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『泣くな研修医』境界線に立った人間物語

世の中には二つの嘘がある。
一つは「人を欺く嘘」です。これは値段を誤魔化して高く売りつけたり、独身だと嘘を言って人を騙す。こんな類いの嘘です。


もう一つは「優しい嘘」です。
人を助けて安心させる嘘。この嘘によって元気になったり、希望が持てたりします。露骨すぎてあり得ないことを言うのはダメだけど、そうではない嘘がある。


例えば病気と戦っている患者さんへの嘘。
前向きになって生きる希望を掴もうとする患者さん。
今の不安を乗り越えるために、前向きになるためについてしまう嘘。


「優しい嘘」を言った人には大変な重荷がのしかかる。
嘘をついた相手の全部を受け止める覚悟がいるのです。嘘つきとなじられても、笑顔で謝れる気持ちがなければ「優しい嘘」はついてはいけない。


右も左も分からない、医師になりたての研修医を独特のタッチで描く純粋な物語。素朴な疑問や感情を研修医の立場から解説してくれるので、新しい気づきが得られます。


清々しくも、どことなくやりきれない。
怖いと思っていたいベテラン医師の意外な側面だったり。


『泣くな研修医』




著書は中山祐次郎さん。聞き覚えありますか?
「高野病院」の院長が自宅の火災で落命する悲劇に見舞われ、その後を引き継いだ医師の中山先生のことです。


いわき市と福島第一原発の中間くらいに位置する高野病院。原発事故の後、遠方に移動できない高齢者のことを第一に思う。地域医療を優先するが故に、避難や転居もせずその地に留まった高野院長。


常勤医は高野院長たったひとり。ギリギリの体制で診療を続けていた矢先の訃報は、地域医療の終焉に直結しかねなかったであろう。


鹿児島生まれでありながら、東京の第一線の施設で勤務していた著者の中山氏は、ボランティアの友人の願いに呼応する形で名乗りを上げている。


中山氏の描く「人の命」を前にした研修医の苦悩。
何度読み返しても読み応えがあります。心の奥の金科玉条を呼び覚ます「人の命」と言うフレーズ。


日々の激務の中で「人の命」を思い、自身の限界という境界線を踏み越えて行動を起こす。境界線を超えて行動する度に、どこかで揺さぶられていた「人の命」の震えがパッタリ止まる。


読み手の僕も、生と死、医師と患者、現在と未来の境界線を感じます。
境界線に立った純粋無垢な人間物語です。


最後まで読み進めて頂きありがとうございました。
素敵な夏をお過ごしください。🌱


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