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【劇団あはひ連載2回目】ポストコロナ・現代演劇を巡る新潮流vol.2 劇団あはひ(大塚健太郎・松尾敢太郎)インタビュー(2)


次世代の演劇作家を取り上げ、紹介する連載「ポストコロナ・現代演劇を巡る新潮流」の第2弾として劇団あはひ(大塚健太郎・松尾敢太郎)を取り上げる。劇団あはひは劇作家・演出家の大塚健太郎と俳優の松尾敢太郎が共同主宰を務める劇団。2018年に旗揚げしたきわめて若い劇団だ。落語や能、シェイクスピア劇などを下敷きに古典の持つ構造と日常的な口語を用いた会話劇を重ね合わせることで観客を非日常の世界へと誘い込むという作風で早稲田大学在学中の2020年2月には下北沢本多劇場に史上最年少で進出。2021年にはKAAT、今年(2022年)は東京芸術劇場と金沢21世紀美術館で相次ぎ公演。豊岡演劇祭2022(9月23~25日)に参加しての公演も予定されている。私もこのところ連続して演劇ベストアクトに選んでおり、現在もっとも注目している若手劇団と言っていいだろう。
(インタビュアー/文責:中西理)

中西理(以下中西) 連載第2回となる今回はこれまで上演された作品の細部に踏み込んで話を聞きたいと思います。旗揚げ公演(2018年)で上演し、下北沢本多劇場でも再演した「どさくさ」=写真上は本多劇場の舞台写真=で落語「粗忽長屋」を下敷きにしています。実はこの落語が死をモチーフにしていることが、劇団あはひのその後に続く作品が死の世界と現世を往還するような能楽の劇構造を劇作に取り入れることの重要な契機となったのではないかと考えています。落語を選んだことには岡田利規、宮藤官九郎という二人の作家の影響があると前回お聞きしたんですが、下敷きとする落語に「粗忽長屋」を選んだのはなぜなのでしょうか。

大塚健太郎(以下大塚)「粗忽長屋」を選んだ時に死というモチーフがそれ以降もある意味劇団とっての主題となっていくということなどは全然考えていませんでした。なぜ選んだのかというとこの噺は下げのセリフがちょっと怖いなと思うんですね。

中西 ちょっとSF的と言うかシュールですよね。

大塚 それで普通に好きな話だったというのもあります。「生と死」というはありますが、自分が思っていたのは「私という記号」に関するちょっと凄く現代的な批評的な落語だなと思って、そこに興味を惹かれました。そのぐらい粗忽な男の話ですよという風にももちろん捉えることはできるのだけれど、だけど最後にサゲのところで観客として感じていることや落語家が表現していることが何かそれだけじゃない気がしてそちらの側面を切り出せないかなと思ったのが最初です。

中西 「ソネット」と「どさくさ」の映像版を見て改めで気が付いたのですが、この2作品には共通して「隅田川」が登場し、伊勢物語の都鳥のエピソードが語られます。さらに「流れる」では能楽の「隅田川」自体が作品の下敷きとなっています。「ソネット」における「隅田川」というのはどこから出てきたのでしょうか。

大塚 能の「隅田川」が出てきたのは「流れる」が最初です。能の「隅田川」がモチーフになっていますから。ただ、「粗忽長屋」自体が浅草寺周囲の話なんですよ。「ソネット」で出てきたのもあれは吉田健一の「海坊主」という話が下敷きなんですが、それに隅田川が出てきたんです。

中西 それではちょっとおかしな言い方になるんですけれど、隅田川を意図的に選んだというよりも、いろいろ作品を作っているうちに隅田川の方からやってきたという感じなんですね。

大塚 でもそれに近いかもしれないです。「ソネット」で「海坊主」を取り扱うという時にはさすがに意識はしていましたが、だけど別にだから選んだという感じではないです。

中西 「ソネット」にも都鳥の話というのは出てきましたよね。

松尾敢太郎(以下松尾) 「ソネット」はないですね。都鳥が出てくるのは「どさくさ」の再演です。「どさくさ」の初演では「粗忽長屋」を扱うにしても立川談志の「主観長屋」みたいなのがあるじゃないですか。主観が強すぎてという。自分の死後も主観が強いためにそうなってしまうというようなことを主題に据えていました。でも「流れる」で「隅田川」を扱って「ソネット」をへて「主観長屋」という要素は削れていきました。

中西 それでは初演の「どさくさ」では本多劇場でやった再演ほどには能的な死の世界と生の世界との対比というか、はざまにいる人たちのような主題はなかったという感じですかね。

大塚 一応、「粗忽長屋」を扱っている以上、生きているのか死んでいるのか分からない人とか、幽霊みたいなのも出てきはしたんですが……。

中西 でもそこまで意識はしていなかった。

大塚 その後の創作をへて重点を置くポイントを変えたんだと思うんです。

中西 どの作品でこちらにハンドルを切ったというよりは徐々に方向性が固まっていった感じなんですね。

大塚 そうだと思います。

中西 劇団あはひの作品の特色としてもうひとつ音楽劇というのがあると思っています。「どさくさ」はYoutubeに本多劇場での再演版の映像がアップされています=映像(上)。本多劇場での上演も見てはいるのだけれど、その後に上演された作品を踏まえて再確認してみるとけっこう興味深いことが分かってきました。

中西 この作品は音楽劇となっていて能の音楽とは違いますが、冒頭は和楽器(三味線)の生演奏から始まる。これが古典演劇における下座音楽のような役割を果たしている。劇中にもオリジナルの音楽が使用されていますが、小さな音で流れ続ける音楽が作品の基調となる空気感を生み出しているように思いました。演劇と音楽とのかかわり方へのこだわりが強いと思われますがそれはどのように生まれたのでしょうか。音楽を担当する音楽家との製作上のやりとりがどのようなをものであったのか教えていただきたいのですが。

大塚 すごい個人的な話ですけど、演劇というのはどちらかというと視覚よりも聴覚で感じているなと自分は観客として思っていて、自分も早稲田の映像演劇コースという演劇と映画を一緒に学ぶコースにいたこともあるんですが、演劇と映画はどちらも物語があってよく比較されるし、劇作家が映画の脚本を書いたり、その逆もあるんですけど、どちらかというと演劇は音楽の方に似ているなという印象があるんです。

中西 どういうところがそうなんでしょうか? 一般的なイメージからすると劇伴音楽というのは演劇の場合には使う人と使わない人がいるのですが。例えば有名どころでは平田オリザさんなどは劇中で俳優が口ずさむ以外の音楽はほとんど使わないですよね。平田さん以外にもそういう人は多いけれど映画だと作家によって違うけれど音楽は重要な要素として入っている印象が私なんかにはあるんだけれど、その辺はどうなんでしょうか。

大塚 いろいろ理由はありますけれど、すごくシンプルにいうとライブかどうかということがひとつはあります。後、映画について言えばもともとはサイレントだったわけです。そこに活弁士がいえ、伴奏がついてというように音を求めた。

大塚 どちらかというとストレートプレイの方が演劇の歴史から考えると邪道というか、吉田健一風に言うと「横道」に逸れたようなものの気がして、能楽から考えたり、落語は中でそんなに使うということはないけれど、浪花節とか浄瑠璃とかを考えても演劇とっては音楽が大事なんじゃないかと思うんです。

中西 オリジナルの音楽を多用していることが多いのですが、これはデビュー作(「どさくさ」初演)からそうなんですか。

大塚 これに関しては再演と同じで三味線奏者の人が劇場にいて、そこではオリジナルというよりは既存の曲、つくだという出囃子によく使われる曲が使われていました。

中西 でも生演奏をして下座音楽のようにその場で弾いているということですよね。

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劇団あはひ 過去の舞台の劇評

 劇団あはひ「どさくさ」(本多劇場)は現役学生劇団(早稲田大学)が本多劇場で公演、古典(落語)をベースにした作劇、学生劇団とは思えぬ緻密な空間構成で会場に負けないような成果を残したという意味でコロナがなければ年間を通してももっとインパクトを残すような出来事になっていたかもしれない。いずれにせよ、この作品でこの劇団は次世代を担う有力な存在へと名乗りを上げたといっていいだろう。(2020年演劇ベストアクト)

若い世代にも日常と非日常のあわひを描く演劇が台頭している。文字通りに集団名を劇団あはひとして、古典作品を題材に作劇において能楽的な構造を援用しているのが劇団あはひである。早稲田大学の学生劇団として活動してきているが、すでに本多劇場にも進出。エドガー・アラン・ポーの短編小説「盗まれた手紙」を下敷きにした「Letters」(大塚健太郎作演出)ではKAATで死者が演劇的に立ち現れる能楽的な構造を生かしながら、生と死のあいまいな境界線を浮かび上がらせた。(2021年演劇ベストアクト)

劇団あはひ(Gekidan Awai)
2018年に東京で結成された劇団。
ヒップホップ的感性に基づき、能や落語といった古典芸能を取り扱いながら、常に前衛的な表現としてそれらを提示し直す挑戦的な作品を次々と発表。
メンバーに大塚健太郎(劇作家・演出家)、松尾敢太郎、古瀬リナオ、東岳澄(以上俳優)、小名洋脩(ドラマトゥルク)、髙本彩恵(制作)。


過去の舞台公演
アンド21(芸術交流共催事業) 劇団あはひ『光環(コロナ)』
2022.07.09(土)- 07.10(日)
芸劇eyes 劇団あはひレパートリー上演『流れる』と『光環(コロナ)』
2022.04.03(日)- 04.10(日)
Letters
2021.11.11(木)- 11.14(日)
流れる
2021.02.03(水)- 02.07(日)
どさくさ
2020.02.12(水)- 02.16(日)
ソネット
2019.08.30(金)- 09.01(日)
流れる
2019.03.28(木)- 04.01(月)
短編__傘
2018.11.03(土)- 11.04(日)
どさくさ 2018.06.29(金)- 07.02(月)

落語「粗忽長屋」


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