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サッカー訪問記 1       FC今治は今治市の象徴となるか?

 僕はかつてアジアや色々な国のサッカー協会を訪問して、その国やその国のサッカーの話を沢山聞かせてもらった。今は仕事で時々Jクラブを訪問して、クラブの方々と話す機会に恵まれている。ある意味サッカーを通じて贅沢をさせてもらっている。ただ、僕が見聞きしてきたことに一体普通の人は興味があるのか、それともあんまりないのか正直よくわからない。

 このサッカー訪問記は今後気が向いたらアップさせて頂こうと思う。ただ、果たしてどれくらいの人に興味を持ってもらえるかあまり自信がない。ただ、"ああ、サッカーの人たちってこんなこと考えてんだ!" って思ってもらえたら嬉しい。元来飽きっぽい性格なので、どこまで続けられるかわからないが、まずはほんのお口汚しに読んで頂ければ幸いです。

第一回目は先日お訪ねしたFC今治。今治はいいところでしたよ!

◆今治市
今治近辺は歴史小説にも度々登場する村上水軍が本拠とした地域だ。また近代以降は来島ドック等に象徴される造船の町であったが、今はむしろ今治タオルでこの町を認識している人のほうが多いかもしれない。
FC今治の皆さんとミーティング後16時のスタジアムでの試合開始まで数時間あったので亀老山展望台に登ってみた。先日日経新聞土曜版の全国展望台絶景ランキング第2位になっていた展望台だけあって、本州の広島、岡山、瀬戸内海の島々、四国側は高松辺りまでを360度一望できる圧巻の眺め。瀬戸内海から吹いてくるそよかぜの中で見る青空と白い雲、海面の青と陸地の緑のコントラストが見事だった。

以前日本サッカー協会(JFA)に勤務していた頃、中央アジアのタジキスタン、キリギスへの出張を終えて帰国した翌日、東京から松山に出張した時にも感じた日本の自然の独特な色取りの深さ、美しさを久しぶりに味わえた。
日本各地の祭り、例えば青森のねぶた祭り、京都の祇園祭りや徳島の阿波踊り等の映像をドキュメンタリーなどで見ると、人々の衣装や祭りの装飾が独特の深い色合いに溢れており、夜の灯りによりそれがより際立つようになっていることに気付く。これは西洋の国にはない色合いだ。西洋人の画家が浮世絵に取りつかれるのはこんなことからなのだろうか。瀬戸内海を見るたびに、“そうそうこの色、この色!” と思い出すのだ。 
 
◆乗禅寺
FC今治の運営会社㈱今治.夢スポーツでの打ち合わせ前、早めの時間に到着したのでご近所を散策していると、事務所の隣の敷地に乗禅寺という弘法大師空海が開いたお寺がありお参りした。10年程前、司馬遼太郎の空海という小説を読んだのを思い出したのだが、空海さんは遣唐使として唐に渡る前に四国各地を巡り、断崖の洞窟などで瞑想し、修行に明け暮れたという。その縁で四国にはかなりの数の真言宗の寺院があるとは聞いていたが、こんなところで偉大なる弘法大師が興した寺に遭遇するとはと不思議な縁を感じたのである。
 
もう一つ縁を感じたのは境内に日本を代表するサイドバックの長友佑都選手の足型が置かれていだこと。

夢へ歩んだ長友選手の「足形」 今治・乗禅寺に:朝日新聞デジタル

長友選手はほど近い愛媛県西条市の出身で最初はお母様がこの寺に頻繁にお参りしていたことから、長友選手も訪れるようになったとのこと。
てっきり岡田代表繋がりで長友選手の足型がここにあるのかと連想したのだが、そうではなかった。元来この土地はサッカーとの縁がある土地なのかも知れない。
 
◆瀬戸内海が見える新スタジアム

来年春にこけら落としが予定されている里山スタジアム(仮称)のメインスタンドでは、瀬戸内海からのそよ風を感じ、遠景に数キロ先の瀬戸内海を見ながらの観戦でできるというちょっとした贅沢感を味わえることになりそうだ。

我々が訪問した当日のJ3の試合は来年からサブスタジアムとなる奥の現存の“ありがとうサービス.夢スタジアム” で行われたが、その隣に建設中の新しい“里山スタジアム”を眺めていると完成後の佇まいと雰囲気は十分に感じられた。 Jクラブの中では数少ない周辺の美しい自然環境に恵まれた居心地の良いスタジアムになるだろう。

◆イオンモールと隣接する新スタジアム
この新スタジアムのもう一つの特徴は2016年にオープンした巨大なイオンモールと道を隔てた隣の丘の上のスポーツパークの中に位置すること。スポーツパークは、10面以上のテニスコートとサッカーのサブグラウンド数面を含む広大な公園。サブグラウンドは地域のユースサッカーの拠点となっており、お子さんのチームの試合を観戦する家族連れに遭遇した。

                          FC今治HPより引用

イオンモールは専門店モールとシネマコンプレックス、それにもちろん広大な駐車場スペースを抱えている。スポーツパーク専用の駐車場と合わせると数千台の車両が駐車可能だ。モールからはスタジアムには乗車時間2-3分のシャトルバスがピストン輸送しており、買物しにモールに来たついでに試合観戦、或いはその逆で試合観戦のついでに買物、食事が可能。ヨーロッパのスタジアムによくあるようにスタジアムを中心にちょっとした街が形成されているのだ。私は他のJクラブのスタジアムもそこそこの数を見てきたが、コラボできる商業施設の規模がここまでのものはそうそうないのではないだろうか? 
                        
◆イオンモールとのコラボの可能性

ビジネス的にはこれは絶好の環境。
イオンモールには “里山スタジアムプロジェクトを全面的に応援します” との掲示とともに新スタジアムを含むスポーツパークの立体模型の展示スペースがあるので、恐らくFC今治とイオンモールの間では共同での集客喚起の仕掛けが検討されていることだろう。少なくともFC今治の観戦チケットを購入するとイオンモールでの買物割引などが可能となるのではないか?
 ここで現実的にどれぐらいのメリットがあり、どれぐらいの割引が可能か考えてみた。このイオンモールの年商は約150億円とのこと。年間360日稼働するとして一日の売り上げが平均約40百万円。平日と週末の落差があるので、週末の土曜日は約60百万円の売上があると仮定してみる。各単価は想像するしかないが自分が近隣のイオンモールに行った時の購入金額や家族連れの場合などから想像して3千円と仮定してみると、土曜日には約2万人がイオンモールで買い物をしていることになる。(60百万円÷3千円=20,000人) 来年新スタジアムが満員になると6,000人なので、仮にその内の50%、つまり3,000人が試合前後にイオンモールで買い物、食事をするとしてスタジアム効果で売上は9百万円増えることになる。イオンモールの決算書から見て、粗利益率を25%とすると1試合当たりイオンモールの粗利益は2.25百万円増えることになる。 FC今治のリーグ戦や天皇杯などの公式戦が年間20試合とするとイオンモールの年間粗利益は45百万円押し上げられることになる。そこで、仮定の仮定の話になってしまうが、その45百万円の内75%の34百万円を観戦チケットに付与する割引の原資にし、観戦チケットを提示すれば550円まで割引とすることができる。(45百万円÷20試合÷3千人≒550円)
550円割引が今治市民にとってどれほど魅力的かは未知数ながら、大々的に発表すればそれなりの宣伝効果になりスタジアムの集客が増える可能性が高い。何よりも “観戦+イオンモールで買い物/飲食” の消費パターンが定着するのではなかろうか?
こういうビジネスとの相乗効果を大規模に仕掛けられるスタジアムは日本ではまだ意外と少ないので、来年4月の新スタジアムのこけら落としが今から楽しみである。
 因みにこの里山スタジアムは最初は収容人員6,000人からスタートするが、クラブの成長に合わせて10,000人、更に15,000人まで拡張できる設計になっている。ヨーロッパにはこういうスタイルで順次拡張していけるスタジアムが存在しておりその設計コンセプトに倣ったものなのだ。ビジネス的に非常に現実的だ。

◆ふるさと納税 乾汽船さんのご厚意

歴史ある造船の街だけあって試合前に㈱乾汽船の乾専務、今治市長、岡田代表が並んでサポーターに乾汽船さんから1億円をふるさと納税として寄付頂き、スタジアムの建設費の一部に充てられるとの報告があった。海運業界関係者には周知の事実だが、実は海運業はコロナ禍になって利益が上振れした数少ない業界なのだ。コロナ禍に突入して以来世界の海上運賃が異常に高騰したからである。 以下の海上運賃の指標 “バルチック指数” の推移を見て頂ければお分かり頂けるはずだ。 コロナ禍で港湾労働者の出勤がままならず➡世界の港湾の稼働率が下がり➡沖待ちなど船の循環が悪くなり➡船腹やコンテナーが足りなくなるという “風が吹けば桶屋が儲かる”的なことが実際に発生したのだ。

それはさておき、会社の利益が一時的に上振れしたとはいえ、ポンと1億円もの大金をスタジアム建設に寄付した乾汽船さんの心意気は称賛されてしかるべきだ。また、こういう地域にゆかりのある企業からふるさと納税を受け、スポーツ振興に活用する新手法は素敵なやり方だと思うし、他の自治体でも応用して欲しい。是非これがいい先例になってほしいものである。
 
◆最後に
今回のFC今治訪問は期待以上に印象深かった。
訪問前は人口15万人の町でどこまで成功出来るのだろうかと若干心配な面もあった。ただ関係者のお話する際の表情や、イオンモールや試合会場での賑わいや雰囲気に触れ、また他にはない強みを発見するにつれ、クラブとして大きく成長する要素を持ち合わせていると確信した。スタジアムに掲示されているスポンサー看板を見ていても、地域の企業、金融機関、学校、それから多くの病院/クリニックなど非常に幅広く、官民共同でサッカーの街、スポーツの街にして行こうという団結力が感じられるのだ。どこか今は川崎の街にしっかり根を下ろしている川崎フロンターレと雰囲気が似ている。

また、地域での子供や10代選手の競技人口の問題だが、確かに首都圏、関西圏に比べると少ないかもしれない。ただFC今治が身近な存在として地域住民に愛されるようになるにつれ、サッカーの街として子供のサッカー人口も増えていくのではないかと期待される。オランダで8年間サッカー指導者として修業し、タイや中国での指導も経験した林ユースダイレクターが来年から小学生向けのスクールでの指導を本格稼働させると楽しそうにおっしゃっていた。 これでジュニアユース、ユースと合わせた一貫指導体制もできあがる。今後年月をかけて多くの子供たちが素晴らしい環境でサッカーを楽しめる町になっていくことだろう。

是非クラブとして大成功して、目標とするJ1への階段を登っていって欲しいものだ。
                            2022年9月3日
 
 





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