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不思議な札幌でのある体験~目覚めたときにホテルに残る彼女の香水の香り~中国の古典や映画も交えてコナン君ばりの推理~A説からD説まで

このところ、自分の胸に残っている不思議なエピソードです。恐怖話ではないので、安心してお読みください。名探偵コナン君ばり(?)の推理も入れました。


札幌へ出張した最後の夜は、業務を終えて、ゆっくりと楽しめる時間。会社時代の同僚と合流し、久しぶりの飲み会。少し酔いながら気持ちよく会話ができた。横に座った方とも盛り上がったりもした。でも、やや疲れていることもあるので、1次会で帰り、すぐにホテルで寝た。

東京へ帰り、ノートを開いてみると、女性の名前とメールアドレスがノートの右面に右肩上がりで書いてある。自分の字ではない。この記憶はまったくない。記憶はないのに、「あのときはどうも、楽しい会話でした」と送信するのも調子がいい。

元同僚へ電話をしてみる。

「札幌ではどうも」

「久しぶりに楽しく飲めたよ。少し酔ってたようだけれど、大丈夫だったか?」

「ああ。ちょっと聞きたいんだけれど、お前の左横に座っていた横の男女と盛り上がって一緒に話しただろう」

「ああ。スキー場の話で盛り上がっていたら、横の女性がその話に加わってきたんだ」

「会社の上司と部下だったよな」

「そう」

「これは、俺もよく覚えているんだ。俺の右隣に女性が座っているのもうっすらと覚えているんだけれど、記憶にあるか?」

「えっ、お前の右隣に? いや誰もいなかったよ」

「こわっ」

「なんだよ、大きな声出して」

「いや、いたって!」

自分は酔ってはいたが、右隣の女性と話していた記憶がある。ほぼ間違いない。ただ、内容は全く覚えていない。彼女が自分のノートにアドレスを書いた記憶もない。誰もいなかった、と言われては怖すぎる。

自分のノートの右隅に女性のアドレスが書いてあったことを彼に説明。

「えー! そうだったのか。左の会社員女性ではないと思う。上司と来ていたし、そんなことをしていた記憶もないしな」

「たぶん右隣に女性が座っていたんだって! お前が自分のすぐ左のカップルと話すのに夢中で気づかなかったんだよ」

「そうかな。たしかに右の女性がお前より小柄だったとしたら、お前の陰に隠れて見えなかったかもしれない。でも右側には誰もいなかった気がするけど」

「俺、バーで逆ナンされたことがあって」

「なに、そのモテ自慢」

「いや、自慢したいんじゃなくて、その方は別な席に座っていたけれど、自分を見かけて隣に座ってきたんだ」

「一瞬、横に座って声をかけてきたと」

「そう」

「いや、あそこは居酒屋だし、入った時に席を指定するところだから、そんなことはしないだろう。それに俺がその行為に気づいていないのもおかしい」

話が怖い方向にいきかけたところで別な内容に。

ノートに現実にアドレスが書いてあるのだから、その女性が存在しているのは間違いない。ただ、その女性と話した記憶はうっすらと覚えているが、内容は覚えていないし、顔も記憶がないのが不思議である。

ただ、自分のノートに書かせているのだから、話が盛り上がったはず。そうでなければ、自分がトイレなどで席を外しているときにその女性が勝手に記入したのか? いや、それは考えずらい。

ハードボイルド小説では、見知らぬ女性のアドレスへは絶対に連絡すべきではないというストーリー展開になる。だが、これはハードボイルドではないし、それに反した展開に身を委ねてもいいだろう。次に札幌へ行く直前に思い切ってメールを出してみた。話の内容を覚えていないので、中身を小出しにしながら

「覚えていますか。札幌の居酒屋Gでご一緒した際は、楽しく過ごすことができました」という感じで。

やはり、右隣に座っていたようだ。自分のことを「少し酔われていた気がします」とも書いてある。

札幌で合うべきか少し迷う。顔の記憶がまったくないから。でもアドレスをノートに書かせているのだから、魅力的な女性の気もする。自分が酔っているときに、勝手に記入したか聞くのも失礼だろうし、自分の感性に合わなければ20分くらいで別れることも想定して、夕方に軽く喫茶店で会うことにする。

女性と喫茶店でお会いする。スマホを忘れたので、メールで予定変更の連絡が来たらどうしようかと思ったと笑いながら話していたのを覚えている。その後、市内のイタリアンへ。そこでも楽しく話ができた。メールアドレスだけ書いたのは理由があるようだ。会社の上司で彼女にご執心の方がおり、しつこく電話をかけてくる。電話の音が鳴るとびくっとするとのこと。近いうちのスマホを買い替える計画があり、それを機に電話番号も変えたいのだと。

この辺りは記憶が鮮明にあるのだが、途中から雲がかかったように記憶があいまいになる。不思議なことに彼女の顔の記憶もほとんどない。自分は泥酔する方ではないが、そんなに酔ってしまったのか。彼女も同じように飲んでいたはずだが、お酒に強いのか。2次会に行った気もするが覚えていない。

はっと気が付いた時はホテルのベッドの上。酔いながらも無事にホテルへ戻れたのか。途中からまったく記憶がない。ふと香水の香りに気づく。ここで一緒に飲んだのか? スーツの上着が丁寧にかけられている。この掛け方は自分ではない。テレビのリモコンが縁に直角に置いてあるのも自分ではない気がする。ただ、テーブルを見ると、自分のビール缶だけ。状況としては、一人で部屋に戻ってビールを飲んだと考えるのが自然。

寝る前に歯を磨こうと洗面所に行くと、香水の強い香り。彼女がここにいたことを確信。でも何か行為をしたことはないはず。それを忘れることは絶対にないと断言できる。ワイシャツの上のボタンは外れ、適度に乱れてはいるが、これはベッドの上に横たわっていたからと思われる。

でもどうして、また彼女の記憶がほとんどないのか。顔も忘れてしまうほど飲んだのだろうか。このときは、酔っていたし、彼女が戻ってくる気配もないのでそのまま寝てしまった。

翌日、会社の元同僚へ電話。

「えっ、彼女に会ったのか?」

「喫茶店で待ち合わせて」

「きれいな人だったか?」

「いや、よく覚えてなくて」

「えーっ、酔っぱらったのか?」

「喫茶店の後、イタリアンに行ったから魅力的な方だったとは思う」

「でも顔は、もはやはっきりしていないと」

「いや、そのときははっきり覚えていないけれど、急速に薄れていくというか」

ここで、かなりの間があり

「俺が思うに、その人は・・・」

「うん(ゴクリ)」

「存在していなんだよ」

「こわっ。そんなことないって」

「正確に言うと、お前の心の中だけに存在している」

「こわこわ。いや実際に会ってるって」

「ブラッド・ピット主演の『ファイトクラブ』という映画があるだろう。それに通じる」

「えーっ。相手がいるつもりで妄想していたと?」

「最初に会ったという時にも少し酔っていたし、一瞬、眠っていてストーリーを頭の中だけで展開していたんじゃないかな」

「ふっと寝入った一瞬に? それはないって。かすかだけれど30分くらい話していた記憶がある」

「古代中国に『邯鄲(かんたん)の夢』というエピソードがある」

「あー、荘子の!」

「いや、それは胡蝶の夢。よく混同されるけれど、少し違う」

「・・・それは失礼」

「盧生(ろせい)がうたた寝をする間に、50余年間の夢を見たんだ。夢から覚めてみると、宿の亭主が炊いていた粟がまだできあがっていないほど短い瞬間だったという話」

「・・・」

彼は中国文学科の出身なのである。

「あるいは、ここ北海道もわずかに舞台になっているロバート・ゼメキス監督、ジョディ・フォスター主演の映画『コンタクト』では一瞬と見える事故の瞬間に18時間の録画ノイズがあったんだ。一瞬の間に実は飛行士、あるいは飛行士の思考は遥か宇宙まで航行して宇宙人に遭遇していたんだ」

「・・・」

彼は映画マニアでもある。

「別人格が一人の女性を生み出していたって? 怖すぎるよ」

「ごめん、いや可能性を指摘しただけだよ。ただ・・・」

「ただ?」

「この説の弱い点は、メールで会話していることだな」

「別な人格がアドレスを開設していて、それを忘れて、そこへ本人格がメールを出して、人格がコロコロ入れ替わって、やり取りをするなんてないだろう」

「人格が別なんだから忘れるというのは少し違うけれどな。ただ、そういう事例があるかは俺もわからない」【これがA説】←でもなー、これはどうかな?

こう言われっぱなしでは怖いので、自分も考えてみた。

彼女と喧嘩をしている可能性もあるかもとも思い、すぐにはメールを出さなかったが、10日後に思い切って出してみた。するとメールのあて先不明で戻ってくる。スマホを変えると言っていたことを思い出す。電話番号はわからない。彼女もこちらの電話番号は知らない。連絡手段は途絶えてしまった。

なので自分が書いていることも推測ということになる。記憶がかなり薄くこのときだったか、確証はないのだが、ホテルのドアを開けて彼女を送り出した気もする。喧嘩をしているわけではない。彼女は買い物をしてすぐ戻ると言っていたような。彼女が必要とするもの、化粧品かソフトドリンクだったのではないだろうか。コンビニはホテルから3分ほど。10分程度で戻れるはず。これと似た話が佐藤正午にあったと検索すると出てきた。うわ、結構シチュエーションが似ている。彼女は小説マニアでこれと同じことをして、相手が気づくか試している? いや、まさか。それに失踪というほどでもない。

  

   佐藤正午『ジャンプ』(光文社文庫)内容 光文社HPより(https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334733865)

その夜、「僕」は、奇妙な名前の強烈なカクテルを飲んだ。ガールフレンドの南雲みはるは、酩酊した「僕」を自分のアパートに残したまま、明日の朝食のリンゴを買いに出かけた。「五分で戻ってくるわ」と笑顔を見せて。しかし、彼女はそのまま姿を消してしまった。「僕」は、わずかな手がかりを元に行方を探し始めた。失踪をテーマに現代女性の「意志」を描き、絶賛を呼んだ傑作。


これは結構切ない話。

彼女も「すぐ戻る」と言っていた気がする。発端は同じ。ここから推測だが、彼女には大事な約束、あるいは何らかの事情が生じて、ホテルへ戻らずに帰った。彼女にとっては急用だったのだが、結果的に無断で帰ったことになり、自分が怒っていることを恐れて、以降の連絡もできなかった【B1説】

コンビニはホテルから3分ほどで、遠くはないが、直線ではなく、2度曲がらなければならない。場所がわからなくなったのではないだろうか。実は、自分にもこの経験がある。コンビニからの帰りに方角を間違えて、ホテルを見失った。ホテルの名前もうろ覚えで、104に記憶しているホテル名を告げても「ありません」と言われるばかり。このときは、メールでホテルの予約確認を検索して事なきを得た。彼女も酔っていたと思われ、自分の経験上からも可能性はある。スマホも持っていなかったのだから連絡のしようもない。【B2説】

ホテルへ戻って部屋をノックしたが、自分が泥酔していて音に気付かず、彼女が怒って帰ってしまった。【B3説】 ただ、熟睡しているときでも音には敏感なので、これはないと思っているのだが

自分が不思議に思っていることとして、彼女と合った2回とも酔って記憶がおぼろげなこと。だからA説も唱えられる原因ともなっている。彼女に対して悪い気はするが可能性の一つとして(違うとは思っていますが)彼女は詐欺師であり、自分を酔わせて寝入ったすきに財布を抜き取ろうと考えていた。一緒に飲む相手が酒をどんどんと飲んでいるとそれに対応して酒も進むもの。ところが彼女の酒は弱いものであり(あるいは飲んでいるふりをして)自分だけが深酒をしていたとか。でも盗み出す隙がないので、あきらめて帰った(実際に盗まれたものはない)【C説】自分は異性に対したときは、酔うほど飲まないようにしている。彼女と飲んだ2回がいずれも記憶が薄いというのは自分でも不思議なのである。こちらを酔わせようとしていたのだろうか。

自分はそれほど泥酔する方ではない。ただ、過去にも、何度か会っていながら、会話の内容が思い出せない方もいたりする。それも同じ人で。会話の内容が薄いというものではない。そう思うのはその人に対しても失礼な気がする。相性のようなものがあるのではないだろうか。

もう相手には連絡ができないもののB1~B3説の中に真実がある気がしているのだが。

追伸  彼女が記入したと思われる名前とメールアドレスの横に「!」とマークが付けられていた。これは、最初に自分が発見したときにはなかった。自分が書いたものではないはず。ホテルで彼女が書き加えたものであることはほぼ間違いない。(別人格が書いたものでなければ・・・って考えるだけで怖いな)自分が酔っているのを見て、これ以上の進展は不可能と思って部屋を出る。起きているときに今夜のことを忘れている可能性もあると考え、自分がいた証を残そうとした。【D説】ありそうでもある。でもなぜ言葉でなく、「!」と判じ物のような記号だけ残して去るのか

#ブラッド・ピット #ファイトクラブ #荘子 #邯鄲の夢 #胡蝶の夢 #佐藤正午 #光文社文庫  

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