納骨堂の犬

 小噺です。

 ボクの大切な人のお骨が、とあるお寺に納骨されているんだけどね、そこに一匹の大きなコリー犬がいたんだ。

 ボクは小さな小さな子供だったんだけどね、そのコリーにたくさんちょっかいをかけていたんだ。
 触ってもなでても優しく尻尾を振る、本当におとなしいコリーだったんだよ。

 そのお寺には何度も行っていたんだけど、あるとき、お母さんに聞いたんだ。

「あのコリーの背中に乗ってもいい?」

 って。
 お母さんは、絶対だめだって。

 そんなことをしたらどんなに優しい犬でも怒るから、絶対にダメだって言われたんだ。

 それでもボクは、我慢できなくって、やっぱり乗ってしまったんだ。

 心の中では、こんなにおとなしいコリーが怒るわけがないって思っていたんだよね。
 だって、本当に、今まで一度も怒ったことがなかったから。

 いつものように、なでて遊んで、そして、ふっと後ろに回って、背中に乗った!

「ワンワンワンワンワンッ!!」

 ボクは初めて、そのコリーが吠える姿を見たよ……。

 本当に、本当に怒ってた……。

 心の底から反省した……。

 今まで一度も吠えたことのないコリーがどんなに優しかったか。そのコリーを怒らせてしまうというのがどういうことなのか。

 ボクはこのときに、いろいろな教訓を学んだと思うよ。

 先人が言うことは、素直に聞くこと。
 どんなに優しい人(犬)でも、嫌なことをされたら怒ること。
 人(犬)の嫌がることはしないこと。

 犬の背中に乗ってみたいっていう気持ちは、今もあるけど、それは、やったらいけないことなんだ。

 そんなことがあってから、しばらくお寺に行かなかったんだけど、大人になってからまた行く機会があったんだ。

 そのとき……

 コリーがいた!

 もう、歳をとっていなくなってしまったかと思っていたけど、まだ元気だったんだ。

 ボクはコリーにたくさん謝った。
 コリーは昔と同じように、優しく尻尾を振ってくれたよ。

 そんなコリー犬のことが、ボクは大好きになったんだ。

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