったものがネット社会に変わってきていると認識しています。小売業は車社会の中で郊外の店舗に大きな駐車場を設置し、発展してきました。これからはネット上でものを売る企業が成長していく時代に突入します」。

店舗小売業がネット販売を行う
▶ネットで購入した方が便利である
▶店頭で購入した商品を宅配して欲しい

ネット小売業が店頭販売を行う
▶店頭で商品を確認したり、持ち帰りたい
▶店頭で接客を受けることが楽しい

しかし、あくまでメインは「実店舗」だと言います。「実店舗がメインでネットスーパーはサブという構造はしばらくは変わらないと考えます」。

流通が縦に融合

第四次産業革命により、流通は縦につながるようになると大久保氏は説明します。「生産者、卸売業、小売業、お客様という縦の流れで情報が共有されるようになります。各々のデータがシームレスにつながることで、生産計画や販売計画を立てやすくなります」。

小売業と生産者が情報を共有する
▶小売業の売場データ、販売データが生産者に伝わり、生産者の生産情報が小売業に伝わる
▶生産者は生産計画を立てやすくなり、小売業は売場販売計画を立てやすくなる

それに加えて今まで情報が活用できていなかったお客様の個々のデータの活用も進むと言います。「売場や売り方のデータがを売場設計や売り方、価格設定といったマーケティングに活用されたり、流通構造の効率化のため需要予測も進みます」。

第四次産業革命で全体がトータルに効率化される
▶個々のお客様のビッグデータ、売場、売り方データがマーケティングに活用される
▶計画的生産、販売、計画在庫、計画物流により、流通全体の効率が上がる
▶販売と物流が一体化し、プロセス的マーケティングにより価値が創造される

「小売業は売って初めてデータを収集できます。売れ方や売れ行きなどを見ながら都度手法を変更をする『プロセス的マーケティング』、いわゆるPDCAを回していくことで、お客様のニーズに合った売場を実現できると考えます」。

食品スーパーは今、改革を進めるチャンス

 新型コロナウイルスの感染拡大により、家で食事をする機会が増えたことで、食品スーパーは2020、21年は追い風が吹き、業績が改善しました。しかし、今年の上期は感染が落ち着いてきたこともあり、ディスカウント合戦が始まるなど、営業利益が大きく低下しているといいます。

「感染リスクを軽減するために、ネットスーパーを利用する人も増えました。環境の変化により、食品スーパーは経営改革を考える時期を迎えています。やらないといけないのではなく、今がチャンスと捉え、DXによる情報のシステム化やネット化対応を進めるべきです」。

店舗売上の減少という基本的構造は変わっていない

日本では少子高齢化などにより店舗売上が減少することが懸念されています。「高齢者や子育て世代は店舗へ出かけることが難しく、消費力が低下します。さらに競合店の出店やネットスーパーの増加により既存店舗の売上減少が加速するなど、マーケットが縮小傾向にあります」。

さらに、今までの売上拡大対策は効果が薄れていくと言います。「チラシの効果は下がっていますし、消費量が増えないためディスカウントしても売上は伸びません。新規出店をしても不振店になるケースが増えています」。

ディスカウント合戦になると粗利率が上がらず、販促費の負担が大きくなったり、人件費が高騰したりと営業利益の減益、赤字化が現実問題となってくると大久保氏は説明します。

小売業の価値創造と経営戦略

小売業の重要課題は「価値を創造すること」だと言います。「高度成長期は店舗をつくり、商品を置いておけば売れる時代でした。そうした売場があるだけで価値があるという時代は終わりました。これからの時代、利益を生み出すためには価値を創造していかなければなりません」。

価値のある、お客様に満足してもらえる売場づくりには「商品力、物流力」と「販売力、販促力」の2本柱が重要で、この2本柱をしっかりと築くためには「教育の強化」と「情報システムの強化」という基盤の強化が欠かせないと言います。「しっかりと基盤を築くことで、価値ある売場を実現でき、利益改善につながります」。

お客様満足のための売場での2本柱
① 商品力、物流力の強化
② 販売力、販促力の強化

2つの基盤強化
① 教育の強化
② 情報システムの強化

お客様データをもつ小売業が流通構造のリーダーに

小売業はお客様に近いため、精度の高いデータを素早く収集できるという強みがあります。「こうしたデータを生産者、卸売業、小売業、お客様という縦の流れで情報を共有することで、小売業が流通全体のリーダーとなり価値を推進できます」。

▶小売業が店舗とネットでビッグデータを収集
▶ビッグデータを活用し、仮説を立て、PDCAサイクルで価値を創造
▶小売業がデータを活用し、商品開発・調達、物流、販売促進の効率化を
▶小売業が、メーカー、卸、とチームを組んで、商品開発を主導
▶小売業が、販売計画、販売実績から、物流、在庫を最適化し、価値を創造

「しかし、データを分析したからといってどのような商品を製造すれば売れるのかがわかるわけではありません。お客様のニーズは常に変化していくため、まずは売ってみて、どういうことが読み取れるのか分析・検証し、メーカーや卸売業とも共有することで、大きな利益を生むことができるでしょう」。

前編では流通業がDXに取り組むべき理由について、具体的に解説いただきました。後編ではDXに取り組む際の具体的な手法などについてご紹介します。