【漢字の日スペシャル企画】漢字の「これ」、知っていました?【間違えやすい表記 番外編】
更新日:2024/12/12
小論文・作文指導者の〆野が普段の添削・採点指導からよく見かける、中高生の間違えやすい表記を紹介し、世の中高生・受験生に警鐘を鳴らすのが、このシリーズ【間違えやすい表記】……なんですが、本日12月12日は、「漢字の日」なのでそれにちなんだ内容にします。
漢字の日は、1995(平成7)年12月12日、公益財団法人・日本漢字能力検定協会によって制定されたそうです(意外と最近)。日付は、「良い(1)字(2)、一字(12)」と読める語呂合わせからだそうですが、ちょっと強引ですよね(笑)。とにかくそんなわけで、今日は漢字の日スペシャルの企画記事として、「人名漢字コラム」をまとめます。
「人名漢字って難しいですよね」というお話。
58種の「ワタナベさん」と85種の「サイトウさん」
人名漢字って難しいですよね。もちろん人の名前ですから、間違えたらその方に失礼となります。ですから、特に冠婚葬祭関係で手書きで書く時には、「これで合っているのかな?」とかなりどきどきしますよね。
志望理由書などでは、「中学のときに担任だった△△先生に憧れて」や「進学後は○○先生のゼミに入りたいと考えています」など、意外と人の名前を書く機会が多いです。あなたは、その人名漢字、正確に書けていますか。
さて、こういう「人名漢字って難しい」で、必ず話題に上がるのがこの「ワタナベさん」と、この後で述べる「サイトウさん」です。
「ワタナベさん」は「ワタ」はいいとして「ナベ」に当たる字が全部で基本は5種。しんにょうの点が一つか二つか、あるいはしんにょうの中の下が「方」か「口」かなど、の組み合わせで5種のようです。
……と、言いたいところですが、では実際5種類しかないかというとそうではありません。下の三省堂辞書web編集部のコラム記事にもあるように、ちょっとした表記の違い(表記の「ゆれ」)を含むバリエーションも入れると様々な異体字があり、有名ホテルの式場のリストには13種の「ワタナベさん」がいたと言いますから驚きです。
なお、「辺」のバリエーション(異体字)だけではなく他の字との組み合わせ(渡部や渡鍋など)も含めると58種あるという報告もあります。
一方「サイトウさん」の「サイ」の字は、何と85種あるそうです。
下の和楽webさんのコラム記事でも明らかなように、元々「齋」と「斉」は違う字なんですが、それが歴史の中で両方使われるように。そこに「齋」の新字体の「齊」や、「斉」の旧字体の「斎」が混じって、さらにそこから派生した異体字も数々加わり、85種という何ともカオスな状態に……。人名漢字はやはり難しい…と嘆息しますね。
人名の漢字として残った則天文字
則天文字ってみなさんご存じですか?中国・武周の女帝である武則天が制定した漢字で、自身の権力を誇示するために作った漢字群のことです。たとえば「星」という字を「〇」に改めたり、個人的な好みや考えで次々と既存の漢字を新しい字へと変えていきました。当時の人たちはさぞかし困ったことでしょう。下のwikipediaの記事では、武則天によって改められた「珍奇な漢字」の数々を見ることができます。
(wikipedia「則天文字」)
則天文字は武則天がなくなると廃止(きっと当時の人たちも使いづらかったのでしょうね)。その後中国の歴史において復活することはありませんでしたが、それは意外な形で意外なところで生き残ります。それが上記記事にもある、天下の副将軍通称水戸黄門でおなじみ「徳川光圀」の「圀」。これは「國」の則天文字であり、くにがまえの中の「或」は「惑」を連想させ不吉とされたことから、縁起のいい「八方(八方角全ての土地を支配する)」を縦に並べてくにがまえの中に入れて作られたとのこと。しかしそれが、くしくも、異国の人名漢字として後世に生き延びたというお話しです。なお、現在の日本ではこの漢字は、常用漢字でも人名用漢字でもないため、人名漢字として使うことはできません。
洒落ている珍しい名字
日本にはいろいろな名字がありますが、これは洒落ているなと、私が独断と偏見で思う名字を紹介してみます。
・春夏冬(あきなし)
春夏秋冬の内「秋がない」から、「春夏冬」で「あきなし」さん。なぞなぞみたいですね(笑)。
・小鳥遊(たかなし)
これもなぞなぞ系。「鷹がいない」から小鳥が安心して遊べる、ということで「小鳥遊」で「たかなし」さん。
・一(にのまえ)
これもなぞなぞ系。「二の前」は「一」。だから、「一」で「にのまえ」さん。
・七五三(しめ)
「七五三」で「しめ」さん。正月のしめ飾りに由来があるそう。
・四月一日(わたぬき)
暖かくなってきて、わたいれの綿を抜いて袷(あわせ)にする時期が四月一日。だから、衣替えの時期の「四月一日」から、「わたぬき」さん。
この中で、実際、私がお会いしたことがあるのは、七五三(しめ)さんと小鳥遊(たかなし)さんですかね。こういう珍しい名字はしばしば話題にされますが、中には、今現在その名字の方がいらっしゃらない可能性がある名字もあるんだとか。珍しいということはそれだけその名字の人が少ないということですから、かつてはいたが今はいないって名字もあるのかもしれません。
(下の記事で珍しい名字についてまとめています)
総画数84画、幻の最多字画数漢字「たいと」・「おとど」
(wikipedia「たいと」)
これネットでもしばしば話題になっているので、知っている人もいるかと思います。雲三つに龍三つ、これを組み合わせてこれで、総画数84画の漢字一字です。「たいと」や「おとど」と読むとされています。日本人の名字としてあると言われる漢字であり、「1960年代初め、ある証券会社にこの苗字を持つ者が現れ、名刺を残していったともいわれる」が、戸籍上の実名としての実在が疑わしく幽霊漢字(かたちとしては残っているものの実際に使用されたケースがない漢字)ではないかと、識者からは言われています。まるで都市伝説のような漢字です。
なお、上の記事では、現在ラーメン屋の店名に使われているケースもあるのだそうです。私も某地の居酒屋の名前として見たことがあります。話題性は十分ありますが、自分がこの名字だったら何か書くの大変そうですね(笑)。
まとめ ~人名漢字はやっぱり難しい~
今日は、特別編として、人名漢字に焦点を当てて記事をまとめました。こういう話は漢字文化圏ならではですよね。アルファベットしかない英語圏などではまずあり得ない話です。江戸時代末期に、「日本郵便の父」でもある前島密は漢字を廃止して日本語をローマ字表記で統一しようとしました(漢字御廃止之議)が、漢字表記が日本語を複雑にしている側面がある以上、わからなくはありません。しかし、それでも、こうした漢字表記もまた日本の文化の一つなのでこれからも大事にしていくべきではないでしょうか。
でも、人の名前を漢字で書くときは少し緊張しますよね(笑)。
〈引用資料〉
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