ロゴはブランドのものだ。と思ってはいけない
ブランドの成功を左右するから、ロゴ変更は難しくておもしろい
僕の会社では企業の売上成長を恒常化させるセールスグロースプラットフォームを提供していますが、その過程でクライアント企業の既存ブランドを見直し、ブランドロゴを新しくつくることがあります。
ひと口にロゴと言っても、プロジェクトによって様相はさまざまです。
ブランドコンセプトの刷新に伴って大胆なロゴ変更を行うこともあれば、既存のブランドイメージは維持しながらも特定の目的を果たすためにアップデートすることもあります。
ダンキンドーナツはドーナツ以外にコーヒやベーグルも消費者から愛されていました。そこで、ドーナツショップというイメージから脱却するために、ロゴから「ドーナツ」を消し去りました。
男子バスケチームの古豪「川崎ブレイブサンダース」を買収したDeNAは、ロゴを大胆に刷新するも、伝統のチームカラーはマイナーチェンジにとどめ、「SINCE 1950」の文字をロゴの目立つ位置に入れることで、古株ファンやチームの歴史にリスペクトを示しました。
バーガーキングはもともと王様のイラストロゴで親しまれていましたが、フランチャイズ店舗ごとに王様の顔やフォントが微妙に違うという問題を解決するため、ブランドイメージとして定着していた王様ロゴを思い切ってやめました。
その後も、飲食店ではあまり好まれない青色をロゴに入れるという挑戦を行い、見事にグローバル規模のファストチェーンへと成長しています。
このようにロゴの変更には様々な目的や狙いがあるものですが、いずれにせよ企業や事業にとって大きな意味を持ちます。大きな利益をあげるものもあれば、逆に負債を負うことだってあるのです。
Swooshだけでブランドを伝えられるようになったNIKE
たとえば、ナイキは成功事例だと言えるでしょう。
1978
1985
1995
1978年のロゴでは「NIKE」の文字がつけられていました。それが1985年には力強い赤色が加わり、さらにブランドイメージの刷り込みを強化しています。それから10年後、1995年にはブランドイメージがモチーフの「Swoosh」だけで十分だということになり、文字はなくなってイメージのみになりました。
一般的にロゴはシンプルであるほど良いとされています。特にアパレルブランドの場合は洋服などに印字されるロゴがファッション性に直結するため、他の業種以上にロゴのセンスが問われます。
ナイキは敢えて「NIKE」の文字をプロダクトに印字することもありますが、ブランドネームがなくてもナイキだと誰もが認識できるクールなロゴを持っていることは大きな強みだと言えるでしょう。シンプルで使い勝手がいいのもポイントです。
数日でロゴを元に戻してしまったGAP
逆に大きな負債を負ってしまった例として、GAPはあまりに有名です。
1969
1984
2010
2010
1969年創業のGAPは、当初「the」がつき、角度がついたロゴを使用していました。
1984年に時代の変化に合わせてボックスロゴに変更します。小文字から大文字に変わり、細身で洗練された印象のセリフフォント、Spire Regularが用いられました。文字間隔が空いているのは、この年代の特徴だったそうです。
2000年に入って、2010年10月、GAPはよりコンテンポラリーなイメージを打ち出そうとロゴを変更します。セリフフォントからHelveticaにし、ボックスは小さく文字の右肩にグラデーションをかけて配置しました。
しかし、この変更に対して、消費者は大きく反発。ロゴは数日で元のものに戻されました。これに伴う損害は100億円以上と言われています。
GAPはファッションブランドだけに、時代の流行に敏感だったのだと思います。おそらく時代のイメージとブランドイメージを合わせることに目を向けたのではないでしょうか。
しかし、Gapを長年愛し続ける消費者を置き去りにしてしまったことが大きな失敗となってしまったのです。
ロゴは発表した瞬間、ブランドオーナーの手を離れる
ロゴは長年使用されると、ブランドのものから消費者のものに変わってしまうことがあるのかもしれません。
ダンキンドーナツが「ドーナツ」を消してもファンから反発されなかったのは、みんながダンキンのコーヒーやベーグルのおいしさを知っていたからでしょう。
DeNAは社長自らが熱狂的ファンの一人ひとりと90分以上も話をしたうえで、ロゴ変更の方針を決めました。70年以上の歴史を持つチームには、ファンたちの思いやストーリーが深く刻まれています。一人ひとりと対話を行うという丁寧なプロセスを経ていなければ、もしかするとDeNAの事業継承は失敗していたかもしれません。
バーガーキングの王様ロゴは消費者が慣れ親しんだものでしたが、ロゴだけでなく店舗の色やデザインも統一することで「ひと目でバーガーキングだとわかる」という利便性を消費者に提供し、同時にコマーシャル広告も大量に発信して、消費者の頭の中にあるバーガーキングのブランドイメージを一気に塗り替えることに成功したのです。
そう考えると、ブランドロゴというものは、ひとたび完成してリリースしてしまうと、その言葉どおりブランドオーナーの手を離れ、消費者のものになる、という側面があります。
ロゴはブランドのものだ、と思ってはいけない。
ロゴをリニューアルするときは、そのことを頭の片隅に入れておくことが重要かもしれません。
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