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[書評]久保田、スノーピーク…ローカルブランドに学ぶ「高く売れて儲かる方法」

地場産業の高価格ブランド戦略 (朝日酒造・スノーピーク・ゼニス・ウブロに見る感性価値創造) 』を紹介します。

著者は早稲田大学教授の長沢伸也さん。ラグジュアリーブランディングをはじめ、デザイン&ブランドイノベーション・マネジメントを専門とする方です。


顧客の感性に届く価値が、最強の優位性になる

日本の製造業は、世界規模で比較しても高度な技術と確かな品質を持っているにもかかわらず、グローバル競争で立ち遅れているケースが多いと言われています。特にブランド戦略やマーケティング戦略の部分で後塵を拝しているという指摘があり、確かにその側面はあるかもしれないと思います。

本書では、地場産業(地域特性を活かした商品・サービス作りで広く国内・海外に市場を開拓している企業)の成功事例を通して、競合に対抗するのではなく、自分たちのものづくりを徹底的にこだわり抜き、市場で持続的な優位性を獲得し続ける方法を説いています。

取り上げられているのは日本とスイスの企業で、久保田を醸造する朝日酒造、アウトドアメーカーのスノーピーク、高級時計メーカーのゼニス、ウブロの4社。地場産業企業でありながら、高い知名度とブランド力を持っている企業ばかりです。


4社に共通するのは、ものづくりにこだわることは大前提としてありながら、「感性価値の創造」にも成功した企業ということです。

感性価値とは、機能や価格などの商品価値とは別に、顧客の感性に働きかけ、感動や共感を得ることで生まれる価値のこと。

地場産業企業のような小規模な企業が、資本力を持つ競合企業に対して持続的な優位性を実現するためには、顧客の感性にダイレクトに訴えかけ、物語やヒストリーのレベルまでに昇華する価値創造が必要だと言います。


高く売れてたくさん儲かるものづくりへ

日本の製造業は、世界的に比較すると収益性が低く、特に中小企業は突出して利益率が低いそうです。この課題を克服するには、高く売れてたくさん儲かるものづくりへの転換が求められます。

確かに最近は家電製品なども「こんな値段で買えるの?」とびっくりしてしまう時があり、開発者の心情を思うと申し訳なくなります。イチ消費者としてはありがたいことですが、製造業の比率が高い日本にとっては手放しで喜べることだとはいえないかもしれません。

収益性の低下を改善するには、高くて儲かるものづくりへの転換が必要です。そして、高くて儲かるものづくりを成し遂げているのが、同書で取り上げられている朝日酒造、スノーピーク、ゼニス、ウブロの4企業。

各社がどのように収益性を確保しているのか、「感性価値」というキーワードを軸に事例を詳細に解説しています。では高くて儲かるものづくりを実現するには、どんな方法があるのでしょうか?


ローカル・ブランドが価格を引き上げるための3つの仮説

高価格戦略を成功させるには、成熟した市場における本質的な問題解決に挑み、従来では成し得なかった価値を創造することが求められます。

さらに、その価値を持続的な競争優位性へと昇華させ、「最高のモノを高く売る」ための高価格戦略のマネジメント方法として、本書では3つの仮説が提示されています。

■仮説1
プロダクトアウト型で、徹底的にものづくりにこだわり、製品品質・サービス品質を高める。加えて、感性が高められた「品質の次元」を追求し、購入者の感性により物語やヒストリーにつながる価値を創造する。

■仮説2
ローカル・オブ・オリジン
を活用する。「産地」の地理的な優位性(例:水・米の名産地)に加えて、ローカルであることが消費者選好に与える要因(例:新潟の水・米でしか製造できない製品)を活用する。

■仮説3
買い手の感性にダイレクトに訴求する仕組み
(例:小売店に対して定期的に勉強会を開き、ブランドの説明能力を高める)をマネジメントする。


久保田はなぜ売れたのか?

たとえば朝日酒造の「久保田」であれば、まず杜氏が束ねる技能集団の技新潟の土壌が生む優れた水と米、和食を際立たせるという明確なコンセプトのもと開発され、当時低迷していた清酒業界においてその製品価値は高いといえます。

さらに、新潟の水と米を研究開発することで地域独自の淡麗・辛口を追求し、生産者をトレースできる仕組みも作ったことで食の安心・安全が高められ、ローカル・オブ・オリジンも確立されています。

そして、酒販店向けには定期的に久保田会や勉強会を開くことでブランドの説明能力を高め、恒常的にブランドをマネジメントすることを可能にしています。酒販店を通じて顧客に語られるブランドのストーリーやヒストリーは、久保田というブランドの価値を感性に訴える「品質の次元」まで昇華させます

清酒業界が長期低落に悩む中、1985年の発売以降売上・利益率ともに順調に推移し、今もなおブランドイメージが低下しない背景には、こうした緻密な戦略がブランドを支えていたのです。


他の3企業についても、この3つの仮説を基にしながら成功要因に言及しているので、詳しい内容はぜひ本書を手にとっていただければと思います。

発行は2015年なので決して最新の書籍とはいえません。しかしページをめくるごとにどんどん引き込まれていき、とても丁寧に真摯に書かれていて、インプットできることがたくさんあります。

高価格ブランド戦略の真髄に正面から向き合える本なので、ぜひとも皆さんに読んでいただければと思います!



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