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「子供を持たない人生」を選んだ先輩女性の心に残る一言

1か月前。
東京・神田の小さな居酒屋。

そろそろお開きの時間になり
Y先輩の挨拶がはじまった。

「私には子供がいません。
家族を持つことができませんでした」

Y先輩の声が、
貸し切りの店内に響く。

「でも、それが唯一の後悔かって
聞かれたら...違うんです」

全員の視線が、Y先輩に集まる。

1986年 - 男女雇用機会均等法施行の年のこと

「1986年、私が入社した年。
ミスをした私に上司がこう言ったんです。

『女は子供を産んで一人前。
総合職なんてしょせんお遊びだ』って」

Y先輩の目に、怒りが蘇る。

「あの時、私はなにも言い返せなかった。
それが、本当の後悔です」

送別会での懐かしい再会

3時間前。

駆けつけた居酒屋の入り口で
ぼくは足を止めた。

『Y先輩...』

30数年前、大学を卒業して
ある会社に入社した時、
Y先輩は唯一の理解者だった。

(ガラガラ)

扉を開けると、懐かしい顔が振り返る。

「おお、しば君!」

「来てくれたんだ!」

懐かしい声に包まれながら、
ぼくはY先輩に近づいた。

「Y先輩、お疲れ様です」

「あら、しば君。わざわざありがとう」

Y先輩の笑顔は、
30数年前と変わらない。

でも、その目の奥に、
何か強い光を感じた。

Y先輩の誇り- 道を切り開いた38年

Y先輩の挨拶は続いていた。

「1986年、男女雇用機会均等法が施行されて、
私たち女性総合職の一期生が入社しました」

Y先輩の声に、誇りがにじむ。

「当時は、結婚しろ、子供を産め、
それが当たり前でした。
でも、私たちは違う道を選んだ」

「仕事に打ち込んで、自分の人生を歩んできた。
そして今、胸を張って言えます」

Y先輩の目が、部屋中を見渡す。

「どこまでできたかわからないけど…
私たちは、道を切り開いてきたんです」

「子供がいなくても、結婚してなくても、
女性は自分の人生を選べる。
そう、みんなに伝えたくて…」

Y先輩の言葉に、
女性社員たちがうなずく。

「だから、これからの人たちへ。
自分の道を、胸を張って歩んでいってください」

ぼくは、思わず拍手した。

勇気をくれたのY先輩への感謝

「しば君、Y先輩には世話になっただろ?
久しぶりだし、なんかしゃべりなさい」

当時の上司に促されて
ぼくは前に出た。

「ぼくが新入社員だった頃、
Y先輩だけが
ぼくの夢を応援してくれました。

ぼくは転職する勇気をもらい
自分の好きな道を
歩むことができました」

Y先輩の目が、
少し潤んだように見えた。

「あの時の言葉、今でも覚えてます」

ぼくは、ゆっくりと続けた。

「『自分の人生は、自分で決めるもの。
誰かの期待に応える必要なんてない』って」

「今日は、その言葉への
感謝を伝えたいんです」

ぼくは深呼吸をして、
言葉を選んだ。

「Y先輩は、この業界で女性が
活躍する道を切り開きました。

総合職一期生として、数々の偏見と戦い、
実績を積み重ねてこられた」

会場の空気が、静かになった。

「そして、ぼくのような後輩にも、
自分の道を歩む勇気をくれました。
Y先輩の姿は、まさに『リーダー』そのものでした」

ぼくはグラスを上げる。

「Y先輩、本当にお疲れ様でした。
そして、ありがとうございました」

「かんぱーい!」

グラスが触れ合う音が、
部屋中に響く。

なんともいえない表情をした
Y先輩の瞳が
涙で光った気がした。

エピローグ - これからの世代へ

30数年前と比べると…

Y先輩たちが蒔いた種は、
少しずつ育ってきているかもしれない。

結婚する、しない。
子どもを持つ、持たない。

誰にも気兼ねせず、
もっと自由にいろんな生き方ができる
世の中が早く訪れますように。

Y先輩、お疲れ様でした。

あの時は本当に
ありがとうございました。

人生、まだまだこれからですね。

また飲みに行きましょう。

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