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幽霊、面影、思い出すことについて

スーパー銭湯なんかに行くと、たまに幽霊をみたりする。
湯船に浸かっていると、みたことがある奴がいる。あれ、あいつがいるわ。でも、あいつはずっと前に死んでるんだが、とかぼんやり思う。

と言っても、オカルトでも何でもなく、タネも仕掛けもあるのだけど。僕は目が悪い。いつもメガネをしてるのだけど、風呂場では当然はずすので、人の顔はほとんど見えなくなる。

だから、ぼやけた視界の中に、見覚えのあるシルエットがみえると、お、と思う。
あの、あまり似合ってないピンパーマに、運動神経良い割に少しぽっちゃりしてるお腹、猫背の後ろ姿。げっそりした頬に髭なんてはやして、それが、昔亡くなった親友の面影に重なってくる。

もちろんだけど、視界の中にいるのは赤の他人だ。でも、そのシルエットをみながら、いつの間にか、そいつのことを考えて始めている。歩き方は違うなーとか、当時より足細くない?とか。
それから、一緒に遊んでた時のこととか、部活の時のこととか、お通夜の時のこととか、つらつらと思い出す。

前は、うちの父親がいた。真っ白な皮膚の色、シロイルカが湯上がったみたいな、不思議な肌。その、白く太い腕やお腹が、風呂場で横になってぐーぐーと寝ていた。それは、最期の姿じゃなくて、子供の頃に連れて行ってもらった温泉でみた姿だ。

近寄って顔を確認したいとかは思わない。どうせ違うのだから。でも、遠くからぼんやりした面影をみていると、ちょっとだけ、本人がいるような、そんな気が一瞬でもしてくる。だから、少しの間、そのままにしておく。
あっちはこちらに気付いてないみたいだけど、そこでゆったりしてるなら、良いか。とか。

思い出すことと、幽霊(たまに生き霊も)を見ることは、案外近いところにあるんだろう、と思う。少なくとも自分にとっては。
こんな変なこと、まあ、いいか。

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