バレンタインを廃止しろ

人から与えられるものを、どんなに自分の好みに合わなくても、それを拒む事も出来ませんでした。

太宰治『人間失格』より

バレンタインを廃止すべきである。アレは実に、愚かな風習だ。人間は愚かなので愚かな風習も続く、そう言われればそれまでだが、しかし、それにしても愚かすぎる。

バレンタインを否定すると、「自分がチョコレイトを貰えないからって、卑屈になるんじゃあない」などと言われる。黙れ。俺は、チョコレイトが貰えないからバレンタインを廃止しろ、と言いたいのではない。チョコレイトを受け取らなければならないから、バレンタインを廃止しろと言うのだ。（俺がモテるという意味ではない。）

また、バレンタインに否定的な人間に多い意見として、「製菓会社の策略に乗せられている奴らは、馬鹿みたいだね」といった類のものがある。俺の主張は、そんな類のものではない。製菓会社の策略なんて、どうでもいい。そんな、くだらないことではない。

バレンタインのもともとの起源だとか、チョコレイトを渡すようになったのはいつの時代からだとか、そもそも海外では男が女にだとか、そんなこともどうでもいい。俺は、今日の日本で一般的に行われている、女が男にチョコレイトを渡すイベント、および、そこから派生したアレコレが、とにかく忌まわしいのだ。

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まず、「2月14日に女が好きな男にチョコレイトを渡して想いを伝え、3月14日に男がお返しの品と共に返答する」という風習、これが実に傲慢だ。ここまで露骨にお返しがある前提で贈り物なんてするものではない（本人にお返しを貰う意思が無くとも、お返しがある風習になっている以上、受け取った側はお返しをするしかないのである）。しかも、想いを伝えたその返答の期日を、何も言わなくても指定できる。これが、傲慢でなければなんなのだ。

渡すものがチョコレイトと決まっているところも、酷い。全ての人間が、チョコレイトを好きだと思っているのか？チョコレイトを渡された人は、チョコレイトが嫌いであっても、受け取らざるをえない。そもそも、贈り物というのは、相手とある程度親しくなり、相手が何を渡せば喜ぶかを想像できるようになってから行うべきである。その想像をせずに、脳死でチョコレイトを渡すなんてことは、極めて傲慢だ。

それらしいイベントを行うのであれば、せめて「2月14日に好きな人に何かしらの贈り物をして想いを伝え、翌年の2月14日までに相手からお返しの品と共に返答する」くらいのものだろう。製菓会社の懐を温めたいのであれば、せめて「チョコレイトを食べて勇気を出して好きな人に想いを伝える日」にするべきだ。考えなおせ。

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さて、この「女が好きな男にチョコレイトを渡して想いを伝える」風習から派生して、様々な風習が生まれている。これらも、害悪なものばかりだ。

「義理チョコ」というものがある。女が、身近にいる男に、好きというわけではないが、チョコレイトを渡すのだ。これが行われる理由は、いくつかある。本命チョコレイトのカモフラァジュであったり、あるいは「いつもお世話になってます」といったメッセェジ性のものだ。いずれの場合も、前項で述べた通りの傲慢さがある。

「義理チョコ」が会社などの職場で行われる様は見ていられない。立場が、より上の人間に渡されるチョコレイトはより豪華になり、より下の人間に渡されるチョコレイトは質素になる。「いつもお世話になってます」などと言い、年配の役職者にチョコレイトを渡すが、俺は、お前がその役職者に世話してもらっているのを、見たことが無い。滑稽だ。チョコレイトを受け取る男にも、ロクでもない奴がいる。「Aさんはチョコレイトをくれたが、Bさんはくれなかった」などと話しているのだ。これが、管理職の人間であれば、チョコレイトを渡すか否かで、仕事の評価にもつながりかねない。下衆の極みである。くたばれ。

学校で「義理チョコ」が行われている様も、おぞましい。こんなのをやっているのは、大抵、カァスト上位の女子である。奴らは、好きな人がいなくても、チョコレイトを配る。（しかも、手作りのものを。）男子からの人気が、カァストランクに直結するからだ。そんなことにも気付かず、男子どもは「Ａちゃんのチョコレイトは美味しいね」などと言う。カァスト下位の男子は、チョコレイトが嫌いでも、配られるチョコレイトを、拒否することはできない。拒否しようものなら、カァスト上位の男子から「Ａちゃんがせっかく作ってくれたのだぞ。なんだお前、照れてるのか」などと、囃し立てられる。不愉快極まりない。爆ぜろ。

「友チョコ」などというものもある。これは学校で、女子が女子どうしでチョコレイトを渡しあうのだ。これはもう、一種の呪いだ。自分が男で良かった、心底そう思う。なぜ、1年に1回、わざわざチョコの交換会をせねばならないのか。ほぼ、クラスの全員と交換している。仲のいい数人とならまだしも、さほど中のよくない人間に、なぜチョコを渡さねばならないのか。それ以上に恐ろしいのが、大して仲の良くない、素人が作った、チョコレイトを食べなければならないことだ。かわいそうに。

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以上のように、今日の日本で行われている、バレンタインの風習は、害悪で、傲慢で、不愉快で、かわいそうなものである。早急に廃止するべきだ。

この文を読んだ諸君らは、バレンタインなど行わずに、粛々と、バレンタインさえ無ければ完璧な月である、如月を楽しもうではないか。

それでは。