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自分を愛してくれた優しさを継ぐ

「兄さん、最近何読んでるんっすか」
リモート会議後に居残っていた職場の同僚から、画面越しの一言。社内会議が終わってしまえば、いつも通りに部下でありながら部下でなくなる。僕を兄さんと呼び親しんでくれる15歳年下の可愛い後輩だ。


彼も僕と同じく読書好き。
新婚ということもあり、大好きな読書時間を奥様に奪われている格好だ。朝早く起きたり、奥さんが留守の間の隙間時間を狙って読書時間を捻出しているという。なんとなく中学生時代の不毛な努力を思い出してしまうのは、僕だけだろうか。


「あぁ、今はちょっと面白い作品を読んでるんだよね、福島県の話だよ」
「へー、どんな話っすか、僕にも教えてくださいよぉ、福島の話ならあの方にも教えてあげらた良いですね」


あの方って、、、


あの方いうのは僕の元同僚であり先輩でもある。福島県須賀川市出身の変わり者。苗字はこの『光流るる阿武隈川』の本編にも登場してくる苗字なので、もしかしたら福島県には多いのかも知れない。地元の大学を卒業し、しかも本編とゆかりのあるカヌー(ボート)を趣味としている人物です。


「あー、そうだね、このお話はカヌー競技で世界を目指す話なんだよ」
「えー、それは奇遇ですねぇ、あの方が出てくるのでは?」
「んな訳ないやん、ww」
「あの方も読書好きっですし、偶然これからお会いしますのでお伝えしておきますね!後でタイトル送ってください!」


僕が本書『光流るる阿武隈川』と出会ったのは、note友達のささみさんの記事の中。note街の交流から生まれた「光流」という意味深な文章に惹かれたことがきっかけです。



なるほど、確かに光流です。


豊かな阿武隈川が織り成す福島県は、これまで何度も仕事で訪れてきた場所。行きつけの居酒屋や鮨屋だってある。寒いこの時期は「写楽」や「飛露喜」といった旨い地酒を、郷土料理の「いか人参」や「馬刺し」をつまみながら、クイっと冷で喉を潤したくなる。


最高の情景を思い起こし、当時の自分と重ねてみる。


中学生の頃、ほんの一瞬だけオリンピックを目指したことがあります。そんな自分と少しだけ重なって見える場面があり、随所でドキッとしたり、頷いたり、ギクっとしたりしてしまう。だから知らず知らず吸い込まれてしまい、あっという間に読了となった。


本編では、国内で快進撃を続ける主人公のカヌー選手が、世界に向けてたゆまぬ努力を続ける様子が描かれています。


小さな町から世界へ。
父が叶わなかった夢を引き継ぎ、それを育む。そして目標である父を超えてゆく。父もまた自分の夢を娘に託したのであろう、その成長を目を細くしながら眺め願う。そんな父の愛情が素敵な表現で描写されていて実に美しい。



ただ、本編は成功への架け橋的な物語ではなく、むしろ志の繋ぎ方や育み方を学んだり、自分との決別とも思える引き際の美しさを痛感させらる作品でもあります。


思い起こせば、自分が熱中してきた競技から一線を引こうと決意した瞬間。それまで向き合ってきた努力と途方もない時間、そして言い表せようのない重責から解放される瞬間でもあります。しかしながら、ホッと安堵を感じる前に、応援し続けてくれたチームメンバーやコーチ陣、家族や友人の顔ぶれが、頭の中で一杯になる。満足感や多幸感、いや寂寥感であろうか、とめどもなく頬を伝う涙を経験したことがあります。


引退して地元に戻り、自分を愛してくれた優しさを継ぐ。
本書全体から感じ取れる地元愛。故郷ってやっぱり良いもんですね。


社内の部署内全員に『光流るる阿武隈川』を紹介しました。
あの人には同僚の彼がきっと紹介したのだと思います。


最後まで読み進めて頂きありがとうございました。


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