見出し画像

第十七夜


 こんな夢を観た。
 すべてを、すべてを、砂塵に還される夢だ。わたしのおともだちも、なつかしい写真も、うつくしい宝石も、かぐわしいご本も、すべて、そのおひとの悪意によって、お砂に変えられてしまった。わたしは、いやだ、いやだと念じながら、たいせつなたからものを掻き集めようとした。けれど、その、彼女とも、彼とも形容できないおひとに、憑かれるように、盗られてしまう。奪われてしまった。そのおひとは、ばけもののようでありながら、やはり、おひとだった。のけものにされたけもののような形相を成しながらも、おひとで在ることだけは、相、変わらなかった。きみは、ばからしいと一笑するかも知れないが、そのおひとは、わたしのことがお気に召したらしい。気に入りなさるからこそ、わたしのたいせつなものを、嘲笑いながら壊しはじめていた。おともだちの腕を引いて、わたしは逃げた。逃げて、逃げて、逃げても、そのおひとは追いかけてくる。息も絶え絶えになったころに、ようやく、おともだちを、おもいでのなかでさらさらと揺れるお砂場に変えてしまった。さようならを告げる刹那も、ゆるされなかった。砂、砂、砂。砂。一秒。一握もならない砂のなかで、もう、どれがどれなのか判らないほど、風に吹かれていた。おひとの嗤い声ばかりが、ひび割れたこころに、響いた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?