そばにいてね
私の母は高齢だ。私と同い年の友達の親が羨ましかった。みんな若くて、私の親よりもずっと。
母は先月40年続いていた仕事を辞めた。
もう定年退職の年齢にはなっていたが仕事の出来を認められ、他の人よりも長く働いていた。でも、自分の親の介護のために大好きな仕事を辞めた。母は、毎日家で過ごすようになった。
思い返せば、私がたった一歳の頃から職場に復帰して仕事に励んでいた。私が知る母は朝早くから仕事に行っていて帰りは遅い人だった。
「ママ行かないで!私もママと同じところに行く!」
幼い頃の私は、出勤する直前に大泣きして母の腕を握った。私の手はまだ小さくて、母の腕も思ったように強く握れない。母は私が泣いているのを少し笑っているような、困ったような顔をしていた。
祖母と協力して、一緒になだめながら私の指を、大人よりもずっと力のない指を丁寧に、一本ずつ、一本ずつ離していった。絶対に離したくないのに大人の力には敵わなくて、私の意に反して離れていく手を私は絶望の目で見ていた。ただ虚しかった。夜に帰ってくるまで寂しかった。
そんな、仕事熱心な母が毎日のように家にいる日々が始まった。私は小さな頃の自分が救われた気分になった。これからはどんな時も家にママがいてくれる。寂しいことなんてない。
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