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神住みたもうドンドコ島「薩摩硫黄島」

 早朝4時にドンドコ島を目指して宮崎市を出発した私は、今回の話のスタート地点でもある都城みやこのじょうあおき神社へ参りました。
 昨晩の天気予報では、旅の間は全て雨天、しかもかなり大荒れの予想ということもあって、今回の旅に当たっては神様に見守っていただくようにお願いしておく必要を感じました。
 神域をうろつくのだから、一応報告しとかないと失礼だからね。
 御加護もあったのか、少しずつ天候が落ち着いて雨が止んできました。

 まずは大隅おおすみ半島の垂水たるみずから、鹿児島湾を横断して薩摩半島の鹿児島市側へと、垂水フェリーを利用します。
 ドンドコ島へ向かう三島フェリーは、鹿児島港から出港するのです。

 鹿児島湾は錦江きんこう湾とも言いますが、これを渡るフェリーは3つあって、一つが一番短距離で桜島の先端から鹿児島市街へ直接着くフェリー、二つ目は私が選んだ垂水たるみずから鹿児島市南部へ着くフェリー、三つ目が遥か南の根占ねじめから指宿いぶすきへ渡るフェリーです。
  どれもこれも絶景を見ることができてお勧めなのですが、今回垂水からのフェリーを選んだ理由がうどんです。

OM SYSTEM OM-5 / M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO

 垂水たるみず出身の知り合いがいて、フェリー内で食べることができるうどんがとても美味しい、との情報を教えてもらっていたのです。
 私は岡山県出身ですが、さぬきうどんを食べるために香川県へちょくちょくうどんを食べに行っていたほどのうどん好きです。
 さてうどんを食べた感想ですが、「ほんとうに美味しい」。
 かなりうまい。自信を持ってお勧めできるうどんです。
 びっくりしました。こんなところで、こんなに美味しいうどんに出会うとは思いませんでした。ぜひ機会があったら皆さんも食べてみてください。
 この垂水フェリーに乗ったもう一つの目的は、このフェリーから見る桜島がとても美しいのです。桜島の南東から南西へ移動するルートのため、いかなる時間帯であってもルート上の何処かで素晴らしい光を捉えることが可能なのです。
 桜島との距離感も素晴らしい。

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 フェリーに乗った頃には、まだ薄くかすみがかかっているものの、全体的に晴れ間が見えるようになっていました。
 ピーカンの晴れよりも、私はこの日のような風を感じる晴れの風景が好きです。
 この桜島は姶良あいらカルデラ外輪山の南側を形成する火山で、2万9千年前に桜島の北側が超巨大噴火によって吹き飛んだところへ海水が流れ込み、鹿児島湾となりました。
 非常に単純な発想なのですが、阿蘇の巨大噴火が9万年前です。
 そしてこの姶良カルデラ噴火が2万9千年前、今目指している鬼界カルデラの噴火が約7千年前となっていて、次第に巨大噴火が数万年単位で南西へ移動していることから、次はトカラ列島北のどこかかも知れないという予感があります。
 前回の鬼界カルデラ噴火からまだ7千年程度しか経っていないことから、再度鬼界カルデラ噴火という可能性も十分にあるでしょう。

 ドンドコ島へのフェリーはおおよそ2日に1回程度しか出航しないため、この日は鹿児島市で一泊し、翌朝、いよいよ鬼界カルデラ行きの三島みしまフェリーに乗り込みました。

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鹿児島港にてフェリーみしま

 天候は曇り。
 しかし前日の時点での天気予報は高確率で雨天であったため、またもや不思議なことに天気予報が外れました。ありがたいことです。
 鹿児島港からは毎日離島へ向けて多くのフェリーが出入港しており、港にずらりと並んだフェリーを見ると圧巻です。
 これほどまでにフェリー文化を感じる場所は、鹿児島港以外にはなかなかありません。
 「フェリーみしま」は1,800トン級の最新型フェリーで、館内にWifiまで完備されています。

 すごい時代になったなぁ。

 だってこのフェリーが周るルートは竹島、ドンドコ島(薩摩硫黄島)、黒島の3島で、トータルの人口は400人にも満たないのです。
 ただしこれに批判的な意味はなく、むしろ私は島国日本として素晴らしいことだと思いました。例え十分な利益に繋がらないとしても地方の離島を見捨てない考え方こそが、今の時代に、そしてこれからの日本に必要なことだと考えるからです。
 損か得かだけで動くような社会には、長い目で見たときに必ず滅亡と衰退の未来が待ち受けます。それは全世界の歴史が証明しています。

 一方で心配なことは、今再び離島ブームが訪れており、特に沖縄の離島などにおいてリゾートホテル建設などの破壊的開発が目白押しになっていることです。
 少なくとも私個人としては、沖縄における米軍や自衛隊の問題よりも、これらのリゾート開発のほうが遥かに環境破壊の影響が大きいと感じています。ブームが去った時にどうなるか、それは火を見るよりも明らかです。

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見えてきた最初の島「竹島」

 フェリーみしまに乗ってから約3時間。
 お昼ごろ最初に入港する島が、三島村みしまむら3島のひとつ、竹島です。
 鹿児島市から直線距離で約80km。

 竹島は人口が80人に満たない島で、この島の南側海底に鬼界カルデラがあるのです。島には高木がなく、その名の通り竹で覆われていて、この島そのものが鬼界カルデラの北側外輪山にあたります。
 目指すドンドコ島は竹島の西方約8kmにあります。

鬼界カルデラの図

 この地図から見ると、ドンドコ島がどれほどすごい島なのかが理解できると思います。
 島のど真ん中を鬼界カルデラの境界が横切っていて、その内側の僅か数キロ圏内に集落と世界有数の活火山が存在するのです。
 近年に行われた鬼界カルデラの調査では、海底下にマグマ溜まりが今なお存在し、その活動は非常に活発であると考えられています。
 そのマグマ溜まりにある溶岩ドームの大きさは、世界最大。
 恐るべきエリアなのです。

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竹島港

 猛スピードで竹島での荷下ろしを終えたフェリーみしまは、いよいよドンドコ島へ向かいます。
 そしていつの間にか雨は完全に止み、世界が少し明るくなってきました。
 周囲を見渡すと、この船の周囲だけが晴れているようにも見えます。
 大荒れが予想された海上は全くシケることもなく、海をかき分けるフェリーが起こす波の音とエンジン音だけが聞こえていて、まるで違う世界に迷い込んだような錯覚を覚えました。

 13時ごろ、ついにドンドコ島が眼前に迫ってきました。

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ドンドコ島(薩摩硫黄島)

 いや、これもう、桃太郎伝説に出てくる鬼ヶ島おにがしまです。
 実際、かつては鬼界ヶ島きかいがしまと呼ばれ、そして平安時代には既に鬼界嶋きかいじまと伝わっていました。
 特別な領域、この世との境目、人が住む世界の外側、そういった概念があったのだろうと思います。
 その意識は、遠く、鬼界カルデラ噴火が起きた七千年前に遡って生まれた意識なのかも知れません。

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ドンドコ島の硫黄岳

 ドンドコ島の硫黄岳は、山頂からだけではなく、山腹のありとあらゆる場所から噴煙を上げています。山頂の標高は704m。
 まるでこの山そのものが、鬼界カルデラの溶岩ドームのようです。

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 フェリーみしまは無事に硫黄島港へ入港しました。
 さて、この海の色を見てください。
 これは大量の温泉が湧出して、その中の鉄分が酸化することにより港全体を赤く染めているのです。
 旅行と言うと日本人は何故かみな海外へ行きたがるようですが、これを見てください。こんな場所がここ以外の世界にあるでしょうか。
 日本という国土は世界で最も美しく、最も恐ろしく、そして不思議と驚異に満ちています。
 私が風景写真を撮る理由のひとつ、それは現代人が失いつつある「畏怖」の感覚を呼び戻すことです。
 自然はただ単に「キレイ」なものではありません。
 自然に対する畏敬の念、畏怖、縄文人が抱いて現代人に引き継いだ大切な概念を、後世へ繋げる必要があります。
 自然は恐ろしい。だからこそ美しいのです。

 自然と、自然を司る神によって産まれた島。
 ここは日本人の根底に、自然の「畏怖」を産み落とした島です。

「つづく」

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