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翔子ちゃんと小石

熱い、熱いアスファルトを照らす真夏の午後、道端を歩いていた翔子は、足を止めた。翔子の足元で、小石が悲しそうに震えていたからだ。こちらを見上げるまでの勇気もなく、ただそこでブルブルと震えていた。

「小石さん、どうしたの?」翔子は赤いスカートを膝の裏に仕舞い込み、その場にしゃがんだ。

小石は、翔子に向かって小さな声で話し始めた。「あのね、小石さんはね…怖いの。この世の全てが怖い。この世には、私よりも大きなものが沢山溢れているの。幼稚園の砂場に居てもつかまれる。アスファルトの上に転がっても車に轢かれる。何をしていても、どこに居てもお日様には見つかるし、私の身体は暑く照らされてしまう。どこに居ても私の居場所は無いの。」

道端に転がっている小石の気持ちを初めて知った翔子は、本当にびっくりした。幼稚園で遊ぶお友達や、優しいお母さんばかりに気を取られて、地面の小石までに目を向けたことがなかったからだ。

翔子は先程よりもずっと地面に近づいて、ほっぺたが今にも地面につきそうになりながら、「ごめんなさい、小石さん。これから他の小石さんにも注意するね。あと…もしよければ翔子のおうちくる?楽しいよ」

居場所がない小石を可哀想に思った翔子は、スカートのポケットに小石を入れて、家に持ち帰った。金魚鉢に入れて金魚と仲良くなってもらおうと思ったのだ。それからというもの、小石は、窓際に置かれている金魚鉢の中で、金魚と会話を楽しんだ。そして、翔子もまた、小石と金魚の会話に混ざるのだった。

暑い真夏の日差しが、こんなにも3人を優しく照らしてくれるものだということを、小石は初めてその時、知ったのだった。

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