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【ショートショート】毒

とある暗殺者のモーニングルーティンはコーヒーを飲むことだ。新聞を読みなから温かいコーヒーを飲み、それが終わったら仕事の支度をする。

彼の仕事は暗殺だが、大掛かりな暗殺はしない。対象に毒物を飲ませること。それが彼の暗殺方法であり、それ以外の方法を取らないのが彼の流儀だ。

なぜ彼がそんな流儀を行なっているのか、同業者は分からない。しかし、彼の流儀を「カッコいい」と感じている若い暗殺者は、彼を真似し、彼のように毒物で対処を暗殺している者もいるほど、彼のファンは多い。

ある時、彼は自分のファンを1人、自宅に呼んだ。彼のファンは彼と同じく暗殺者で、彼のように毒物で暗殺するようになった人物だ。彼は、目の前にいるファンが尊敬する人物に呼ばれて、とても興奮し、そして緊張しているのをよく理解していた。

彼は、自分のファンと小一時間ほど話した。といっても仕事の話はほとんどしてない。彼の家庭環境や、趣味や、休日の過ごし方、好きな食べ物や飲み物、また、どうしてこの仕事に就いたのかと。

次第に彼のファンはリラックスしていった。先ほどまで興奮と緊張の渦にいた時と比べ、今は脚を組むほど余裕を見せている。そして、彼に対して今まで以上に親近感を抱きはじめた。まるで友だちのように。

彼は最後に、彼のファンに対してある頼みごとをした。

「実は、友だちである君に一つ頼みたいことがある。これは僕ではとても難しい仕事で、君のような実力のある人に頼みたいと思っていた案件なんだ」

彼のファンは、びっくりした。
まさか自分が、彼の「友だち」になっていたなんて。しかも、彼に実力を認めてもらっている。

「どうだい?引き受けてくれるかい?」

友だちとなった彼のファンは、即座に了承した。

そして彼のファンが立ち去った後、彼はコーヒーを淹れて10分ほど休憩した。そして、また1人彼のファンが来訪してきた。

彼は先ほどのファンと同じような雑談を小一時間ほどして、そしてそのファンにも仕事のお願いごとをした。

その次のファンにも、次の次のファンにも、次の次の次のファンにも…

いつの間にか、夕方になっていた。

彼には、ある噂がある。
彼は本当に、暗殺を行なっているのだろうか?と。

翌日、彼は今日もコーヒーを飲む。
今日も彼は、彼のファンと話す。

最近、コーヒーを飲む量が増えたそうだ。

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