見出し画像

最後の妙好人 ー草刈りで伺った家のよぼよぼの面白いお爺さんは、その土地の伝説『塩之澤七三郎』の研究者だったー

 一つの面白い咄をしたいと思う。

上司が歴史好きである。もともと、歴史は無関心だったのだが、地域の伝承についてまとめた本を読んだ。馴染みの書店の姉妹店主たちがまとめた本だ。その書店についてだけで一回分、書けそうだが、とにかく、面白い人たちの尽力で、その本を読むことができた。全てはそこから始まる。

 上司は30代後半の男の人である。地域委員や地域紙の発行もされている。彼は、その本にある塩之澤七三郎という人のいわれのある場に、障がい者たちと一緒に草刈りを行く途中、連れて行ってくださった。私は障がい者の支援をするNPOで働いている。地域から仕事を請負っているのだ。

 草刈りの依頼主のお家のおじいさんは、耳が遠く、足も悪く、柔和で、面白い人だった。堅苦しくなく、しかし、てきとうで、なんとも好きになってしまうような人だった。塩之澤七三郎について伺うと、本を借して下さった。家に帰って開いてみると、彼が書いた本だった。彼は県庁に勤めながら、その自分の研究を続けていたのだ。

 塩之澤七三郎とは、江戸時代に仏教に篤い人を妙好人として選んだ、その一人である。伝承の咄では、幼い頃に父親を亡くし、泣く泣く仕事に出て、仏教に生きたとある。薪を盗まれても、かえって相手に手を合わせお礼を言ってしまうような人だったらしい。

 私は借していただいた本を1日で返した。そのくらい面白く、一気に読んだ。これは大変なものだと思い、厳重に包装してお返しした。私が驚いたのは、そのおじいさんが、妙好人の思想を体現していたことだ。それで参ってしまった。

 私は地域にこういった人が眠っていることにたいへん驚いた。アメリカ的グローバリゼーションが壊していったものかもしれない。それで、普段の生活で、アメリカ的な現代人に説教はしない。私もたまにはマクドナルドに行く。しかし、こういった精神世界は守らねばならないとどこかで想っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?