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2024上半期ベストトラック33選(6選)

えっ今年半分終わり?ていうか2020年代の半分が終わろうとしている?もう時間の流れに全然ついていけないのだが、それでも新しい音楽は容赦なく山のように毎週生み出される。というわけで今年も、自分が聴いた中で素晴らしいと感じた33曲を Apple Music と Spotify でプレイリストにしてみた。曲順はざっくりリリース順。時間のある方、梅雨の雨でやる気が削がれている方、あるいは作業用にでも、ぜひチェックを。

なおかつその中から特別にインパクトを受けた6曲を下の方に選出し、文章をつけた。こちらも気にしてもらえれば幸い。



ZAZEN BOYS "永遠少女"

少なくとも自分の SNS の観測範囲では、向井秀徳が何者であるかを知っている人間の全員が言っていた。まさか向井がこんな曲を作るとは思わなかったと。かく言う自分もそのうちの一人である。「1945年」を軸に展開される凄絶な情景描写は、わざわざ説明するまでもなく強いメッセージ性を感じさせるもので、NUMBER GIRL "透明少女" から連想しての牧歌的な曲調を予想していたファンを完膚なきまでに叩きのめす。あくまでも情景描写であり、向井本人の言葉としては「人間なんてそんなもんだ」くらいではあるが、その筆致は今までにないくらいに辛辣で重い。ベーシストが MIYA に交代してアンサンブルは相変わらずの太さとソリッドさを維持しているが、そこに乗る言葉はさらに上を行く勢いの強烈さ。


すずめのティアーズ "ザラ板節"

町田康が思わず INU の歌詞をセルフ引用して絶賛してしまうほどの評判とのことだが、いやはや実際、このデュオのデビュー作はある意味で今年聴いた中では一番の衝撃だったかもしれない。ブルガリアン・ポリフォニー歌唱とジャズ/フォーク/ボサノバの要素を取り入れたアコースティックアレンジで日本各地の民謡をカバーという、言ってしまえばアイディア一発なコンセプトではあるが、どの曲でも日本特有の郷愁と未体験の刺激が綯い交ぜとなって迫り、音楽的素養の豊富さ、技量の巧みさでグイグイ引き込まれる。特にこの "ザラ板節" では涼やかなジャズアレンジが原曲のメロディと奇しくも絶妙にマッチし、途中からブルガリア民謡へと違和感なく繋がっていく構成も含め、その妙技にただただ脱帽するしかなかった。


Rachel Chinouriri "Never Need Me"

イギリス・ロンドン出身のシンガーソングライターによる本格的なデビュー作、それに先駆けて公開されたこのリード曲は、快活なリズムに浮遊感を醸し出すシンセサウンドをまとわせて煌びやかに彩った、シューゲイザー/オルタナティブロックの現代版ポップ解釈といった塩梅。なおかつボーカルには R&B 風のふくよかさもあり、彼女がこれまでに影響を受けてきたであろう様々な…主に90年代を席巻したブームのあれこれが自然な手つきで取り入れられている。「私を必要としないで」「あなたが変われないと私も助けようがない」さらさらと歌われるこれらの歌詞は決してライトな心情ではないはずだが、彼女は暗さを暗いままの状態でアウトプットせず、あえて陽の光を当てることで内面の複雑さを損なわないまま優秀なポップソングに昇華している。


Mk.gee "I Want"

こちらはアメリカ・ニュージャージー出身のシンガーソングライター。キャップを目深く被り、ジャガーを構えてか細いクリーントーンを爪弾きながら歌う彼の姿は、まだデビューしたてでありながらすでにただならぬカリスマ性を漂わせている。Michael Jackson や Prince 、あるいは Phil Collins といった80年代ポップシーンの最上位を、Frank Ocean 以降と言える現代のアンビエント感覚で捉え直した音楽性。それは日本で言うならば CHAGE & ASKA や安全地帯、徳永英明なんかの平成初頭を想起させるものでもあり、つまりはここ日本においても深く定着しているポップスの良心。アルバムの中で一曲挙げるとするならば個人的にはこれ。抑制しながらも端々にエモーションが滲み出る表現力豊かなボーカルが、独特のギターサウンドとともにまっすぐ胸を打つ。中盤の転調やギターソロの展開もさり気なくドラマチック。


柴田聡子 "Movie Light"

柴田聡子というシンガーの存在はなんとなく認知はしていたものの、きちんと作品を聴いたのは恥ずかしながら今年に入ってからだった。のほほんとしたフォークソングの人なのかなとぼんやり思っていたので、こんなにも情感豊かで洒脱なジャズ R&B を歌うのかと知って心底驚いた。岡田拓郎の全面的なバックアップを受けて完成した "Your Favorite Things" の冒頭を飾るこの楽曲は、優美なストリングスアレンジから始まり、輪郭を曖昧にする淡い陽の光、何もない冬の海を遠く眺める時のような穏やかさで、始まりの時点ですでに幸福なエンドロールを思わせる、ひどくしみじみとした気持ちにさせられる。「ただただ良い曲を作る」がテーマだったとのことで、一切の衒いや逆張りをやめて純度の高さに向かった、その成果は十分すぎるだろう。


Still House Plants "M M M"

イギリス・ロンドン出身のインディロックバンド。ギター、ドラム、ボーカルのトリオ編成なので便宜上ロックとしたが、ほとんどジャムセッションに近い不定形な曲構成はフリージャズ的でもあり、最小限の音数でストイックに反復を繰り返しながら恍惚の高みへと昇りつめる感覚はテクノ/エレクトロニカ、あるいはその先祖に当たるクラウトロック由来のセンスであるようにも思う。最初の一音で辺り一面の空気を変えてしまうくらいに個々の音がくっきりと研ぎ澄まされ、各自が己の演奏に深く没頭し、しかし時折目線を交差させて互いの呼吸を確かめ、何なら微笑みすらも交わしながら、「観葉植物」なるバンド名の印象とはまるで真逆の流動的かつ圧倒的な演奏を繰り出し、それを強引にも「歌」として着地させる。この "M M M" はアルバムのオープナー。6分弱の間、息もつかせぬ緊張感と美しさばかりが続く。

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