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いんきのにじみ「画帳」

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インキの滲み。 拙い絵です。
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2020年10月の記事一覧

Day28,「Floated through」Inktober2020

Day28,「Floated through」Inktober2020

 自分で言うのはなんだかなぁ、と思うし、かっこつける気もなく、むしろ自虐に近いが、僕は随分、世間から浮いてしまっている所がある。気に入っている節も、気に入らなくて本当に嫌な事もある。浮いているせいで、心底楽しめない事が多いし、属した場所に上手く馴染めなかったりする。人との関わり方も下手くそで、多分人との縁では損をしている機会も多いのだろう。
人は多かれ少なかれ誰しも同じではないから、こんな悩みなん

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Day26,「Hideout」Inktober2020

Day26,「Hideout」Inktober2020

 昔から、屋根裏小屋、秘密基地、隠れ家、みたいなものが好きだった。多分男の子はみんな好きだ。女の子にとっての化粧品箱や、宝箱の様なものが、僕たちにとってのそういうものなんだと思う。大人になってもそういう憧れが消えず、むしろ女性の口紅が幾本も増える様に、家には無限に物が増えた。僕にとっての宝は靴や服、革細工の道具や妙な雑貨で、しかも仕事を始めて小金が入ったから、いちいち言い訳をしながら、取り留めなく

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Day25,「Buddy」Inktober2020

Day25,「Buddy」Inktober2020

 金曜日、前々から進めていた転職活動の最終面接が終わった。面接は呆気なく、10分程の社長面談で済んだ。持て余した時間を潰すために喫茶店にしけ込むと、知らない番号から着電し、内定です、との事だった。淡々とした一連の流れの中で、私も淡々と、そうですか、ありがとうございます、と返した。むしろ、面接後に携帯に入っていた現職の顧客からの発注連絡の方が、嬉しかった。

 今の会社は、新卒で4年半働いた。もとも

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Day24,「Dig up」Inktober2020

Day24,「Dig up」Inktober2020

 古本が好きだ。
角の擦れた手触りが好きだ。新本より安く買えるから好きだ。ぱらぱら捲ると甘い匂いがするから好きだ。赤っ茶けた紙の色が好きだ。知らないことが書いてあるから好きだ。時々、知ってたつもりの事を裏付けてくれるから好きだ。時々、前の持ち主の書き込みが見付かるから好きだ。
古本が好きだ。

街角の古本屋の店先に、100円本の棚やトロ箱があると、必ず覗いてしまう。たかが100円で、知らないことが

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Day23,「Ripped jeans」Inktober2020

Day23,「Ripped jeans」Inktober2020

 高校生の頃流行っていたのは、ELOやTokyo graffityなどの雑誌だった。今から思うと割とどうでもいいファッション誌やライフスタイル誌だったが、ネットもなく、テレビも漫画もゲームも禁止されているのだから、私が暮らした寮内では、エロ本と並んで読まれているのが雑誌だったと思う。
読者モデルが着ている、流行だという服は馬鹿みたいに高くて、少なくとも私には現実味がなかったが、ユニクロで買ったどう

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Day22,「Chef de cuisine」Inktober2020

Day22,「Chef de cuisine」Inktober2020

 大学時代、選択講義で仏語か中国語を取る必要があった。中国語はなんとなく分かる気でいたし、そもそもそそられなかったから、フランス語を選んだ。英語も頓珍漢のくせに、よくあんな難しい言語、選んだものだ。
仏語はまず、発音が難しい。同じラテン系言語でも、イタリア語の発音は分かりやすく、意味がわからないまでも、音は聞き取れ再現出来る。フランス語は、それすら難しかった。初見でどう音を出しているか分からないの

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Day21,「Sleep well」Inktober2020

Day21,「Sleep well」Inktober2020

 アマゾンプライムデーでベッドを買った。ダブルベッドだ。ついでにダブルのコイルマットレスも買った。流石に掛け布団は新調はしなかったが、布団カバーは新しくすることにした。
まず届いたのはマットレスで、圧縮されているのにその時点で、想像していた倍大きかった。ダブルなのだから当たり前である。当たり前であるけれども、古い家の異常に急な階段を持ち上げねばならないのだから、ふっと気が遠くなった。必死で持ち上げ

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Day20,「Coral sea」Inktober2020

Day20,「Coral sea」Inktober2020

 怖かったことを思い出そうとすると、意外にも旅先の出来事ではなく、幼少期の事に集中する。
祖母の家の、書架が何列も並んだ書斎は、昼でも薄暗く、廊下の一番奥に鎮座していた背の高いオーディオ機器は、オーディオリールをセットする二つの黒い出っ張りが目のように見えた。強烈に怖い記憶だ。そこだけぼんやりと窓の光が差し込むから、人の空気に舞い上がる埃に日が当たり、白い粉塵の中で打ち捨てられた、ロボットの様に見

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Day19,「Dizziness」Inktober2020

Day19,「Dizziness」Inktober2020

 19日目にして、書き溜めが尽きた。去年も中盤から書き溜めが無くなり、毎日いつやめるかのチキンレースの様になりながら、結局完走できた。Inktoberはやはり、みんなでやっている感覚が楽しくて、ついつい夢中になってしまう。それなのに10月はそもそも忙しいから、走る心についていけないよたよた歩きの体だ。

 私は、音楽もスポーツも、勉強もからっきしだった。文章と絵だけは得意だと思っていたこともある。

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Day18,「Trap in moment」Inktober2020

Day18,「Trap in moment」Inktober2020

 雨が降り、寒くなった。我が家の中もしんしんと冷え付き、朝方など布団を抜け出し下ろした足が、フローリングに触る時には、冷たくて背筋が凍る。仕方がないから先日灯油ストーブを出したが、火を入れたら入れたで暑い。狭い部屋を温めるには過剰だが、電気ヒーターは弱すぎる。そろそろ最低限エアコンが付いた家に越すべきか。
冬の景色は全てが動くのを辞めたようで、世界が時折閉じ込められたように感じる。世界の箱庭感が強

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Day17,「Stormy love affair」Inktober2020

Day17,「Stormy love affair」Inktober2020

 ぶーん、と音がして、会場は暗くなる。緑のライトだけが点いている、ぼんやり照らす。そのうち、大画面に大きな光が投影され、最初は予告編から、そして本編が始まる。映画のあの一連の、始まるまでの時間が好きだ。
もちろん、劇場で見る以外の映画も好きだ。昔自宅近くの図書館で借りたビデオ映画を、家のテレビデオに突っ込んで、ざりざりした荒い画面で見るのも好きだったし、今ipadで寝転びながらぼんやり流す、Net

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Day16,「Rocket out」Inktober2020

Day16,「Rocket out」Inktober2020

さあママ
街を出ようよ激しい雨の夜だけど
支度はなんにもないから
裸足でドアを開けるだけ
形見になるようなものを拾うのはおよし
次の街ではそんなものはただ
邪魔になるだけ

 平成生まれでは珍しい方だと思うが、かなり中島みゆきが好きだ。あの異常なほどに劣化しない魔性の外見と、容易には話しかけられそうにない刃物みたいな強さ。更に、ふられて哀しいのか、ふってやって清々してるのか、それともそんなのほんと

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Day15,「View from outpost」Inktober2020

Day15,「View from outpost」Inktober2020

 学生時代、学校行事で毎年登山をしていた。側から聞けばハイキング程度のものかと思うが、2泊3日で行われる遠足、と呼ばれるその定例行事は、本気の雪山登山だった。名前の可愛げはどこにもない。
私は登山はとても苦手で、やっていた頃は正直嫌いだったが、ラグビーで膝を壊して登れなくなって初めて、あれもあれで良いものだった、と思えるようになった。蚊帳の外から見ないと分からないことは、往々にしてある。

 人間

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Day14,「Armored spilits」Inktober2020

Day14,「Armored spilits」Inktober2020

 父は、弓を引く。
言葉通りの意味だ。革命家でも、音楽家でもなく、ただ本当に、弓を引く。昔から弓道場に連れて行かれては、弾かれる弦や的に矢が当たる時の、びぃん、ばすっ、というような音を聞いていたから、当たり前のことだと思っていた。世間一般では、弓を引く機会なんてそうそうない、と知った時は、びっくりしたものだ。
いつだったか、夏の道場で暇を持て余した私を、高校生か大学生か定かではないお姉さんが、見兼

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