【読書記録】熱帯/森見登美彦
2022/4/5-4/9
一度目に読んだ時は迷子になってしまったので必死にメモを残しながら再読した記録。記録というかほぼまとめです。内容が全部詰まってる。
本作は第6回高校生直木賞を受賞、本屋大賞・直木賞にノミネートされた。
【ストーリー】
この言葉で始まる小説『熱帯』。
実はこの本は誰も読み終わったことがないという幻の小説だった。
熱帯の謎を解き明かそうとする「学団」に白石さんが加入したところで物語は大きく動き始める。
【構成】
第一章 沈黙読書会
一人称: 奈良の小説家 森見登美彦
主な舞台:東京で開催された沈黙読書会
まとめ:謎の小説『熱帯』を気にする森見が『熱帯』を持つ女性白石さんに出会う。
森見は以前に途中まで読んでいつの間にか手元からなくなってしまった小説『熱帯』を思い出す。
作者自身の名が物語に登場するため、佐山尚一という著者名は強烈に記憶していた。
しかし、佐山は他に著書を残した様子もなく、『熱帯』は謎に包まれていた。
1週間後の八月頭仕事で東京に出た森見。謎の本を持ち寄りその謎について語り合う「沈黙読書会」に参加する。
その会場で『熱帯』を携えた女性白石さんに出会う。
第二章 学団の男
章の冒頭、このフレーズで一区切りとなり以下白石さんの物語にバトンタッチ。
一人称: 白石さん
主な舞台:東京
まとめ:白石さんが『熱帯』の謎を解き明かそうとする団体「学団」に加入する。
学団員の千夜が謎を残して京都に姿を消し、それを追って池内が京都へ、さらに池内を追って白石さんが京都へ向かう。
白石さんの仕事先である鉄道模型店を定期的に訪れる客、池内はいつも大きなノートを持ち歩いている。
池内がノートを書き始めたのは、途中まで読んでなくしてしまった『熱帯』の備忘録をつけるためだったと語った。
それを聞き、白石さんは自分も『熱帯』を途中まで読んだことがあると思い出す。
『熱帯』を最後まで読んだ人はいないという。
白石さんは池内の紹介でそれぞれ『熱帯』の覚えているところを共有し、物語の復元を目指している組織に加入する。
この組織は『熱帯』に登場する団体にかこつけて「学団」と名付けられた。
ある日学団メンバーの千夜さん宅に個人的なサルベージ作業に招かれた白石さん。
ここで「満月の魔女」という単語を思い出す。
これを聞いた千夜は学団を去る。
京都から池内宛てで「私の『熱帯』だけが本物です。」という短い一言を記した絵手紙が届く。
池内は千代を追って京都へ旅立つ。
帰ると言った期日に戻らなかった池内から白石さんに、池内がいつも持ち歩いていたノートが届く。
失踪した池内を追って東京から京都へ向かう新幹線に乗った白石さん。
章の終わり、このフレーズで一区切りとなり次章ノートに綴られた池内氏の物語にバトンタッチ。
第三章 満月の魔女
一人称: 池内
主な舞台:京都
まとめ:京都で千代の足跡を追う池内。千夜は絵画『満月の魔女』作者が所有する図書館で姿を消したことがわかった。千夜と同じように図書館で1人になった池内は自らのノートに『熱帯』の冒頭を書き始める。
余談
物語のマトリョーシカで迷子になる。
第一章、第二章はスルスル読める。問題は第三章から。
なぜなら、回想が多く出てくるから。
そもそもここまでで森見→白石→池内と物語が三層になっている。
第三章では池内が京都で出会った人物が数日前の千夜、あるいは自身の過去を回想する場面があり、層を重ねていく。
さらに回想の中の登場人物が回想し、物語の入れ子構造が加速するのだ。
第二章で示した「読書ノート」について。
あらなんてステキ、と思うだけでなく、あれはこの小説もノートに記録しながら読みなさい、と示唆していたように思われる。
さもなくば迷子になってしまう。
閑話休題。
第三章、ノートに綴られた池内の行動履歴。
(金曜日)京都着、ホテル宿泊。
(土曜日)屋台式古書店暴夜書房、小道具店芳蓮堂、酒場夜の翼
(日曜日/節分)京都市美術館、喫茶進々堂、吉田神社、芳蓮堂、市原駅、図書館
と、現地で会った人の力を借りて千夜の訪れた場所を辿る。
☆★☆コアな京都を巡る2泊3日☆★☆といった具合に忙しい。
なんだかRPGみたいですね。以下要所のみ記録。
池内が出会う人物
①芳蓮堂の女主人
女主人の父親と千夜の父永瀬栄造(魔王)に交流があった。
子供の頃、千夜の父と当時学生だった佐山が一度だけ共に芳蓮堂を訪れたことがあると教えてくれる。
佐山は栄造の元、千一夜物語の翻訳バイトをしていた。
②マキさん
絵画『満月の魔女』作者牧信夫の孫。
池内が京都を訪れる前に牧のアトリエ裏にある千一夜物語関連の本を集めた“図書館”に千夜を案内した。
マキさんが図書館を一度離れて戻ると千夜は消えていたと教えてくれる。
③今西(図書館長)
今西と千夜は大学時代の友人で、大学院生だった佐山とも交流があった。佐山は36年前、吉田山の節分祭りで姿を消したと教えてくれる。
回想❶今西による。36年前の節分の一週間ほど前、千夜宅(栄造宅)。
栄造の書斎には部屋の中の部屋があり、そこにはカードボックスが置かれていた。
「あのカードボックスには魔女が住んでいる」
回想❷栄造による。回想当時36年前より40年以上前、満州。
草地から僅かに浮かんで静止している月=満月の魔女との出会い。
第三章の終わり
マキさんに案内され千夜が姿を消した図書館で1人になる池内。
どこからか聞こえてきた千夜の声に導かれ、自身のノートの白紙の頁に熱帯の冒頭のフレーズを記述し始める。
第四章 不可視の群島
熱帯の冒頭句から始まる本章。
森見はもとより、白石さん、池内の姿がなくなる。
一方36年前京都にいた千夜、佐山尚一、魔王、図書館長の名は引き続き登場する。
いよいよ舞台は小説『熱帯』の中へ進んだと考えられる。
一人称:僕=ネモ。
主な舞台:熱帯(観測所の島、不可視海域など)
まとめ:僕は砂浜で目覚めた時記憶を失くしており、そこで出会った学団の男佐山尚一にネモと命名された。ネモは佐山の学団の仕事を手伝うため、共に不可視海域に旅立つが佐山は撃たれ、一人ぼっちになってしまう。
池内たちが知る『熱帯』
第一章〜第三章の項目ではスキップしてきた『熱帯』の内容をここで一度まとめておく。著者は謎の男佐山尚一。
物語の中盤までは皆の記憶が一致しており、克明に再現されている。
しかし、物語が進むにつれて記憶は曖昧で一致しなくなり、それぞれの覚えている内容を結びつけることができなくなる。
それぞれの供述が点在して前後もわからなくなってしまうのだ。
この領域を学団員(池内ら)は無風帯と呼んでおり、白石さん加入によりここを突破することを期待していた。
第四章 不可視の群島
『熱帯』のなかを描いた本章。主な登場人物と設定をまとめる。
ネモ:主人公。記憶をなくしたところを救ってくれた佐山を手伝う。
佐山尚一:学団員。不可視の群島を観測所の島から観測して記録していた。
魔王:不可視の群島を支配。
今西:図書館長。学団とは対立する立場。
千夜:魔王の娘。
囚人:学団員。佐山の前任者。
ネモが目覚めたのは佐山が暮らしていた「観測所の島」。
その後「砲台の島」へ。佐山は撃たれる。
ネモは魔王と対面し、嘘を述べる。
嘘=“汝に関わりなきこと“ を語った報いとしてネモは何もない島に置き去りにされる。
その島を「ノーチラス島」と命名。
嵐に島ごと攫われそうになったとき、ここは島ではなく船であったと気づく。
船は動き始め、間一髪嵐の危機を脱する。
第五章 『熱帯』の誕生
一人称:僕=ネモ=佐山尚一
主な舞台:熱帯(不可視海域、五山の海域など)
まとめ:紆余曲折あって〈創造の魔術〉を手に入れたネモ。〈創造の魔術〉とは思い出すこと、物語ることだった。熱帯の手記を書き終えた僕は歩き始め、やがてその道は見慣れた京都の街に繋がる。僕は熱帯から元の世界へ帰ってくる。
森見節炸裂
とんとん拍子で話が展開し大変心が躍る。
読むのが加速度的に楽しくなる一方、きちんと話についていくのがタイヘン困難な章です。
なぜなら、回想が多く出てくるから。
回想の中の回想として多層化するだけでなく、一つ一つの話題が短く完結して物語の往来が頻度を増す。
「僕の回想」、「魔王の回想」と『熱帯』の時間軸で起きたことを分けて辿ってみると『熱帯』を理解できる気がする。
ので、そうやって要点を整理します。
僕の回想
失われていた僕の思い出が夢、記憶として少しずつ蘇る。
僕は京都で千夜や今西と友人で、節分祭の夜に千夜の父(栄造、魔王)が所有していたカードボックスを盗んだのだった。
僕=佐山尚一が京都、吉田神社の節分祭から熱帯の世界へ迷いこんだ経緯が明らかになる。
魔王の回想
『熱帯』の時間軸での魔王と僕の再会時、魔王が回想を語り始める。
魔王がかつてある『物語』を持ち帰るように依頼された話、その『物語』の伝承経緯が回想の多層構造により語られる。
〈創造の魔術〉と千一夜物語の関係、『熱帯』の最も重要な秘密が明かされる。
『熱帯』の時間軸で
ネモがノーチラス島で船出してから色々な人と再会、冒険を進めるのが池内、白石さんが追っていた小説『熱帯』の軸だ。
あらすじ的に重要なのは五山海域でネモが創造した夜祭の屋台における魔王との再会以降。
〈創造の魔術〉を修得し、
の言葉に従って僕は『熱帯』を記す。
物語を書き終え、僕は煌めく海に向かって歩き出す。
目前に無数の島が浮かび上がり街となる。
そこは、僕がかつていた街だった。
後記
一人称:国立民俗学博物館(※大阪府吹田市)に勤める関西の研究者 佐山尚一
主な舞台:東京で開催された沈黙読書会
まとめ:佐山による『熱帯』の誕生振り返り。/かつて『熱帯』を記した佐山が、森見登美彦の『熱帯』を持つ女性白石さんに出会う。
第六章ではなく「後記」とされているように、30ページに満たない最後の章である。
答え合わせ
佐山の現職、沈黙読書会へ向かう経緯という現代軸の話の中に、佐山による過去の回想が挟まれる。
これにて『熱帯』の誕生に際した答え合わせが終わる。
節分祭の夜、佐山はみんなとはぐれて熱帯に迷いこんだ。
そして翌朝、そのまま下宿に戻った。
しかし、戻った世界で千夜や今西と話すと、その世界には、佐山が熱帯へ迷いこむ元凶となったカードボックスなど存在しなかった。
節分祭の夜に神隠しを経験した佐山は物語を書くことで元の世界に戻ってきたが、実はそれは元の世界とそっくりでどこかが違う世界だったということ。
沈黙読書会
関西から仕事で東京に出てきた主人公、沈黙読書会。
第一章のデジャヴ。
第一章の森見と違うのは、佐山にとって『熱帯』の謎は自らの不思議な経験である点だ。
沈黙読書会参加していた白石さんが携えており、ふたたび『熱帯』と巡り会った佐山。
白石さんが『熱帯』を語り始めたところで物語は幕を閉じる。
【感想】
高
校生、賢い…!!!
この本が、高校生が評価する賞に選ばれたという事実に慄然とする。
高校生をやめて久しいワタクシ、時間をかけて再読してやっと理解できました。雰囲気だけじゃなくてちゃんとオモシロストーリーだった。
やっぱりもりみー大好きです。
神隠し
森見さんのエッセイで日常の延長で何処か異世界に通じるような感覚を綴ったものがある。(太陽と乙女)
後記で明らかにされたように、森見さん自身のずっと抱えてきたその感覚が存分に発揮されたのが本作だったように思う。
森見さんの作品の多くは、自身が学生時代を過ごされた京都を舞台にしている。
2016年の『夜行』で舞台が日本全国に広がったな、と感じたら本作、『熱帯』である。
もちろん京都に鍵があるのだけれども、熱帯、満州、さらにこの記事では挙げてこなかったが別の地名も登場する。
時代を超え、世界にまたがって舞台が広がっていくのだ。
日常の根付く京都を飛び出し、神隠しで別世界へ。
このファンタジーがたまらない。
マトリョーシカ
第三章と第五章で「回想」のせいで迷子になると余談を挟んだ。
複雑怪奇な物語の入れ子構造こそが森見登美彦の真骨頂と言わんばかりに畳み掛けてくるのだ。
この物語の乱立した世界で翻弄されることこそ、面白い。
入れ子構造のマトリョーシカなのか、単にそっくり同じ大きさのレプリカなのかはわからないが、「パーツは違うけれども構造が似た話が並べられるつくり」は、『四畳半神話大系』、『四畳半神話見聞録』などで見られる森見さんの得意技だ。
過去の作品を遥かに凌駕するスケールでこれを楽しめて大変有意義な読書体験をしたなぁと思う。
雑感とあとがき
『夜行』や『宵山万華鏡』ほど怖く感じなかったのは南国とホラーが結びつかないからなんですかね?
1Q84も日常から別世界へ、頑張って元の世界へ戻ったと思ったらそこは元の世界とそっくりなまた別の世界でした。というオチだったという朧げな記憶が出てきた。
長すぎて再読する気になれないけれども。
*
久しぶりにnoteを書いた。
編集ページが変わっていたのでなんだか調子に乗って大見出し、小見出しと使い分けてみた。
私の頭の中を整理するには役に立ったが、読む方としてはどうなんですかね。
気力があれば『羊をめぐる冒険』と『同志少女よ、敵を撃て』の感想が近日中に上がります。
お読みいただきありがとうございました。
それではまた。
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