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短歌をうたうアイヌの詩人 違星北斗『コタン 違星北斗遺稿集』

違星北斗『コタン 違星北斗遺稿集』。
『マレウレウ』のマユンキキさんにお会いし、バチラー八重子詩集『若きウタリに』のことを話した際、ぜひこれもと教えてもらった本。

違星(いぼし)北斗は、明治35年(1902年)から昭和4年(1929年)までを生きたアイヌの詩人。27歳の若さでこの世を去った彼の、情熱と怒り、淋しさと貧しさが、詩にそのまま閉じ込められていた。
(※短歌の書かれた時代や順番は任意、著作権フリーの作品を掲載)
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滅び行くアイヌの為に起つアイヌ
違星北斗の瞳輝く
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我はたゞアイヌであると自覚して
正しき道を踏めばよいのだ
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「強いもの!」それはアイヌの名であった
昔に恥じよ 覚めよ ウタリー
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俺の前でアイヌの悪口言いかねて
どぎまぎしてる態の可笑しさ
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シャモという優越感でアイヌをば
感傷的に歌よむやから
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酒故か無知故かは知らねども
見せ物のアイヌ連れて行かるる
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見せ物に出る様なアイヌ彼等こそ
亡びるものの名によりて死ね
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あゝアイヌはやっぱり恥しい民族だ
酒にうつつをぬかす其の態
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はしたないアイヌだけれど日の本に
生れ合せた幸福を知る
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ネクタイを結ぶと覗くその顔を
鏡はやはりアイヌと云えり
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獰猛な面魂をよそにして
弱い淋しいアイヌの心
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悲しむべし今のアイヌはアイヌをば
卑下しながらにシャモ化してゆく
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東京の話で今日も暮れにけり
春浅くして鰊待つ間を
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上京しようと一生懸命コクワ取る
売ったお金がどうも溜らぬ
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俺でなけや金にもならず名誉にも
ならぬ仕事を誰がやろうか
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楽んで家に帰れば淋しさが
漲って居る貧乏な為だ
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貧乏を芝居の様に思ったり
病気を歌に詠んで忘れる
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人間の仲間をやめてあの様に
ゴメと一緒に飛んで行きたや
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赦したい、ああ赦したいと思えども、
え赦し得ぬ悲しいこころ
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アイヌなる故に誇を持つわれが
淋しく思う憐な心だ
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驚く。
一人の人間に、これほどまでアンビバレントな感情を持たせるのか。シャモ(和人)を憎み、しかし同時に憧れる。アイヌを誇り、同時に失望もする。貧乏を悔やみ、しかし魂の清浄を謳う。
それが、それこそが人間なのだと言わんばかりに、詩に、日記に、手紙に、交互もしくは同時に吐き出される。

若さ故のロマンチシズムも、民族主義も、プロレタリアートも、国家主義、表現形式でさえも、混沌のまま、一人の青年の心に、頭に、身体に注ぎ込まれているような。

北斗が死んだ2年後、彼から影響を受けたウタリたちが、北海道アイヌの統一組織である「北海道アイヌ協会」を設立する。彼は、かけがえのない実存者だと同時に、その時代を体現してもいる。

そう、彼が生まれる1年前の明治34年に、僕の祖先は北海道へやってきた。アイヌである北斗と、シャモである曽祖父母たちは、同じ時代に生きていた。そして、マユンさんと僕は同い年だ。

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