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映画評 劇場版SPY×FAMILY CODE:White🇯🇵

(C)2023「劇場版 SPY×FAMILY」製作委員会 (C)遠藤達哉/集英社

漫画アプリ「少年ジャンプ+」にて連載中の『SPY×FAMILY』を原作とする人気テレビアニメの劇場版となった本作は、ストーリーの軸が定まっておらず、非常に見辛い内容であることが露見された。

西国(ウェスタリス)の凄腕スパイであるロイド・フォージャーのもとに、進行中のオペレーション「梟(ストリクス)」の担当者を変更する指令が届く。一方、アーニャが通うイーデン校では、優勝者に「星(ステラ)」が授与されるという調理実習が実施される。ロイドは現状の任務を継続できるよう交渉する材料にするため、アーニャに星を獲得してもらおうと考える。そこで、ロイドは調理実習の審査員長を務める校長の好物だというフリジス地方の伝統菓子「メレメレ」を作ることをアーニャに提案。一家は本場の味を確かめるべく、フリジス地方へ旅行に出かける。

フォージャー家が旅行に出かける目的は、任務の担当から外れることによって、一家がバラバラになることを防ぐためだ。そのためには、アーニャが星を獲得し、任務を継続するための説得力がある実績を作らなければならない。メレメレを出しているレストランへ行き、メレメレを作るために一から食材を集めようと一家が奮闘するなど、メレメレを軸とするストーリー展開となるはずなのだが、いまいち話の軸になりきれてない。

というのもアーニャが軍に連れ去られてしまう後半の展開に、メレメレがなくても成立してしまうからだ。アーニャがフリジス地方へと移動中の電車の中で、マイクロチップが混ざっているチョコレートを飲み込んでしまい、マイクロチップを狙う軍に連れ去られてしまう。連れ去られたアーニャをロイドとヨルがそれぞれ単独行動にて救出する。アーニャがマイクロチップを飲み込み、連れ去られ、救出されるという一連の展開に、旅行の目的及び一家を繋ぎ止める鍵であるはずのメレメレが重要な役割を担えていない。

ロイドやアーニャが、メレメレの食材を求めている最中に、踏み入れてはいけない領域に踏み入れてしまったことで、悪い奴らに目をつけられ、その一環としてアーニャが連れ去られると言う展開であれば、メレメレを軸にストーリーを展開することは大いに可能となり、まとまりに欠けることはなかった。サボテンという食材が軸となって、一家が振り回されつつも奮闘する『クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃』を参考にするべきであっただろう。

また、一家がバラバラになる要因という点でも軸がブレる。任務から外されることで一家がバラバラになることを防ぐ目的から、アーニャの死を防ぐという目的にストーリーの軸がすり替わっている。アーニャを助けるためにロイドとヨルが奮闘するシーンを見せ場として持ってきている以上、本来旅行の目的であったメレメレの件が蛇足感際立つ。それだけではない。アーニャを救い、国家を救ったとしても、星を獲得できずに担当者交代及び一家解散によって意味のない物になってしまいかねない可能性は残されたままだ。根本の問題は解決されないままクライマックスを迎えるため、安心できない心配事がノイズになってしまう。

さらに、ヨルがロイドが他の女性と浮気をしているという勘違いによって展開されるすれ違いコントも、アーニャが連れ去られる前に誤解が解かれるため、お世辞にもストーリーとしては不必要かつ蛇足感が否めない。ミサエがヒロシの浮気を勘違いしたことが軸となっている『クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン 〜失われたひろし〜』を参考にするべきであろう。

良い点もある。ロイドやヨルのアクションシーンは全編見応えがある。ギャグシーンは、高難易度のギャグの連発で、笑いを誘っただけでなく、クオリティの高さに驚きもした。良いシーンは素晴らしく良いだけに、ストーリーの軸がブレてしまった事による見辛さがあるのは非常に勿体無い。

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