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「文才」の正体に迫る~「バズる文章教室」~

 好きな作家は居るだろうか?
 もしくは、たったの一文でもいい。どこの誰が書いたのか分からないものだっていい。心に残っている文章はあるだろうか?
 その文章がなぜ好きなのか、考えたことはあるだろうか。言葉選びが秀逸だから、当時の自分に喝を入れる鋭い一撃だから、人生の指針になるから。好きな理由は人それぞれあるだろうが、きっと内容に重きを置いている人が多いだろう。
 では、文章の構造に焦点を当てて、好きな理由を考えたことはあるだろうか? どうしてこの文章はこんなに響くんだろう。どうしてこの言葉に重みがあるように感じるのだろう。同じような言葉を選んで自分なりに配置しても、きっとお気に入りの文章には敵わないはずだ。
「その人に才能があるからだ」と貴方は言うかもしれない。実際、逆立ちしても敵わない程言語センスが光る天才は居る。悔しいが、認めざるを得ない。
 けれどもし、その「文才」とされるものをテクニックとして落とし込むことが出来たら。模倣可能だとしたら。勤勉な貴方はきっとその方法を知りたいと願うはずだ。。貴方はその方法を知りたいだろうか?

「文芸オタクの私が教える バズる文章教室」(著:三宅香帆、サンクチュアリ出版)


 出版された当初から本書の存在を知っていたのだが、先日ようやく買う決心がついたので購入。すぐに読み始めた。
 作家として広く知られる方々の文章のみならず、アイドルソングやブログ、果てはサラリーマン川柳や江戸小噺など、幅広い書き手の特徴を分析し、余すことなく伝えてくれているのが本書である。本書には炎上紛いの手法で手っ取り早く話題をかっさらう手法も、「てにをは」の使い方などの文法規則も載っていない。
 ただひたむきに、人々が楽しんで読んでいる文章の共通点を探っている。

 例によって、具体的にどんなテクニックが載っているかはここではお伝えしない。買うなり借りるなりして、その目で確めてほしい。「文才」の正体を端的に言い表し、多少文章を書くことに慣れた人であれば誰でも実践可能なレベルに技術を落とし込んでくれているから。損することは絶対にない。 引用されている文章も、名文と呼ぶに相応しい美しいものばかりなので、文章力にお悩みの方には是非ご購入頂きたい。


 さて、通り一遍の解説が終わったところで、私が一番好きだと思った部分をお伝えしよう。勿論すばらしい分析結果の数々に心打たれなかった訳ではないが、本題はそこではないのだ。

 本書には実に多様な「文才」の正体が掲載されている。誰にでも分かりやすい、平易な言葉で。
 そんな偉業をやってのけたのだから、少しくらい上から目線が含まれていてもいいだろう。しかし、本書にはそういういやらしさが全くない。
 そこには、「『書くこと』ってこんなにも表情豊かなんですよ!」と、目を輝かせて表明する著者の姿がある。
 絵や映像と違って、文章はパッと見で美醜や善し悪しが分かりづらい。じっくりと読まねば分からぬところに良さがある。本書はそんな当たり前のことを思い出させてくれる。子供の様に無邪気に、こんなに素敵な文章があるんだよ、きっとこういう書き方のおかげだよ、と教えてくれる。
 それどころか、「貴方にも出来るよ」と言って、背中を押してくれる。
 創作活動という暗闇を往くための灯り、それが本書である。なにも聞かずにただ隣に居てくれるような、やわらかな優しさが、本書にはある。
 これほど心強いことはない。

 本書はきっと、誰が読んでも面白いと思えるものだと思う。読む専門で、書くのはからきし、という人でも、自分が心うたれた文章にどういうトリックが仕掛けられているかを知り、より好きになることが出来ると思う。最近文章を書き始めた、という人も、この本のテクニックを使えばきっと、様々な段階をショートカットして、人に読んでもらえる文章を書けるようになるだろう。
 しかし、一番お勧めしたい相手は、やはりそれなりに文章を書くことに慣れた貴方。
 文法のルールも一通り備え、読みやすい文章の型もある程度使いこなせるようになった、貴方にこそ読んで欲しい。
 本書には読みやすさを追求する上で、通常は避けた方がいい行為も例示されている。初心者が行うにはリスクが高いが、「書くこと」にこなれてきた貴方ならば平気だろう。
 知らず知らずのうちに自分を縛っていたルールやしがらみを取っ払って書いてみよう。そうすることで、貴方だけの「文才」が手に入るはず。頭を悩ませ工夫を凝らしてきたからこそ、自分だけの文章の型が見つかるはずだ。道はこれまでの貴方の努力と、この本が照らしてくれる。


 さあ、好きなように書いてみよう。貴方の「文才」は、どんなふう?




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