僕がアプリゲーム「にゃんこ大戦争」を8年間毎日プレイしている理由 ~ 癒しのUX ~
にゃんこ大戦争が8周年を迎えました。
僕は2012年、サービス開始した少し後からこのゲームを遊び始め、約8年間1日も欠かさずプレイしています。それまで、人生で遊んだゲームの中で好きなものと言えば、マリオカートとか、ゲームボーイのサガシリーズとか答えてきましたが、結果的ににゃんこ大戦争が人生で一番長い時間遊んだゲームになってしまいました。
職業柄アプリゲームに関しては、ヒットしたり話題になったりしたものはもちろん、偶然見つけた個人の作品などもできるだけ遊んでいます。しかし、にゃんこ大戦争以外のゲームで1か月以上プレイし続けたものはありません。一通り遊んでプレイするのをやめてしまいます。にゃんこ大戦争だけは、やめられません。それはここまで長年かけてきたプレイ時間のサンクコストが理由ではないと思います。
仕事で様々なプロダクトのUI/UXについて話したり、ゲーミフィケーションを考えたりするときに、僕は必ずにゃんこ大戦争を例に挙げて言語化します。8年もやっていると話の説得力が違うため、プロジェクトメンバーにも納得してもらいやすく、様々な開発業務に活かさせて頂いています。にゃんこ大戦争には本当に感謝しています。
ではどうして僕は、にゃんこ大戦争だけをここまでプレイし続けることになったのでしょう。それを説明しながら、僕がこれから何よりも追求したいと考えている「癒しのUX」というものについて書いてみたいと思います。
にゃんこ大戦争は「究極の癒し」
ゲームを初めて1年後。その時期は仕事のストレスで思わずトイレに籠ることが多く、そういうときは個室の中でずっとにゃんこ大戦争をやっていたのを覚えています。そのうちにいつも気持ちが落ち着きました。思えばこのときから、「癒しのUX」なるものが発揮されていました。
5年後、仕事から帰った深夜に、家のリビングの床で寝落ちしたまま奥さんに発見されて叱られるということが頻発するようになりました。手に握られているスマホの画面ではいつも、にゃんこが全滅していました。ゲームをスタートした瞬間に寝落ちするようになっていたのです。
7年後、寝落ちして目覚めた手の中のスマホで、にゃんこが勝手に相手の城を攻め落とし、勝っているということが起こり始めました。無意識の領域に達したのでしょうか。
そして今年、自粛期間に外出を控えるようになり、電車移動がなくなったことで、にゃんこ大戦争をやるタイミングがなくなりました。仕事中はプレイしないし、家族団らんの場でもスマホゲームをやりにくいので、散歩に出かけて木の切り株に腰を掛け、ちょっぴりだけプレイする日々が続きました。2か月程たったある日、癒しが足りなくなった僕は発狂して部屋の壁を殴ってしまいました。
近年では欠かせないビジネス用語となったUX、すなわちユーザー体験は広義に解釈することが必要です。「嬉しい、楽しい、ワクワクする、気持ちよくなる」などはもちろん、「驚く」「怒る」「泣く」「悔しくなる」などあらゆる感情の流れを設計し、人の心を揺れ動かし、満たします。
時系列で言うと、「体験前」「体験中」「体験後」「体験の繰り返し」「体験していない時」など、すべてのタイミングでの感情を設計します。
にゃんこ大戦争はすべてにおいて優れています。正確に言うと、サービス開始時からずっと、一歩ずつ改善されていく歴史を見て来ました。その改善は今も継続中です。初期からずっと追ってこられたことは本当に勉強になり、幸運でした。今から始める人は残念ながら、サービス開始時から体験してきた人と比べて吸収できる情報量も感動量も少なくなってしまうことは否めません。
それでも、プレイしたことのない方全員に、できれば最低1ヵ月やってみて欲しいです。簡単に言うと以下のようにUXが設計されていると僕は捉えています。運営側には「全然違う」と言われるかもしれませんが…。(ボタン配置、画面の遷移やリアクション、パワーアップ作業の簡便さなどのUIの話は割愛します。)
1.体験前
まず「美脚ネコ」という、ネコに長い脚が2本生えているわけの分からないキャラクターを見て、違和感とゆるさに惹かれます。このキャラクターが強力な導入になっています。このゲームを一生やらないか、やってみるかの2択を考えたときに、ゲーム好きならとりあえずやってみる選択肢を取りやすくなっています。
2.体験中
ゆるいゲームだと思って始めると、にゃんこが攻撃するときの「疑似触感」にはまっていきます。自分が攻撃しているわけではないのに、感触を覚えるのです。にゃんこ大戦争は横スクロールのゲームの中で、マリオよりも、ストリートファイターよりも、攻撃の爽快感を演出できていると僕は思っています。敵に攻撃がヒットして吹っ飛ぶときの、アニメーションのタイミングとエフェクトが相当作り込まれています。これは、YouTubeで動画を見るのと自分の手で画面を触ってプレイするのとでは全然違うので一度体験してみて下さい。
横スクロールが縦スクロールよりも優れているという訳ではありませんが、横スクロールは攻撃の爽快感を出すのに有利です。敵を後方に吹っ飛ばす表現で快感を作ることができるからです。例えばドラクエやパズドラなどでも、派手な攻撃エフェクトは発生しますが、縦や奥行き方向へ敵を吹っ飛ばす表現が難しいです。横は、キャラクターを派手に吹っ飛ばすことができるし、何より重要なのは「溜め」を演出できることです。「溜め」、つまり攻撃を繰り返してもびくともしない防御の固いキャラクターが、攻撃を繰り返した末に、ようやく吹っ飛ぶことが快感なのです。すべての敵が簡単に吹っ飛んでいたら気持ち良くありません。にゃんこ大戦争は、この「溜め」を非常に上手く利用しています。
3.体験後(体験していない時)
思い出したように再度プレイしたくなる理由には、
・ログインボーナス
・イベント発生
・やれば必ず少しずつキャラクターが強化される報酬
・新ステージや新キャラが徐々に出現
などの基本的な仕掛けもありますが、最大の理由は「期待値コントロール」が効いていることだと思います。キャラクターがふざけたようなゆるいビジュアルなのに、ゲームの攻撃アクションに中毒性があるため、本能欲求としてプレイしたくなります。手元にねりけしがあったらずっと触ってしまうことと全く同じです。
プレイし続けることを押し付けないことも、たまたま暇つぶしに立ち上げて遊んだときに、想像より快感を得られることで中毒性を生みだす要因です。まさに期待値コントロールの賜物です。
4.体験の繰り返し
ほとんどのステージをテンポよくクリアして行けるのに、ごくたまに(1年に1回ほど)高難度ステージが出現するという頻度がとても良くできています。一時的に全然クリアできない悔しさを感じるのですが、毎日ログインしていると、ほんの少しずつにゃんこが強くなっていくため、いずれはようやくクリアできたという達成感を味わうことができます。(ちなみにヘビープレイヤーの方が読んでいてくれた時のために一応高難易度ステージの歴史を書いておくと、西表島第3章 → ロデオナイト → 冷凍マグロ戦線 → ハデスの迷宮 → ゴダイゴ峠 → 風雲・にゃんこ塔 → ほの暗い沼の底から → 超生命体強襲ステージ → 絶・ほの暗い沼の底から という感じでしょうか。わかる人だけわかっていただけたら。)
マニアックな話を含め長々と書いてしまいましたが、ここまでは基本の話です。そのうえで、
このゲームの本当のすごさは、「にゃんこ(CPU)とプレイヤー(人間)の協力関係のバランス」
にあります。
例えば、マリオカートは自分が上手くコントロールして走らないと勝てないゲームですよね。敵(CPU)の挙動の運もありますが、基本的にはほとんどユーザーの実力です。
にゃんこ大戦争は、キャラクターをタイミングを見て出撃させるだけです。あとはにゃんこ(CPU)が戦います。CPUというか、ほぼ決まった動きをするだけです。
それぞれのキャラクターには、攻撃力、防御力、移動速度、射程、攻撃頻度、敵との属性相性などがあり、10種類のキャラクターをバランスよく選んで軍団を作ります。各キャラクターは、基本的には同じタイミングで攻撃しながら前に進みます。つまり出撃させたらあとはにゃんこ任せだし、出撃タイミングが多少適当でも、だいたい勝つことができます。ただ、高難易度ステージだと、出撃タイミングが0.1秒単位で重要になり、それが絶妙に上手く行ったときに、攻撃が敵に対して爽快に決まります。
プレイヤー(人間)と、ゲーム内キャラクター(CPU)の協力関係のバランスがこれほど上手く作られているゲームを他に知りません。これが癒しのUXの正体です。にゃんこ軍団と僕が知らず知らずのうちに、勝利のための役割を委ね合えるチームになっているのです。だから一瞬で寝落ちしてしまうくらい安心し、リラックスする。本当に凄いことです。
これからの時代に欲されるのは、「心的ストレスフリー」
だと僕は考えています。
例えば、SNSを楽しんでいる人はたくさんいます。SNSは、人と出会えたり、交流できたり、新しい情報や知識を得られたり…、などなど良い体験がたくさんあります。その一方で、嫌なコメントをされたり、いいねされなくてちょっと切なくなったり、フォロワーが増えずにやきもきしたり、自分より他人が充実した生活を送っているように見えて羨んだり…というストレスもチクチクと受けていきます。それも含めてUXなのだという捉え方もできますが、これからどんどん、心的ストレスのないデジタルとの付き合い方が求められていくでしょう。ただでさえ実生活がストレスフルな人が多くなっていくなら、テクノロジーがストレスを減らしていく役割を担うのが理想です。そういうものが人の生活に積極的に導入されると思います。にゃんこ大戦争が、特に世の中を震撼させる大ブームになったわけでもないのに、人気を保ち続け、ユーザーを増やし続け、子供から大人まで幅広く愛されているのは、ずっと「癒し」だったからです。癒しはブームになりづらいですが、消えづらいです。作っている方々はおそらくこのことをよく分かって、丁寧にユーザーと向き合っているのだと想像します。
今僕が開発中のゲーミフィケーションSNS「妄想商品マーケット MouMa(モウマ)」も、にゃんこ大戦争とは全く違う性質のアプリですが、にゃんこ大戦争から学んだ癒しのUXで設計したものです。
誰からも攻撃されず、押し付けられず、焦らせられず、ほんの少しだけ世界の誰かと接し…、ふと思い出して暇つぶしで触っているうちになんだか心地よくなり、寝落ちする。よかったら一度この「MouMa」もプレイしてみていただき、これから僕がおもちゃやゲームなどを通して作りたい癒しのUXの一片を感じてみてください。にゃんこ大戦争が、大切なことをたくさん教えてくれました。これからも、癒しのUXのつくり方をいろいろな業種の人と語り合い、穏やかな遊びのある世界を一緒に作っていきたいです。
最後に余談ですが、4年程前、僕はある駅のみどりの窓口に並びながら、片手でにゃんこ大戦争をやっていました。そのとき、たまたま後ろに並んでいた人が、「そのトサカのついているネコ、どこで手に入れるんですか?」と話しかけてきました。僕はそのにゃんこについての情報を丁寧に教えてあげました。その人は今、仕事と関係ない雑談で心を癒し合える飲み友達です。ありがとう、にゃんこ大戦争。
※一緒に遊び・笑い・ハマリ要素のあるもの、開発しましょう。↓
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