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【小説】心霊カンパニア①-2 『クレア・ボヤンス』


えにし


 声が出ないって言っても、叫びや悲鳴、嗚咽や奇声といった反応による声は出るんです。こう、なんて言えばいいのか分かんないんだけど、セリフ的な言葉がどうしても”どもって”しまうんです。色々もちろん調べたけど、失語症か吃音症か。精神的なことから神経系統に影響しているとかなんとか。

 で、ボクはなんとか失いかけていた意識を取り戻してもらい、こうやってちゃんと現世と自意識をコンタクト出来るようにはなったんだけど、未だに声というか言葉は出せないでいる。

「さぁ、もうご安心を。私はあずさと申します。あなた、お名前は?」

 ボクは目を腫らせながら、あずささんを見つめていました。そしてボクの上、テーブルから降りてはだけた着物を自分で着付け治している。ボクは一生懸命、声を出そうと頑張ったんだけどダメでした。自分の名前、自己紹介すらこの恩人の方々に言えないのかと、また悲しくなってきました。

「・・・会長、この子の名は藤原 千鶴ふじわら せんかく。男性。17才。約一年前、ご両親の事件いこう、言葉が話せなくなったようです」

 喋れないボクの変わりに古杣さんがボクのことを紹介してくれた。・・・え、やだ、『本名』は止めてよ。千鶴ちづるって呼んで?

「・・・本人は女性として生きているようで、『ちづる』と呼んで欲しいそうです」

 ・・・え??

「そう、では千鶴ちづるさん、突拍子もない出来事ばかりで驚いていらっしゃることでしょう。けど、これからはご親身にしましょう。あ、それとごめんなさい。あなたの声までは取り戻せなかったようで・・・でも、きっと大丈夫。時間と共に還ってこられますゆえ」

 あ、はい・・・いいえ、ボクが悪いんだから、謝らないでください。いいやそうじゃなくて、なんでボクの言いたいことが古杣さんに分かるの??って感じで古杣さんの方へと目線を移した。

「・・・会長、私は食事の準備を手伝ってきます。よろしければ、会長の方からご説明願いますか?・・・今は、その方がよろしいかと」

「ええ、承知しました。お願いします」

「では・・・・・・」

 そう言って物腰の柔らかい長身の男はボクをテーブルから軽々と抱きかかえて車椅子へと座らせてくれました。そして奥へ、おそらくキッチンの方へと去っていった。なんか、古杣さんには全てを見透かされているかのように感じた。そう、だって今のボクは泣きじゃくった後だし最悪な顔をしているだろうからさ汗。そんな顔、できるだけ見られたくないじゃん!

「ふふっ・・・ああ、ご無礼を。とりあえず私から一方的にで誠に申し訳ありませんが、話させて頂きます。私もあまり雄弁は方ではございませんが・・・粗相があればお許しください。何か分からない事がありましたら、後ほど社長・・・えっと、先ほどあなたをここへ連れてきてくれた男が古杣ふるそまと申します。ここの責任者であり全体の世話をしてくれている優秀な男であります」

 社長・・・会長・・・何かの組織かしら。

「あなたは、そう・・・『視える』のでしょう?その、霊体が。いつぞやの私は・・・そうね、世俗的に言わば『幽体離脱』と言わるるもの。普通の人は他者の霊体は勿論、離脱した幽体も見えるわけではございませぬ。しかしあなたとだけは幽体の私でも”目が合った”。私も初めての経験でした。あの私の姿は私が心でイメージした形ゆえ、目も見え彫りものも無かった。ここまで全身に施したのは光を失ってからだから、私にも今の私がどんな姿かは分からないのです」

 やっぱり、この女性ひと、目が見えないんだ・・・・・・

「あと、あなたが視えるように、古杣は『聴こえる』の。『霊聴』と言って普通の人が聞こえない音や言葉が聴こえてきてしまう・・・そう、私たちはあなたの同類・・・いえ、仲間といっていいわ」

 ボクは驚いた。それと、少しだけど喜びもあった。自分と同じような能力・・・少し違うけど、似たような悩みを抱えている人たちが居たことに。

「恐らく、先ほどは千鶴さん、驚かれたでしょう?いや、気分を害したかしら。古杣があなたの述べたいことを代弁したような形で言っていたから。素性を調べ上げたといったそのような不届きなことはしておりませぬ。彼はあなたの心の声を聴いた。それだけ。あなたが人ならざる存在を見えてしまうように、古杣は聞こえてしまう。だから気を悪くしないで下さい」

 気を悪くするどころか、嬉しかった。

「質問や何か言いたいことがあれば彼、古杣の目を見ながら心の中で語りかけて。そうしてあげれば彼の”負担”も無くなりますゆえ」

 負担?

「後、そう、御苦労なされたでしょう。私たちがあなたを見つけてあげられなかったら、危なかった。あんなに霊魂や霊体に囲まれて・・・私には霊体的な、云わば精神的なことしか分かりませぬが、憔悴しきり現世と彼の地かのちとの狭間にまで意識と魂を歪ませなければならなかったあなたの気苦労と大変さだけは、私には伝わります」

 色々なことをまた思い出してしまいそうになり、心が少し締め付けられ目が涙ぐむ。

「これからよろしければですが、私たちに古杣を通してでも構いませんので落ち着いたら何があったかなど、あなたのことを教えて下さいまし」

 そう言ってまた、梓さんはボクを優しく抱きしめてくれた。もう、不思議と涙は目の奥へと引っ込んでいく。まるで本当の母親のような抱擁でした。

「そうそう、私のこの身体は・・・・・・」

「・・・お待たせしました」

 古杣さんともう一人、また初めて見る人と二人で豪華な食事を持ってきてくれた。細かな料理の詳細は、美味しければなんでもいい食べる派のボクにとってはさっぱり分からないが、ざっくり和食と洋食、そしてどこの料理かも分からない豆料理やケバブ?みたいにそぎ落とされた肉の山、ナンに似たパンなど様々な料理がどんどんと並べられていく。

「君の・・・ああ、千鶴ちづるちゃんの好みが分からないから、色々と幅広く用意したよ。あ、大半は彼がだけどね」

 そう言って指さす方向には古杣さんに負けないぐらいの長身で、少し体格のいい男性がマスクをして頭にはバンダナを撒いてエプロン姿でそそくさと料理を運んでいました。

「彼の名前はシャルル。ここの仲間だよ。仲良くしてあげて」

 ボクは梓さんの言う通り、心の中で古杣さんの目を見ながら「はい」と答えた。そうすると古杣さんも最初のクールな印象とは打って変わって、かわいい笑顔を返してくれた。この瞬間に、ドキっとボクはときめいたの。

「では、頂きましょう。千鶴さん、遠慮しないで好きなものを好きなだけ取って召し上がって下さいまし。肉体的な回復と、好む物を食べたり好むことをするのは感情的にも、そして幽体的にも影響いたします。治療、万病薬だと思って沢山食べて下さい」

 こうして、ボクと梓さん、古杣さんとシャルルの四人で夕食?朝食?を共にし、その間、ボクがここに至るまでの話や過去の話を古杣さんを通してお話しました。ヴァンパイア洋館のようなダイニングでボクと着物姿の梓さん、スーツ姿の古杣さん。外国人であるシャルルという、この場所の雰囲気と四人の出で立ちは、なんだか異様だろうなとも考えながら、お腹いっぱいに欲張って食べ過ぎてしまいました。窓の外を見ると結構な時間が経ったにも関わらず、最初に見た夕日のような赤橙色の空は、ずっとボクの頬のように赤らんだままでした。

 そして

 とにかく最高だったのは、シャルルが作るオムライスは絶品♡


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