今日の短歌〜雪の降る夜〜
しんとして雪の降る夜はふるさとの
遠い海鳴り耳底に響く
幹線道路の側に住んでいるので、毎日車の音がうるさい。だが、その車の音が聞こえない時がある。それは雪の降る夜である。
雪国なので冬には何回も雪が降る。雪が道路に積もってタイヤが地面に付かなくなり、雪の上を走るようになると(しかもべちゃ雪はダメでしっかりしまった雪ならば)車の音がほとんどしなくなる。外はしんとして、雪が降り続いている。
この状況下。
耳の奥底のほうで、昔ふるさとで聴いていた海鳴りの音が聞こえてくるのである。(断じて耳鳴りではない!)
私の生まれた家は海岸まで歩いて10分ほど。夏には水着の上にバスタオルを羽織って歩いて泳ぎに行っていた。
泳いでいた海は白砂青松で知られた湾で海水浴場として有名だった。毎年京阪神から海水浴客がわんさと押しかけていた。
夏は賑やかな海も冬には日本海からの風が吹きつけ、鉛色になる。
みなさんは海は遠浅かそうでないかによって、波の打ち付け方が違うということをご存知だろうか。
私の知っている海は、遠浅ではない。だからすぐに深くなって、岸から3メートルも沖に進めば完全に足がつかなくなる。よく親に「岸と平行に泳げ」と言われたものだ。
そういう海は、波が、一回だけ岸に打ち付けるのである。
私はずっと海とはそういうものだと思っていた。
しかし!
大学で故郷を離れ、そこでみた海は、沖の方から何度も何度も波が押し寄せているではないか!これにはビックリした。私の人生ビックリランキングの5本の指には入るビックリである。
なぜ沖から何度も波が起きるのか?
答えは「遠浅」の海だからである。
波は水深が浅くなると起きるのだ。だから遠浅の海では何度も波が起こり、そうでないふるさとの海では波打ち際で一度しか波が起きなかった。
そしてこれが「海鳴り」と深く関係してくるのである。
私の聴いた海鳴りは、冬の北風の強い夜に聞こえた。
「どどどどどーーーーっ」
「シーン」
しばらくしてまた
「どどどどどーーーーっ」
「シーン」
これが繰り返されるのである。
波が湾全体で「どどどどどーーーーっ」と一回打ち寄せ、スーッと引いて、また湾全体で「どどどどどーーーーっ」と打ち寄せるのである。
遠浅の海ではこうはいかない。いくつもの波がアトランダムに打ち寄せるから、ずっとどどどどー、という音がするはずだ。
私はふるさとの海の「シーン」の数秒間が好きであった。
だから、雪の降る夜、車の騒音がなくなって、「シーン」とした夜には、ふるさとの海鳴りを思い出してしまうのである。