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炎の魔神みぎてくんのほん

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卓上遊技再演演義シリーズでも活躍するみぎてくん、陽気で元気、食いしん坊でドジな炎の魔神族、みぎて大魔神ことフレイムべラリオスが人間界に留学!相棒コージや講座の仲間と繰り広げるほの…
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2022年4月の記事一覧

炎の魔神みぎてくん 熱帯低気圧⑧「お前が俺を呼びつけたんだろ?」

8.「お前が俺を呼びつけたんだろ?」 「追いつけるか?」 「ぎりぎり…きついですね」  シラサギは落下してゆく風船ハウスを追って、弾丸のように突き進んだ。静まった大気を切る翼の音だけが彼らに聞こえる音である。が、容易に距離は縮まらない。風が無いのだから風船ハウスと彼らの速度差は相当あるはずなのだが、それでも彼らにとっては遅い。遅すぎるのである。今の一秒一秒があたかも永遠の時間であるかのような錯覚に陥りそうになる。 「落ちるのが速い!」 「だめだっ!間に合わない!」  

炎の魔神みぎてくん 熱帯低気圧⑦「あんた一人なら空飛べそう?」

7.「あんた一人なら空飛べそう?」  風船ハウスの中で、こんな勝手な会話がなされているなどはつゆすらず、シラサギは全力で飛行を続けていた。暴風に乗っての全力飛行である。たちまちのうちにバビロンの街を飛び出して、既に彼らは南の港町の上空に差し掛かっていた。  ところが予想に反して彼らの「天の鳥船」はなかなかポリーニたちの姿を捉えることはできなかった。意外な話なのだが、距離がなかなか縮まらないのである。たしかにさっきも言ったとおり「エンジンの無い風船と、自力飛行が出来るシラサギ

炎の魔神みぎてくん 熱帯低気圧⑥「秘密よ秘密。はい、お小遣い。」

6.「秘密よ秘密。はい、お小遣い。」  風船ハウスはゆらゆらと空中に舞い上がると、嵐の翼に見事に乗って南西の方角へとふわふわと飛んでゆく。といっても雨雲が低く垂れ込めているこの状況だし、なにしろまだ日が出る前である。その白い姿はもうまもなく見えなくなってしまうことは確実である。 「コージ、やべぇよ!どうする!」 「追いかけるぜっ!お前等!」 「ってこの嵐の中どうやって追いかけるんですか蒼雷君!あっ!無茶ですって!」 「ぐはっ!」  突然起きたあまりに予想外の事態に、蒼雷

炎の魔神みぎてくん 熱帯低気圧⑤「おいらにまかしときなっ!」

5.「おいらにまかしときなっ!」  ポリーニが手元に有るスイッチを入れると、妙な動作音が周囲に響いた。この強風のさなかではっきりと聞こえる音なのであるから、実際かなりの騒音に違いない。しかし箱舟のほうはなんら変化する様子は無い。もっとも研究室で(ヴィスチャのいたずらで)明らかになったとおり、精霊力を吹き込まないと本格始動するわけではないようである。ポリーニは傍らで呆然としている蒼雷に言った。 「蒼雷君、箱舟に精霊力を流し込んで。」 「あ、ああ。わかったぜ」  といいなが

炎の魔神みぎてくん 熱帯低気圧④「箱舟、始動するわ!」

4.「箱舟、始動するわ!」 「本当にこまりましたね、ポリーニにも…」 「冗談ごとじゃすまないよなあ」  学校をほうほうの体で脱出したコージたちだったが、当然のことながら表情は暗い。明日は台風のおかげで休校決定だというのに、これでは最悪である。いや、そういう問題ではない…せっかく蒼雷たちがバビロンの街に来たというのに、こんなひどい実験につき合わすというのは、いくらコージたちでも罪の意識がある。  一同は大学を出てすぐに、近所のファミリーレストランに駆け込んだ。ささやかなが

炎の魔神みぎてくん 熱帯低気圧③「やっぱり見る目有るわねこの子」

3.「やっぱり見る目有るわねこの子」 「これ?なんだよこれ…」 「ビニールシートみたいですね。ほら、工事とかに使うブルーシート」 「あ、似てるよな。色は違うけどさ」  ポリーニが彼らに見せたのは白いビニールで出来たような折りたたまれた布だった。色さえ青ければ工事現場とかで使うブルーシートそのものである。つまりそれくらい分厚い布地で、ナイフや炎でも使わないかぎり簡単にはとても破けたりしそうにはない。そういうところもブルーシートそのままである。  するとポリーニは自信たっぷり

炎の魔神みぎてくん 熱帯低気圧②「しまった、墓穴だ…」

2.「しまった、墓穴だ…」  蒼雷と連れの子供の魔神は、傘ではなく雨合羽姿だった。いや、蒼雷のほうは雨合羽というより蓑と笠姿である。これは非常に興味深い。コージにせよディレルにせよ、こんな珍しいスタイルは昔話の中でしか聞いたことが無い。  もっとも笠を脱いだ蒼雷は、都会へ旅行に出てきたというのにもかかわらず、これはいつもどおりの魔神ファッションだった。背中を通り越して足にまで届きそうな長くブルーの髪の毛はトレードマークだから良いとしても、それに服というよりカラフルな長い帯を

炎の魔神みぎてくん 熱帯低気圧①「明日の朝には暴風圏ですね」

1.「明日の朝には暴風圏ですね」  コージたちの住むバビロン市の中央部に流れるユーグリファ河は、この地方では最大の大河である。北西のアナトリア山脈から流れるこの大河は、バビロンに到達するころにはかなりの広さと深さになり、外洋船が入港することができるほどだった。とにかく南に二十キロも下ればもう南大洋である。かといってあくまで河であるから、外洋の荒波や悪天候の影響も受けない。…つまりここバビロン市はこの地方では最高の良港なのである。  そういうことで、ユーグリファ河のほとりにあ

炎の魔神みぎてくん草野球⑥

6.「ふう、やっぱりきついよ」  こうしてなんとか無事に強打者アラリックをしのぐと、コージはもう絶好調だった。投球というものはリズムが大事だというが、今日のコージはそういう点で調子がいいのである。いや、いつもスローペースであるコージから考えると、うそみたいにリズミカルな投球だった。続くおっさん打者などものの数にも入らない。少々ランナーを出しても、それなりになんとか抑えてしまえるのである。自分でもここまで調子がいいというのは初めてだった。もしかするとこれがポリーニ特製のユニフ

炎の魔神みぎてくん草野球⑤

5.「じゃああたし、参加しますっ!」  ところが…二回の表になって、いきなり状況は変わってしまった。そう、カーンという爽快な快音がグラウンドを響き渡ったのである。 「あ…打たれた」 『大きいっ!大きいっ!入った~』  自動実況中継マシンが興奮した声を上げる。二回表、経済学部チームはいきなりのホームランである。4番アラリックが見事な先制ソロを放ったのである。超軟投のロスマルク投法は、素人相手には非常に有効だが、さすがセミプロ級の野球部相手にはつらいものがあったのだろう。筋

炎の魔神みぎてくん草野球④

4.「そう簡単に打たせないぜ」  日曜日の朝は、夏らしく良く晴れてすばらしい野球日和だった。いや、野球日和というのは正しくないかもしれない。これはまさしく海水浴日和なのである。クラゲがうようよいる(もうそんな時期である)海で遊ぶには最高だが、野球をするにはいささか暑すぎる。熱中症が恐くなるほどのまぶしい日差しだった。  大学のグラウンドには、それぞれのチームのメンバーが集まり始めている。集合時間九時四十五分、試合開始は十時なので、まだ小一時間はあるのだが、気の早い連中はウォ

炎の魔神みぎてくん草野球③

3.「…参った。こいつ、ポリーニの」  それからの日というもの、セルティ研究室即席野球チームは、毎日夕方に練習会を開催した。昼間にしないのは暑いからである。コージやみぎてはともかく、ロートルのロスマルク先生やあおびょうたんのシュリなどは、酷暑の中練習をしようものなら倒れてしまう恐れがある。もちろん練習といってもキャッチボールとか守備練習くらいのものなのだが、それでもきついことはきつい。夕方涼しくなってからというのは、まあ建設的な案である。  しかし練習すれば少しはましにな

炎の魔神みぎてくん草野球②

2.「はじめからそれが狙いだったんですね、コージ…」  というわけで、結局コージたちはバビロン大学講座対抗草野球大会『学長杯』に参加することになってしまったのである。話がきまったということで、セルティ先生はすぐに申し込みをしてしまうし(そもそも思いついたのがぎりぎりなのである)、ポリーニのほうはポリーニで野球のユニフォームの型紙探しを始めている。こうなってしまうとそう簡単に(特に男性陣の意見では絶対に)止まらないのが、この講座の特徴である。  というわけで仕方なく男性陣は

炎の魔神みぎてくん草野球①

1.「あ、ユニフォームは任せてねっ!」  バビロン大学魔法工学部も、七月の終わりになるとずいぶん暇になる。前期試験が終わって学部生が夏休みに入るからである。九月の終わりごろまではほとんど開店休業状態なのである。  もっとも大学院生となると、さすがにそこまで暇ではない。夏前の学会発表は終わったものの、いろいろな雑務やら次の実験準備やらがあるからである。そういうことでまったく学校へ来なくても良いというわけではない。いや、なんだかんだいってもほとんど毎日学校へ顔を出すことになるの