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『イラスト図解 世界史を変えた金属』より 第5回~人類が最初に精錬した金属は銅?―銅器と青銅器~

金属の成り立ちや特徴、人類史における関りまで解説した好評既刊『イラスト図解 世界史を変えた金属』から一部を公開いたします。
第5回は第1章・第3節「人類が最初に精錬した金属は銅?―銅器と青銅器」を紹介します。

1-3 人類が最初に精錬した金属は銅?―銅器と青銅器

銅器と青銅器

人類が最初に自ら精錬した金属は、どうだったと思われます。銅鉱石は、色が鮮やかな緑色や青色なので、見つけやすい鉱石です。燃やした木炭に鉱石を入れるだけで、鉱石から酸素や硫黄をうばい取る還元*反応に必要な温度が得られ、容易に銅鉱石から銅を得ることができました。古代の人は、赤銅しゃくどう色の銅が火の中から生まれる光景を見て、感動したことでしょう。
銅を道具として使うときに問題となるのは、柔らかいことです。石で叩いて鋭い刃先を作っても、すぐに切れ味が悪くなります。
しかし、この問題も他の金属と混ぜることで解決しました。銅とすずを一緒に加熱する* と、銅単体よりも200℃も低い875℃程度で液体になります。しかも、冷やして固めると、銅単独よりもはるかに硬くなります。これを青銅せいどうと呼びます。この技術は、瞬く間に世界各地に普及していきました。青銅器、すなわちブロンズの利用の始まりです。
青銅は容易に溶けるので、職人が鋳型いがたさえ作れば、必要な形の道具を作ることができます。これを鋳造ちゅうぞう*と呼びます。道具がすり減ったり欠けたりしても、溶かして込めば元通りになります。そのため、祭や農具、武器などに適したリサイクル素材*になりました。再生利用できない石器の時代から、リサイクル可能な青銅器時代へと、一気に移り変わったことでしょう。

*還元
金属化合物から金属元素を生成する反応。酸化の逆反応であり、金属の製錬や鋼鉄の製造など、さまざまな産業プロセスで重要な役割を果たしている。

*銅と錫すずを一緒に加熱する
錫は銅より原子半径が大きく、結晶サイズが少し大きいため、錫が置換元素となって結晶構造を歪ませる。このため外部からの力で変形しにくい、強い素材になる。

*鋳造
金属を溶かし、それを特定の形状に型(鋳型)に流し込んで固める製造プロセス。熱により溶けた材料が型の中で冷却され、所望の形状の製品が得られる。自動車、建築、航空宇宙など多くの産業で使用され、大量生産や複雑な形状の部品の作成に適している。

*リサイクル素材

青銅は格好のリサイクル素材であった。青銅器が欠けたり割れたりすると、補修することができない。そこで、かけらをまとめて加熱すると溶解し、再び道具に鋳造することができた。

青銅の利用場所

青銅が使われたのは、BC4000年のメソポタミア、エジプト、中国、インダス川流域でした。不思議なことに、これらの地域は、銅鉱石は採取できても、必ずしも錫が採れる場所ではありません。
青銅作りに必要な錫は、意外にも遠方から交易で運ばれてきました。錫は疑いなくなまりよりも早くから知られていました。ローマ時代のプリニウスの『博物誌』*には、英国やポルトガル、スペインに、広大な錫の採取場所があったと書かれています。
錫鉱石は、マグマによって熱せられた高温水が、周囲の岩石から鉱物を溶かし出し、岩石の割れ目に入り込んで鉱脈を作ったものです。そのため、採掘できる場所が限られていました。貴重な錫鉱石が採取できる場所は、交易で潤ったり、他国からの侵略の対象になったりしました。

*プリニウスの『博物誌』
『博物誌』は、古代ローマ時代の大プリニウスが著した書。地理学、天文学、動植物、鉱物など、雑多な知識が記述されている。自分で確かめたり、研究したりした知見は少なく、過去の書籍を参照した伝聞情報が多い。しかし当時の知見を知るには、うってつけの書物である。

書籍目次

第1章 金属はどこで生まれ、人類と出会うのか?―宇宙・地球・生命・文明と金属
 1-1 〈138億年前〉元素誕生から地球誕生―恒星が金属を作り出す
 1-2 〈BC38-19億年〉鉄鉱石と銅鉱石の起源―生命と地球環境が鉱石を作る
 1-3 人類が最初に精錬した金属は銅?―銅器と青銅器
 1-4 金属の歴史に登場する鉄の種類―数万年も前から利用されてきた鉄
 Column 玉鋼

第2章 金属の記憶―金属の神話と錬金術
 2-1 金属と伝承―鉄の神話
 2-2 錬金術―黄金への永遠の願望
 Column ロマンティックな遭遇

第3章 金属の文明―金属変遷と東西の文明
 3-1 〈BC5000-BC1000〉青銅器と鉄器―青銅器文明から鉄器文明へ
 Column ブロンズ病
 3-2 〈BC1000-BC1〉ローマと中国―西端のローマ文明と東端の中国文明が始まる
 Column わが家の銅鐸

第4章 金属の思想―金属は文明と錬金術を生み出す
 4-1 〈AD1-500〉文明の興隆―ローマは興隆し、中国は鉄鋼先進国へ
 4-2 〈500-1000〉錬金術出現―ビザンチン文化と錬金術の萌芽期
 Column 神話と金属

第5章 金属の拡張―距離の拡張と技術の拡張
 5-1 〈1000-1400〉冶金の進化―十字軍の東方文化発見と鉱山冶金術の進化
 5-2 〈1400-1600〉冶金技術―大航海時代と鉱山冶金技術書籍
 Column ダンテ「神曲」の金属

第6章 金属の衝動―産業革命へ準備
 6-1 〈1600-1700〉鉄生産前夜―鉄生産は英国に移動し、ミクロ観察が発明される
 Column 一つ目小僧
 Column 三蔵法師の宿題
 6-2 〈1700-1760〉発見と革命―第一次元素発見ラッシュと高炉法の進化
 6-3 〈1760-1800〉蒸気と電気―蒸気機関と製鉄業が産業革命を生み、電気利用が始まる
 Column シューベルトは騒音に苦情を言ったか?

第7章 金属の胎動―産業革命への歩み
 7-1 〈1800-1820〉元素と刃物―電気利用で第二次元素発見ラッシュ、鉄は刃物と大砲へ
 7-2 〈1820-1840〉模様と金属―ダマスカス模様へのあこがれと新金属アルミニウム登場
 7-3 〈1840-1860〉黄金と彗星―黄金がゴールドラッシュを呼び、彗星のごとく転炉法が誕生する
 7-4 〈1860-1880〉理解と製鋼―周期表が理解を深め、製鋼法の死闘の中で鉄血演説が生まれる

第8章 金属の躍進―巨大建造物と新金属の大躍進
 8-1 〈1880-1890〉実用と製品―エッフェル塔とアルミニウム精錬
 8-2 〈1890-1895〉軍艦と鋼材―戦艦甲板の鋼材競争
 8-3 〈1895-1900〉放射線と新機能―放射線科学と新機能金属素材の開発
 Column 女神さまの内なる悩み

第9章 金属と機能―金属に新たな機能の可能性
 9-1 〈1900-1905〉電磁鋼と酸素―電磁鋼板の発明と酸素分離がもたらす高効率精錬
 Column 錫ペスト
 9-2 〈1905-1910〉表面の技術―表面硬さの知見と表面不動態化
 9-3 〈1910-1915〉機能材料―ジュラルミンとステンレス鋼
 Column エボシのたたら場探訪記

第10章 金属の成長―性質の成長と建造物の成長
 10-1 〈1915-1920〉硬さと戦争―衝撃と硬さの定義と戦争が生んだ巨大砲の衝撃
 10-2 〈1920-1925〉地球の理解―地球科学の登場と窒素の効用
 10-3 〈1925-1930〉進化と巨大化―合金の進化と鉄鋼設備の巨大化
 10-4 〈1930-1935〉理論と摩天楼―科学理論の進歩とステンレス鋼をまとう摩天楼

第11章 金属の運命―戦争に翻弄される金属
 11-1 〈1935-1940〉戦火の足音―金属理論の深化と第二次世界大戦
 11-2 〈1940-1945〉核と新素材―原子核の実験と鋳造技術
 11-3 〈1945-1950〉理解の進歩―金属科学知識の理解と鋳鉄技術の進歩

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