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ふんどし編集者

女性誌の編集部と言うと、華やかな世界をイメージするかもしれない。
しかし、決してそんなことはない。
時には、ふんどし一丁で峻厳な峡谷を行かねばならない、過酷な世界である。

今回は、私が『婦人公論』編集部に在籍していた時のエピソードをご紹介します。

『婦人公論』での体当たりルポ

『婦人公論』は大正5(1916)年に創刊した、なんと100年以上もの歴史を持つ女性誌である。

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そんな『婦人公論』2017年9月12日号の特集は「あなたの悩みグセ、直せます」。
その特集内で、悩みを一発で吹き飛ばす方法として、「滝行」を紹介することに。
というわけで、ベテランのライター・武香織(たけ・かおり)さん、そして社内のカメラマンとともに、都内の奥地へ取材に行ってきました。

駅で今回の滝行を指導してくれる宮司さんと落ち合うと、そこからさらに1時間、車で山道を行きます。
しかし道中、雨が。
撮影できるか心配になってきましたが、目的地に着くころには幸い雨もやみました。

滝へ入るべく、男性の私はふんどし、女性の武さんは白装束に着替えます。
ところが先ほどの雨で、滝はとんでもない水量、そして濁流になっていました。
こんなところに、本当に入れるのだろうか……。

いざ、滝へ!(塚B編)

実際に記事を書くのはライターの武さんですが、年長の女性にいきなり
「では、滝に入ってきてください」
というわけにもいきません。
まずは、私がやってみることに。
濡れて滑りやすい岩場を通り、意を決して滝へ入ると……

痛い!
息が出来ないっ。
苦しい!

あまりの水圧に、全身を殴られているかのよう。
いまにも押し流される、というより、吹き飛ばされそうです。
それでもなんとか、宮司さんに教わったように
「払いたまえ! 清めたまえ!」
と数回唱え、
「ええいっ‼」
と叫びます。

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塚B渾身の気合!

ちなみに、この写真を見ると
「いや、もっと滝の奥まで入れよ」
とツッコミたくなるかもしれません。
実際には奥まできちんと入ったのですが、そうするとあまりの水量に私の姿が隠れてしまい、撮影できないのです。

いざ、滝へ!(武さん編)

何とか成し遂げ、武さんの元へ。
私は彼女に確認しました。
「本当にやれますか? これ、私でもかなりキツかったですよ」
と。
武さんは、私より小柄で線も細い。
しかし彼女は躊躇なく、
「全然大丈夫よ」
と応えます。
そして、滝のなかへ。結果は……

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あまりの水圧に押し出されてしまい、入ることができませんでした。
こればかりは、気合いでどうにかなる問題ではありませんでした(笑)。

ライターさんのプロ根性

さすがにこの水量では危険と判断し、宮司さんの案内で、座ってできるポイントへ移動。
無事、成功しました。

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座っているとはいえ、ご覧の水量、そして濁流です。
水温も低い。
しかも、誌面用に何カットも撮ったため、武さんには数分間、この状態をキープしてもらいました。
かなりキツかったと思います。


というわけで、撮影は終了。
私も武さんも、全身ビッショビショです。
しかし、取材はこれで終わりではありません。
「体験ルポ」なので、ここで感じたことを語りつつ、その意義や効能などについて、宮司さんにインタビューしなくてはなりません。


ところが、滝に打たれた疲労と、撮影を終えた安心感で私の集中力は切れてしまい……
「え、ええと……あれ? 何を聞くんでしたっけ」
と、頭が真っ白に。
一方の武さんは、
「大丈夫、私が聞くから」
と、インタビューもバッチリこなしてくださいました。
武さん、本当にありがとうございました……!


ちなみに、私がふんどしを履いたのは、後にも先にも、この時だけです。
(文/塚B、写真/中央公論新社)

シュッパン前夜 Twitter @Shuppan_Zenya


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