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『ウマ娘 プリティーダービー』を通して気付く、実況の偉大さ

*本文はアニメ『ウマ娘 プリティーダービー』のネタバレを含みます。


ウマ娘の二期、最高でした。

初っ端からナイスネイチャの「言わせない言わせない言わせない言わせない!テイオーが出ていればなんて絶対言わせない!」でうるっとさせ、10話でもはや号泣を強要し、最終話でまたうるっとさせるという神アニメっぷりを披露してくれました。何度拳を握りしめて「行け!」と小さく叫んだことか。

さて、今まで競馬とは縁のない人生を送ってきた僕ですが、どうやらウマ娘は史実に忠実らしいとのこと。より一層余韻に浸りたい気分もあり、そうなると自然と興味が湧いた。そして気付けばトウカイテイオーのWikiを始め、YouTubeでは93年オールカマーでのターボの大逃げや、果てにライスシャワーの「The Winner」CMなどまで観漁っていた。

YouTubeでウマ娘関連を探すと、真っ先に気付くのが「実況の再現度の高さ」。元から競馬を知っている方なら第四話で「前の二人はどうでもいい!」とかを聞けばすぐ「あ、杉本清さんだ」なんて思うのかもしれないが僕は知らなかった。10話で号泣したターボの大逃げシーンでの実況なども、なんて熱い「セリフ」なんだろう、と思いながら聞いていた。

ところがどうだろう、現実の競馬動画を視聴するとそこにはいつも「オリジナル」があった。ウマ娘実況の大まかな台本はここから来ていたのか。

フジテレビの塩原恒夫アナウンサーは台本もなしに

「そして早くもツインターボだけが!ツインターボだけが、四コーナーのカーブに入ってきました!」「 逃亡者!ツインターボ!」(塩原恒夫 93’)

という数々の言葉を羅列していったのだ。強すぎる。良いキャッチコピーなどを見聞きした時に似たこの滾る感覚はやはり、いい。アニメで一回、比較動画で二回、そして元動画で三回といった風に泣ける。更に言うならば、前述で紹介した記事でツインターボのシーンを読みながらまたうるっときた。もう涙腺がターボ状態である。(そしてそんな元々トウカイテイオーには関係のないはずだった名実況を完璧以上にストーリーに繋げてくるアニメ制作陣もまた強すぎる)

他にもある。一番驚いたのが、98年天皇賞(秋)サイレンススズカの故障事件での実況。そう、「沈黙の日曜日」である。

「サイレンススズカに故障発生です!何という事だ!四コーナーを迎えることが出来ず、レースを終えた武豊。沈黙の日曜日!」(塩原恒夫 98’)

初めて耳にし、「なんの引用だろう?」と思い調べると、引用も何も塩原恒夫アナウンサーオリジナルの名実況だという事が判明し感動した。こんなにも詩的に場の空気を形容したかっこいい言葉を瞬時に思いつけるものなのか。「沈黙の日曜日」、本当に何か有名小説のタイトルか何かだと思ったのだ。面白そうな作品だな、とさえ思った。しかし、そんな作品は存在しなかった。

こんな風に、名実況というのは時代を超えて観客を沸かせる。

ウマ娘を通して、競馬を通して、実況者がこんなにも巧みに場の空気を汲み取り、言葉で感情を揺さぶる職業なのだということを知った。いやはや夢がある。

杉本清や塩原恒夫などの大スター等を安直に「実況者」と一括りにしてしまうのは到底失礼極まりない事なのかもしれないが、今だけ見逃してほしい。


追記:

沈黙の日曜日というのは、「サンデーサイレンスという種牡馬の名前」

から来ているそうです。無知を露呈してしまいました!申し訳ない。この記事には超感謝ですね。

にしても、その背景を知ると一層虚しい気持ちになるというか、「沈黙の日曜日」というフレーズに重みを感じるというか。瞬時にサンデーサイレンスと場の空気という点と点を繋げるそのセンス、うーん痺れる。

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