パートナー?同志?師匠?デザイナーと編集者の関係性
本づくりにデザイナーの存在はかかせません。
持っていたいと思わせる装丁、わかりやすいページレイアウトには必ずデザイナーの創意工夫が込められています。でも、今回お話ししたいのはデザインの話ではありません。編集者のパートナーとしてのデザイナーの存在です。
こんにちは、高橋ピクトです。
編集の仕事を始めてから、デザイナーさんには学びっぱなしです。
編集者とデザイナーの関係性
私は、本の中でも実用書を作っています。
たとえば、健康、スポーツ、アウトドアのようなジャンルの本です。
文章だけでなく、写真やイラスト、マンガなど多岐にわたる要素を扱いますので、デザイナーによる「情報を見栄えよく見せる力」は欠かせません。
デザイナーさんにお願いするのは、装丁(カバーや表紙など本の外見)、ページのデザイン。
デザインを発注するのは、簡単ではありません。
本のコンセプト、読者層、販売する場所、本の内容、どんなふうに使うか、など様々な情報を共有して、良いものを作るためのコミュニケーションをとります。
そのコミュニケーションで生まれるのは、さまざまな関係性です。
一言でいうとパートナー。でも、それは一様ではありません。
編集者にとって、良き理解者でもあり、同じ志をもった仲間であり、厳しい師匠でもあります。
企画に客観的な意見をくれる
まず、デザイナーに仕事をお願いする際には、企画書やサンプル原稿、イラスト、手書きのラフレイアウトなどをもって打ち合わせを行います。
そこで本のコンセプトを伝えるわけですが、参考になるのがデザイナーの客観的な意見。
出版企画は、編集者、著者、出版社との間で作り上げるものですから、ときに偏ったものになることもあります(逆に丸く小さくまとまることも)。
デザイナーから
「面白い!」「新しい!」「これは意義のあるいい企画ですね!」
「確かに、私も気になっていたテーマです」
「こういう本、これまでにないですよね!」
というコメントが出れば、一安心。話を広げていくことで自然と読者に必要な本ができていきます。
一方で、
「企画書のこの部分はどういう意味ですか?
矛盾してるようにも見えるけど…」
「類書が多いですから、どう差別化しましょうか」
「著者さんのメッセージ、もっと強めてもいいんじゃないですか?」
というような、編集者にとって痛いところを突いてくることもあります。
でも、デザイナーからの客観性のある意見はとてもありがたいこと。
なぜなら、よいものを作ろうとする気持ちがあるからです。
ここで大事なのは企画を否定されたと思わないことです。
「そんなことない!」と反論するよりは、企画の経緯や、著者の想い、出版社の意図を丁寧に話して、ひとつの方向を向いて一緒に創意工夫をする関係性を作るのが大事です。
本づくりを教えてくれる
主に本文のデザインを進める際には、デザイナーとのやり取りが密になります。編集者からデザイナーに原稿やイラスト、写真を渡し、デザインしてもらうのですが、そこで出てくるのが、デザイナーからの質問や内容に対する意見です。
編集者がつくるラフレイアウトにしたがって、文章や写真を配置していくのですが、要素が多いので「これはどこに置くの?」「写真が足りないよ」といった質問が出てくるのです。
編集者の経験が浅いと、このやり取りは増えます。
デザイナーは編集者のアドバイザーです。ときには師匠のような存在になることもあります(出版社でも、編プロでも、編集の仕事は教えることが難しいので、現場でスタッフから学ぶことが多いのですが、中でも本の制作開始から校了直前までと付き合いが長いデザイナーからは学ぶことが多いといえます)。
「テキストデータはこんなふうにまとめるとデザイナーが仕事しやすいよ」
「著者さんの赤字が二転三転してますけど、大丈夫ですか…?」
装丁のデザインの際には
「そのコピーは誰に向けて言ってますか?
読者ならいいけど、著者や版元になってない?」
「“幅広く”なんて読者ターゲットじゃデザインできないから、
具体的に絞りましょう」
などなど。
歴戦のデザイナーさんからは、編集者は学ぶことばかりだと思います。
もっとも印象に残っているのは、アウトドアの本をつくっているとき。
デザイナーに原稿とラフを渡したところ、原稿にいくつか不備があったことがわかりました。そこで「アウトドアはレジャーだけど、命が危険にさらされる可能性ある遊び。こんないい加減な原稿じゃデザインできない」と言われました。
原稿を見直すと、確かにぬけがあり、イラスト図解もわかりづらかったのです。デザイナーは編集者の仕事を見ている。そして意見を伝えてくれる。
編集者の仕事は、この志に支えられています。
編集者としての個性を見極めてくれる
実は、編集者は自分が何者かわかっていません。
どういう長所があり、どんな編集者なのか、気づくことができていません。
なぜなら、他者から評価されることがあまりないからです。
そんな中で、デザイナーとの何気ない会話に出る編集者の評価は貴重だと思っています。以下、私が聞いたことがある一言をご紹介します(私のことではありません)。
「ほんと、~さんって粘りの編集者だよね!」
「みんなの気を遣って疲れちゃうでしょう!?しっかり休んでくださいね」
「こんなに詳細なラフは見たことがない!」
「最近のキャッチコピー、キレキレですね~」
「~さんの企画は面白んだけど、、、スケジュール管理しっかり!」
「~さんはたまに何言ってるかわからへんけど、一生懸命だから全部ゆるせるわ」
「控えめに言って、変人だよね笑」
デザイナーは、たくさんの編集者を見てきていますから、何気ない一言でも本質をとらえています。言われてうれしいことも、痛いことも、ありがたく受け止めましょう。
ちなみにこの一言、編集者としての経験が浅いときには、道しるべにもなるほどの影響があります。
私は、編集者として自分が何者かわからない頃に、あるデザイナーから「気骨ある編集者だ」といわれことがきっかけに、仕事への取り組み方が変わりました。
淡々と本を作り続けていた自分にも骨があったんだ、そう気づかされました。このままでいいんだという安心感は、その後の振り切った企画につながったと感じています。
編集者の生き方を変えるほど大きなデザイナーの存在のお話でした。
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文 高橋ピクト
生活実用書の編集者。『新しい腸の教科書』『コリと痛みの地図帳』などの健康書を中心に担当。「生活は冒険」がモットーで、楽しく生活することが趣味。ペンネームは街中のピクトグラムが好きなので。最近、デザイナーさんと会って打ち合わせをする機会が減っているので、さみしいです。
Twitter @rytk84
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